上 下
10 / 53

『欲望』(SIDE 雫)

しおりを挟む

シェアハウスでの毎日にもようやく慣れた、ある日曜日。
ようやく夏が終わり、朝晩の空気はひんやりと秋の気配を感じさせるものに変わっていった。

毎朝、庭のお花たちに水やりするのが俺の仕事。
花壇にはたくさんのお花が植えられていて、力一杯限られた生命を全うしている姿に俺は何度だって感動する。

「おはよ、しずくさん。」

泰莉たいり君、おはよう。珍しいね、この時間にまだ家にいるの。」

庭に出て花を見ていると、リビングの窓が開いて泰莉君が外に出てきた。
寝起きのスエット姿で、髪はボサボサ。無防備な彼は、普段より幾分か幼く見える。

「今日は仕事休み。」

「そうなんだ。じゃあゆっくりできるんだね。」

「あ~・・雫さん、暇?カフェでも行かねえ?」

断られることを想定したような顔で俺を見る彼に、胸がキュンと痛む。
留守番させられている子犬みたいな目で、俺の返事を待っている。

「いいよ。俺も外でコーヒーが飲みたい気分なんだ。」

彼の瞳に一瞬だけ、明るい色が灯ったのがわかった。


♢♢♢

(少し寂しがりやで、自分と自分の理想の間に折り合いがついていない・・・)

こんな風に相手を細かく分析するのは、悪い癖だ。
高校教師という職業について長くなると、パッと見ただけで相手がどんな人間か想像できるようになる。

(無条件で人を信じることに、恐怖を感じている。)

昔から心理分析は得意だった。
もっと鈍感だったなら、もう少し幸せに生きられるのに。


「雫さんからは、欲望を感じねえ。」

「え?」

「欲望だよ、欲望。ねぇだろ。」

「俺にだって欲くらいあるよ?」

「どんな。」

「甘いもの食べたいなぁ、って。あ、泰莉君、このパンケーキ半分こして食べようよ。」


泰莉君がどうして俺なんかに興味を持っているのか、最初はわからなかった。
警戒心をむき出しに、近づくなと警告を発しているようだった彼が。


人を信用できないということは、ひどく苦しいことだ。

相手に対する不信感が、正常な思考を乱す。
そして最終的には自分自身を、信用できなくなっていく。

誰かを信用したい。
自分ではない誰かに、身も心も全て預けて眠りたい。
絶対に裏切らないと確信できる誰かに、俺は大丈夫だと言ってもらいたい。

そんな欲望が、俺の中で醜く暴れている。


彼になら、この苦しさがわかると思った。
俺と同じ苦しみを、彼も感じているのがわかったから。

俺たちはあの日、出会った瞬間に、共鳴してしまったのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

処理中です...