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『隣にいるのは』(SIDE 雫)
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「仕事でしばらく留守にするから、家のこと頼むね。泰莉も多分・・数日戻らないと思うから。」
そう言って出て行った弥弦さんの様子が、表面的にはいつもと同じようだけれど全然違うことに俺はすぐ気がついた。
彼は自由奔放で他人のことを気にせず、自分本位で生きている。
そんな風に見えるけれど、実際は全然違う。
弥弦さんからはいつも、深い悲しみと諦め、孤独を感じる。
めちゃくちゃに振り回されながらも泰莉君が彼から離れることが出来ないのは、彼のそんな弱さを本能で感じ取っているからなんだろう。
泰莉君は優しいから。
どんな酷い目にあったとしても、彼に縋り付かれたらきっと別れることが出来ない。
自分の恋愛問題を放棄しているくせに、偉そうに人の分析なんてしている場合じゃなかった。
仕事帰り、本屋で買い物している巧を待ってショーウィンドウを眺めていると、偶然泰莉君を見かけた。
遠目から見てもはっきりと彼だとわかる。
体格が良くて手足が長い、顔が小さくてかっこよくて、俺とは生きる世界が違う人だと初めて思う。
「小城元、お前痩せたんじゃね?俺の服全然サイズ合ってねえし、着替え取ってこいよ。」
「お前がデカ過ぎんだよ、筋肉バカ。」
一緒にいるのは友人だろうか。ラフな服装で気だるそうに歩く彼らは、親密さがわかる距離感で肩を並べている。
どういうわけか俺は、見てはいけないものを目撃してしまった気分になった。
「鮫島、なんか食って帰るか?」
「いや、晩飯もう仕込んであるからまっすぐ帰ろうぜ。」
「お前、見かけによらず料理うまいよな。肉ばっかだけど。」
「うるせぇよ。いいから黙って餌付けされとけ。」
昨晩家に帰ってこなかった彼が、寂しい思いをしていなかったことに心底安心する。
それと同時に胸の奥にジワリと鈍い痛みが広がっていった。
泰莉君が辛い時、隣にいるのは自分でありたいと思っていたことに気が付く。
彼の全てを知っているわけでもないし、知り合って間もない間柄なのに、どうして彼が自分を頼ってくれるなんて思ったのだろう。
「雫?どうした?」
「ううん、なんでもない。帰ろう。」
今まで築き上げてきた関係性を、丸ごと土台から崩して何も無かったことにするのは、とても勇気がいることだ。
巧と並んで歩く帰り道。
俺たちがピタリと嵌る瞬間はもう2度と来ないだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、俺たちはいつも通りの帰路についた。
そう言って出て行った弥弦さんの様子が、表面的にはいつもと同じようだけれど全然違うことに俺はすぐ気がついた。
彼は自由奔放で他人のことを気にせず、自分本位で生きている。
そんな風に見えるけれど、実際は全然違う。
弥弦さんからはいつも、深い悲しみと諦め、孤独を感じる。
めちゃくちゃに振り回されながらも泰莉君が彼から離れることが出来ないのは、彼のそんな弱さを本能で感じ取っているからなんだろう。
泰莉君は優しいから。
どんな酷い目にあったとしても、彼に縋り付かれたらきっと別れることが出来ない。
自分の恋愛問題を放棄しているくせに、偉そうに人の分析なんてしている場合じゃなかった。
仕事帰り、本屋で買い物している巧を待ってショーウィンドウを眺めていると、偶然泰莉君を見かけた。
遠目から見てもはっきりと彼だとわかる。
体格が良くて手足が長い、顔が小さくてかっこよくて、俺とは生きる世界が違う人だと初めて思う。
「小城元、お前痩せたんじゃね?俺の服全然サイズ合ってねえし、着替え取ってこいよ。」
「お前がデカ過ぎんだよ、筋肉バカ。」
一緒にいるのは友人だろうか。ラフな服装で気だるそうに歩く彼らは、親密さがわかる距離感で肩を並べている。
どういうわけか俺は、見てはいけないものを目撃してしまった気分になった。
「鮫島、なんか食って帰るか?」
「いや、晩飯もう仕込んであるからまっすぐ帰ろうぜ。」
「お前、見かけによらず料理うまいよな。肉ばっかだけど。」
「うるせぇよ。いいから黙って餌付けされとけ。」
昨晩家に帰ってこなかった彼が、寂しい思いをしていなかったことに心底安心する。
それと同時に胸の奥にジワリと鈍い痛みが広がっていった。
泰莉君が辛い時、隣にいるのは自分でありたいと思っていたことに気が付く。
彼の全てを知っているわけでもないし、知り合って間もない間柄なのに、どうして彼が自分を頼ってくれるなんて思ったのだろう。
「雫?どうした?」
「ううん、なんでもない。帰ろう。」
今まで築き上げてきた関係性を、丸ごと土台から崩して何も無かったことにするのは、とても勇気がいることだ。
巧と並んで歩く帰り道。
俺たちがピタリと嵌る瞬間はもう2度と来ないだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、俺たちはいつも通りの帰路についた。
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