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『夫婦の会話』
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「なぁー、繭ちゃん、これどっちがいいと思う?」
夫の桜雅は、スタイルが良い。
オシャレ好きで新しい服を買うたびに披露してくれるので、その度にモデルみたいだと私は彼に見惚れてしまう。
「どっちも似合うよ、すごく。」
「またそれかよ。繭ちゃんどっちも良いっていうから、全然参考にならねぇんだよな。」
玄関前の通路にある大きな鏡の前で、ジャケットを羽織りながら口を尖らせる桜雅。
彼には申し訳ないけれど、本当にどちらも似合うのだから仕方ない。
「どんだけ俺のこと好きなんだよ?なぁ、俺が着るなら何でも全部似合うって意味?」
突然、鏡の前に追いやられる。
桜雅のスイッチはいつも突然入って、どこに居ても急に迫ってくるので心臓に悪い。
キスしようと、彼の顔が近付いた。
「桜雅、お前、繭を虐めてんじゃねぇよ。」
私と桜雅の間に、逞しい腕を割り込ませて止めに入ったのは耀亮。
ふわりと鼻を掠めた、彼のシャンプーの香りにドキッと胸が高鳴る。
先日、ベッドで愛しあった時の記憶が、鮮明に蘇ってきた。
ジムからちょうど帰宅した耀亮は、シャワーを浴びた後なのか髪が少し濡れていて色っぽい。
面倒だからといつもドライヤーを使わない彼は、いつでもヘアスタイルを気にしてケアしている桜雅とは真逆のタイプだった。
桜雅はラブラブモードから一転、一瞬で喧嘩モードに切り替わる。
「どこをどう見たら虐めてるように見えんだよ?お前の目ってほんと節穴だよなぁ。この筋肉馬鹿!」
桜雅と耀亮は顔を合わせるたび、ほぼ100パーセントの確率で喧嘩している。
よく飽きないなぁと、私や他の夫たちはいつも呆れ顔だった。
「あれ、耀亮君おかえり。桜雅君もファッションショー終わったの?」
2階から降りてきた雫が、2人の間に入る。
雫は、中性的な顔立ちをしている。
女装が似合いそうなタイプの綺麗な男性で、線が細く繊細さがルックスにも現れていた。
悩むとすぐに食べられなくなる体質なのだと、以前律に話していたのを聞いたことがあった。
元ピアニスト。
サラサラの黒髪は、いつ見ても艶を放っている。
おっとりとした雰囲気で、ゆっくりとした口調だけれど、仕切るのが上手く場を纏めるのが得意。
愛とはまた違ったタイプの仕切り上手だ。
彼が間に入ると、いつの間にか問題が解決していることが多い。
「繭さんが好きな色だから、こっちにしたら?」
未だ上着を決められていない桜雅にさりげなく助言すると、リビングに消えていった。
彼は不思議な男性だった。
穏やかでいつも一歩引いているように見えるのに、自分の意見を相手に伝えるのが上手い。
言われた側も、自然な流れで彼のアドバイスを受け取ることが出来る。
そんな彼と今夜ベッドインする予定の私は、一日中落ち着かなかった。
彼は一体どんなセックスをするのだろう?
中性的な雰囲気が強い彼からは、男の欲望を感じたことが一度もない。
リビングで二人きりになっても、距離を縮めてくることはなかったし、話す内容もごく一般的な世間話のようなものばかり。
自分の夫というよりは、相談相手の友人という距離感だ。
今朝、洗面所でばったり会った時も、「今夜はよろしくお願いします。」と、普段と何一つ変わらない笑顔で彼はそう言った。
彼は夫たちからいつも相談を受けているけれど、自分のことはあまり話さない。
♢♢♢
「お待たせしてすみません。」
彼は少し遅れて、寝室に現れた。
「緊張してしまって、お風呂に時間がかかってしまいました。」
(か・・・可愛い・・・・雫さんの知らない一面・・・)
あはは、と苦笑する彼は、年相応に見えてなんだか親近感が湧く。
いつも冷静で穏やか、しっかり者で周りを悟すような力がある、彼の知らない一面。
今まで見たことがないくらいに、彼は緊張している様子だった。
彼の素顔をもっと知りたい。
「私も、緊張しています。」
「少し・・・話しませんか?」
緊張した様子の彼が、首を傾げながら私を見た。
彼の綺麗な顔に、胸が高鳴る。
「はい!雫さんのこと、もっと知りたいです!」
自分でも驚くほどの大きな声が出て、彼は目を丸くした。
「夫婦の会話って、大事ですよね。」
