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『癒し』(SIDE 泰莉)
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弥弦さんが不在だとわかっている夜は、安心して家に帰れる。
(俺たち・・・もう終わってるよな・・・)
もう終わっているとわかっていても、完全に断ち切る覚悟ができない。
そんな自分が大嫌いで自己嫌悪を繰り返す。最近の俺は完全に負のループにハマっている。
「泰莉君、お帰りなさい。」
玄関で遭遇した雫さんの表情にほんの少しのよそよそしさを感じ取って、胸がざわついた。
巧さんと何かあったのだろうか?それとも・・・なんて、一瞬で頭がフル回転する。
「雫さん、一人?」
「巧は残業。球技大会が近いから、準備が大変みたいで。」
沈んだ顔をしているのはそのせいか。
なんだかんだあったとしても、長年の恋愛関係をそう簡単に断ち切ることは出来ない。
一緒に暮らす間柄なら、尚更だ。
「晩御飯、食べた?」
「食ってきた。」
家に帰ってきて雫さんの顔を見ると安心する。
弥弦さんとの関係がゴタゴタすればするほど、俺は雫さんに癒されている事実を自覚せざるを得なかった。
「ケーキ買ってきたんだけど、一緒に食べない?」
雫さんの誘いに乗って、彼のためにコーヒーを淹れる。
弥弦さんに最上級のコーヒーを淹れるためだけに、本格的な道具を買って猛勉強したあの頃が懐かしい。
「モンブランとショートケーキ、どっちが好き?」
「モンブラン。わかってて買ってくれたんじゃねぇの?」
雫さんが俺と一緒に食べようと買ってきたのだとすぐにわかった。
巧さんは甘いものを食べない。
「泰莉君はモンブラン好きだもんね。俺がショートケーキ好きって知ってた?」
甘えるような口調で俺を見上げる彼の態度に、グッとくる。
俺は人肌に飢えているのだ。ただそれだけだと何度も言い聞かせて目をそらす。
「知ってる。前にカフェで食ってただろ。」
「泰莉君って、俺のことちゃんと見てくれてるよね。」
「雫さんこそ、」
コーヒーを淹れたマグカップを手渡すと、彼の手が俺の手に重なったままピタリと動きを止めた。
「雫・・・さん、」
俺を見上げる彼の瞳が、甘く潤んでいる。
ガタン、と扉が開く音がして振り返ると、今夜は帰ってこないはずの弥弦さんが俺を睨みつけていた。
(俺たち・・・もう終わってるよな・・・)
もう終わっているとわかっていても、完全に断ち切る覚悟ができない。
そんな自分が大嫌いで自己嫌悪を繰り返す。最近の俺は完全に負のループにハマっている。
「泰莉君、お帰りなさい。」
玄関で遭遇した雫さんの表情にほんの少しのよそよそしさを感じ取って、胸がざわついた。
巧さんと何かあったのだろうか?それとも・・・なんて、一瞬で頭がフル回転する。
「雫さん、一人?」
「巧は残業。球技大会が近いから、準備が大変みたいで。」
沈んだ顔をしているのはそのせいか。
なんだかんだあったとしても、長年の恋愛関係をそう簡単に断ち切ることは出来ない。
一緒に暮らす間柄なら、尚更だ。
「晩御飯、食べた?」
「食ってきた。」
家に帰ってきて雫さんの顔を見ると安心する。
弥弦さんとの関係がゴタゴタすればするほど、俺は雫さんに癒されている事実を自覚せざるを得なかった。
「ケーキ買ってきたんだけど、一緒に食べない?」
雫さんの誘いに乗って、彼のためにコーヒーを淹れる。
弥弦さんに最上級のコーヒーを淹れるためだけに、本格的な道具を買って猛勉強したあの頃が懐かしい。
「モンブランとショートケーキ、どっちが好き?」
「モンブラン。わかってて買ってくれたんじゃねぇの?」
雫さんが俺と一緒に食べようと買ってきたのだとすぐにわかった。
巧さんは甘いものを食べない。
「泰莉君はモンブラン好きだもんね。俺がショートケーキ好きって知ってた?」
甘えるような口調で俺を見上げる彼の態度に、グッとくる。
俺は人肌に飢えているのだ。ただそれだけだと何度も言い聞かせて目をそらす。
「知ってる。前にカフェで食ってただろ。」
「泰莉君って、俺のことちゃんと見てくれてるよね。」
「雫さんこそ、」
コーヒーを淹れたマグカップを手渡すと、彼の手が俺の手に重なったままピタリと動きを止めた。
「雫・・・さん、」
俺を見上げる彼の瞳が、甘く潤んでいる。
ガタン、と扉が開く音がして振り返ると、今夜は帰ってこないはずの弥弦さんが俺を睨みつけていた。
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