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『疑惑』(SIDE 泰莉)

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「おはよう、泰莉たいり君。」

「おはよう・・・・しずくさん・・たくみ・・さん・・」

心臓が止まるかと思った。フリーズした頭を無理やり動かす。
雫さんの部屋から、どう見ても今起きたばかりの2人が一緒に出てくるのを目撃してしまった。

慌てるでもなくいつも通りの2人を見ると、彼らにとって一緒の部屋で眠るのはごく普通のことなんだろう。



「いや、ヤってないでしょ。あの2人は。」

「なんでわかるんすか。同じベッドで寝ます?いくら幼馴染で仲良くても。」

絶対おかしいですって!と力説する俺を軽くあしらって、弥弦みつるさんはフレンチトーストを頬張った。

蜂蜜をたっぷりかけた甘々フレンチトースト。
弥弦さんのリクエストには全力で従うのが、俺たちのルールだ。

「俺と泰莉だって同じベッドで寝るんだし、普通じゃん?」

「いや、普通じゃないし、用が済んだら俺をベッドから追い出すでしょあんた。」

「何?泰莉、朝まで俺と同じベッドで眠りたいの?」

真顔で見つめられて、ドキッとする。
性格は極悪だしワガママ放題理不尽極まりないダメ男だけれど、顔だけは超絶イケメンな弥弦さんに、俺は弱い。

「仮にあの2人がヤってたからって何が困るわけ?俺たちが朝同じ部屋から出てきたとしても、なんの疑問も持たない2人と暮らせるって、ラッキーじゃん。」

珍しくそれらしいことを言う弥弦さんに、俺は反撃の言葉が思いつかず黙り込んだ。


神崎かんざき、迎えにきたよ。」

朝からキラッキラの万能オーラ全開で現れた美影みかげさんに、内心チッと舌打ちする。

弥弦さんの相方、千種ちぐさ 美影みかげ
綺麗な黒髪、切れ長の瞳。アメリカの有名大学を出たインテリ男。

ルックスや頭脳に恵まれただけでなく、音楽の才能まで持ち合わせているなんて、憎たらしい。

がっしりとした肩幅、背中から腰にかけて引き締まった綺麗なライン、スラリと長い手足。
いつだって自信に満ち溢れた表情、話し方、立ち振る舞い、一つ一つの仕草、全てが知性に裏付けられている。
その上、世界的に有名なギタリスト。

この男と対等に渡り合える男を探すのは難しい。
彼は毎朝弥弦さんを迎えにやって来る。

「今朝は随分早いっすね。」

夏弥なつやの仕事が早くてね。先に送ってきたんだ。」

皮肉を込めて言うと、涼しい微笑みが返ってきた。落ち着き払った態度が、鼻につく。
俺と弥弦さんの貴重な時間を削るのはやめて欲しい。

夏弥というのは、美影さんが溺愛している恋人だ。
他事務所のアイドルが恋人だと聞いた時は、心底驚いた。

「夏弥は俺の方が先に目つけてたのに、先輩の鬼畜加減マジで引くわ~。」

弥弦さんは、彼のことを「先輩」と呼ぶ。
甘えるような態度が透けて見えて、俺はいつもイライラした。

「神崎、根に持つのはやめて、いい加減機嫌直してくれないか?」

夏弥は小柄で目がくりっと大きく、可愛い系男子代表みたいな顔をしている。
犬みたいにコロコロと人懐っこい笑顔で、性格も良いと評判のアイドルだった。

「つうか、恋人の俺の前でそういうこと言う?弥弦さん。」

「俺は本来ああいう可愛い子が好きなの。夏弥ってなんなの?天使?」

「弥弦さん、ひでぇ。俺だって本来は可愛い女子が好きだわ。」

本当のところ、弥弦さんが密かに思いを寄せている相手は、美影さんなんじゃないかという疑念が、ずっと拭えずにいる。
美影さんを見つめる彼の目が、時々ひどく熱っぽいから。

ステージ上で音楽を生み出す瞬間はいつも、2人はお互い熱く見つめあっていて、誰かが入る余地なんてまるでない。

俺はいつだって誰かの身代わりで、弥弦さんが心から求めている相手じゃない。
そんな疑念が頭の片隅に居座っていた。



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