ふっと優しく笑う彼の顔は、見惚れてしまうほどに綺麗だ。
彼は私の手をとって、ゆっくりと話し始めた。
夫の桜雅は、スタイルが良い。
オシャレ好きで新しい服を買うたびに披露してくれるので、その度にモデルみたいだと私は彼に見惚れてしまう。
「どっちも似合うよ、すごく。」
「またそれかよ。繭ちゃんどっちも良いっていうから、全然参考にならねぇんだよな。」
玄関前の通路にある大きな鏡の前で、ジャケットを羽織りながら口を尖らせる桜雅。
彼には申し訳ないけれど、本当にどちらも似合うのだから仕方ない。
「どんだけ俺のこと好きなんだよ?なぁ、俺が着るなら何でも全部似合うって意味?」
突然、鏡の前に追いやられる。
桜雅のスイッチはいつも突然入って、どこに居ても急に迫ってくるので心臓に悪い。
キスしようと、彼の顔が近付いた。
「桜雅、お前、繭を虐めてんじゃねぇよ。」
私と桜雅の間に、逞しい腕を割り込ませて止めに入ったのは耀亮。
ふわりと鼻を掠めた、彼のシャンプーの香りにドキッと胸が高鳴る。
先日、ベッドで愛しあった時の記憶が、鮮明に蘇ってきた。
ジムからちょうど帰宅した耀亮は、シャワーを浴びた後なのか髪が少し濡れていて色っぽい。
面倒だからといつもドライヤーを使わない彼は、いつでもヘアスタイルを気にしてケアしている桜雅とは真逆のタイプだった。
桜雅はラブラブモードから一転、一瞬で喧嘩モードに切り替わる。
「どこをどう見たら虐めてるように見えんだよ?お前の目ってほんと節穴だよなぁ。この筋肉馬鹿!」
桜雅と耀亮は顔を合わせるたび、ほぼ100パーセントの確率で喧嘩している。
よく飽きないなぁと、私や他の夫たちはいつも呆れ顔だった。
「あれ、耀亮君おかえり。桜雅君もファッションショー終わったの?」
2階から降りてきた雫が、2人の間に入る。
雫は、中性的な顔立ちをしている。
女装が似合いそうなタイプの綺麗な男性で、線が細く繊細さがルックスにも現れていた。
悩むとすぐに食べられなくなる体質なのだと、以前律に話していたのを聞いたことがあった。
元ピアニスト。
サラサラの黒髪は、いつ見ても艶を放っている。
おっとりとした雰囲気で、ゆっくりとした口調だけれど、仕切るのが上手く場を纏めるのが得意。
愛とはまた違ったタイプの仕切り上手だ。
彼が間に入ると、いつの間にか問題が解決していることが多い。
「繭さんが好きな色だから、こっちにしたら?」
未だ上着を決められていない桜雅にさりげなく助言すると、リビングに消えていった。
彼は不思議な男性だった。
穏やかでいつも一歩引いているように見えるのに、自分の意見を相手に伝えるのが上手い。
言われた側も、自然な流れで彼のアドバイスを受け取ることが出来る。
そんな彼と今夜ベッドインする予定の私は、一日中落ち着かなかった。
彼は一体どんなセックスをするのだろう?
中性的な雰囲気が強い彼からは、男の欲望を感じたことが一度もない。
リビングで二人きりになっても、距離を縮めてくることはなかったし、話す内容もごく一般的な世間話のようなものばかり。
自分の夫というよりは、相談相手の友人という距離感だ。
今朝、洗面所でばったり会った時も、「今夜はよろしくお願いします。」と、普段と何一つ変わらない笑顔で彼はそう言った。
彼は夫たちからいつも相談を受けているけれど、自分のことはあまり話さない。
♢♢♢
「お待たせしてすみません。」
彼は少し遅れて、寝室に現れた。
「緊張してしまって、お風呂に時間がかかってしまいました。」
(か・・・可愛い・・・・雫さんの知らない一面・・・)
あはは、と苦笑する彼は、年相応に見えてなんだか親近感が湧く。
いつも冷静で穏やか、しっかり者で周りを悟すような力がある、彼の知らない一面。
今まで見たことがないくらいに、彼は緊張している様子だった。
彼の素顔をもっと知りたい。
「私も、緊張しています。」
「少し・・・話しませんか?」
緊張した様子の彼が、首を傾げながら私を見た。
彼の綺麗な顔に、胸が高鳴る。
「はい!雫さんのこと、もっと知りたいです!」
自分でも驚くほどの大きな声が出て、彼は目を丸くした。
「夫婦の会話って、大事ですよね。」
ふっと優しく笑う彼の顔は、見惚れてしまうほどに綺麗だ。
彼は私の手をとって、ゆっくりと話し始めた。
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