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『欲望』(SIDE 雫)
しおりを挟むシェアハウスでの毎日にもようやく慣れた、ある日曜日。
ようやく夏が終わり、朝晩の空気はひんやりと秋の気配を感じさせるものに変わっていった。
毎朝、庭のお花たちに水やりするのが俺の仕事。
花壇にはたくさんのお花が植えられていて、力一杯限られた生命を全うしている姿に俺は何度だって感動する。
「おはよ、雫さん。」
「泰莉君、おはよう。珍しいね、この時間にまだ家にいるの。」
庭に出て花を見ていると、リビングの窓が開いて泰莉君が外に出てきた。
寝起きのスエット姿で、髪はボサボサ。無防備な彼は、普段より幾分か幼く見える。
「今日は仕事休み。」
「そうなんだ。じゃあゆっくりできるんだね。」
「あ~・・雫さん、暇?カフェでも行かねえ?」
断られることを想定したような顔で俺を見る彼に、胸がキュンと痛む。
留守番させられている子犬みたいな目で、俺の返事を待っている。
「いいよ。俺も外でコーヒーが飲みたい気分なんだ。」
彼の瞳に一瞬だけ、明るい色が灯ったのがわかった。
♢♢♢
(少し寂しがりやで、自分と自分の理想の間に折り合いがついていない・・・)
こんな風に相手を細かく分析するのは、悪い癖だ。
高校教師という職業について長くなると、パッと見ただけで相手がどんな人間か想像できるようになる。
(無条件で人を信じることに、恐怖を感じている。)
昔から心理分析は得意だった。
もっと鈍感だったなら、もう少し幸せに生きられるのに。
「雫さんからは、欲望を感じねえ。」
「え?」
「欲望だよ、欲望。ねぇだろ。」
「俺にだって欲くらいあるよ?」
「どんな。」
「甘いもの食べたいなぁ、って。あ、泰莉君、このパンケーキ半分こして食べようよ。」
泰莉君がどうして俺なんかに興味を持っているのか、最初はわからなかった。
警戒心をむき出しに、近づくなと警告を発しているようだった彼が。
人を信用できないということは、ひどく苦しいことだ。
相手に対する不信感が、正常な思考を乱す。
そして最終的には自分自身を、信用できなくなっていく。
誰かを信用したい。
自分ではない誰かに、身も心も全て預けて眠りたい。
絶対に裏切らないと確信できる誰かに、俺は大丈夫だと言ってもらいたい。
そんな欲望が、俺の中で醜く暴れている。
彼になら、この苦しさがわかると思った。
俺と同じ苦しみを、彼も感じているのがわかったから。
俺たちはあの日、出会った瞬間に、共鳴してしまったのだ。
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