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『男の欲望』
しおりを挟む「洗濯?」
洗面所の奥にある洗濯室。
洗濯をしようと準備していると、夫の愛が入ってきた。
洗濯室には大型の洗濯機が数台と、小型の洗濯機が一台。
大勢で暮らしているので、洗濯機もたくさん必要になる。
「うん。律さんがついでだから一緒にやるっていつも言ってくれるんだけど、さすがに下着まで洗ってもらうのは悪くて。」
律は、料理と洗濯が趣味らしい。
私の分の洗濯物まで一緒に洗ってくれる。
洗濯物入れとして可愛いカゴまで用意してくれていた。
下着まで洗ってもらうのは悪いので、小型の洗濯機で別に洗うことにしている。
「ブラは手洗いしたほうがいいよ。じゃないと形崩れるって姉ちゃんが言ってた。」
愛は乾燥機から洋服を取り出して、持参したカゴに手際よく入れながらそう言った。
「え?!そうなの?!」
「・・繭って、女なのに何も知らねぇよな。」
呆れ顔で私を一瞥した愛に、返す言葉も見つからない。
ズボラな干物女。今まで可愛い下着なんて買ったこともなかったし、全部洗濯機に突っ込んで洗っていた。分けて手洗い、なんてしたことがない。
「そうだね・・ちゃんとしなきゃね。」
夫の愛は、言いにくいこともビシッと言ってくれる良い子だ。
夫たちの間で揉めてなかなか決められない事も、彼が仕切るとすぐに決まる。
「男ってほんとうるさい。女よりよっぽど優柔不断だよね。」なんて言いながら、大勢いる夫たちをうまくまとめてくれる。
彼は女性のような見た目をしている。茶髪のロングヘア。
自宅にいる時は、前髪を可愛い猫のピンで止めており、部屋着も可愛い。
私より何倍も美意識が高い彼に、頭が上がらなかった。
毒舌な言葉が多く、見た目とのギャップがすごい。
彼は、何を言っても「愛だから仕方ない。」で片付けられる不思議なキャラクターが魅力だった。
「一応俺に見えないように、下着隠すとかしてよ?」
「え?見えてた?ごめんね、愛ちゃん。」
洗濯ネットに入れようと、手に持った下着を慌てて隠す。
「アンタさぁ・・・」
「あ、愛ちゃん・・・?」
突然彼に手首をぐっと握られて、洗濯ネットが床に落ちた。
「俺が女みたいな顔してるからって、油断しすぎじゃない?」
彼がイライラしているのがわかる。
眉間に皺を寄せて、普段の彼とは違う男っぽい表情で私に迫った。
知らない男の人に迫られているようで、胸がドクン、と高鳴る。
「俺だって成人男子だよ?繭が思ってるより100倍いやらしいこと考えてるし、当て日じゃない日だってアンタを抱きたいって衝動はいつもあるんだ。」
「や・・あ、あの・・・っ、愛ちゃん・・・」
顔が近い。
すぐに唇が触れてしまいそうなほどの、至近距離。
「あのおっさんたちと比べても、俺の方がずっと良いセックス出来ると思うけど、今ここで試してみる?」
女性にしか見えない可愛い顔立ち。声だって男性にしては高めで柔らかい。
確かに油断していたと、こんな風に迫られて初めて自覚する。
手首を握る彼の手の力は、間違いなく男性の力強さがあって、私には到底振り払うことができない。
すぐ後ろには壁があって、逃げられなかった。
夫だから逃げる必要はないのだけれど、彼の豹変ぶりに心臓がバクバクして思考が追いつかない。
「繭、目・・閉じて?」
唇が重なる。
男性の力で押さえつけられて、深く舌を差し込まれた。
「ん・・・んぅ・・・ッあ、・・・」
「・・・イイ声で鳴くじゃん・・俺、すげぇ興奮してきた。」
「んんんッ・・・あ、あいちゃ・・・ん・・・あ・・・っ」
身体のラインをなぞるように、腰から背中まで弄られる。
「うぉあ・・・!!わ、びっくりした・・・!!」
洗濯室に入ってきた煌大が、声をあげて大袈裟に飛び退いた。
愛は彼を見てチッと舌打ちすると、私の手を離す。
「煌大・・・イイところで出てくるなよ。ほんと空気読めないよね、お前。」
洗濯しようと入室してきた煌大は、驚いた拍子に持参したカゴを落とし、衣類が盛大に床に散らばる。
「ご、ごめん・・・!!」
「煌大、ぼーっとしてないでお前も拾えよ。」
愛はテキパキと洋服を拾い上げながら、煌大をせっついた。
2人は部屋が隣同士で、仲が良い。年上の彼に対しても愛の態度はいつも強気だった。
真っ赤な顔で立ち尽くす煌大を見て、申し訳ない気持ちになる。
(煌大君に、悪いことしちゃったな・・・・)
鼓動が早い。
可愛い夫の男性的な一面を見て、私はドキドキと胸が高鳴るのを抑えられなかった。
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