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『体調不良』

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かえで君、気分はどう?」

楓はここ数週間、悪阻おそで体調が悪い。


まゆさん、大丈夫です。心配かけてごめんなさい。」

ソファーに横になっている楓にブランケットをかけると、彼が私の手をぎゅっと握った。

「繭さんがそばにいてくれると、すごく安心します。」

にっこりと天使のような表情で、嬉しそうに笑う。
彼は幼さが残る顔立ちだけれど、芯の強さを感じさせる男性だった。

彼の瞳には、強さと優しさがいつも共存している。

新しい命を育んでいる彼は、最近さらに優しい顔つきになった。



「何か私に出来ること、ないかな?」

楓ばかりに大変な思いをさせていることが、心苦しい。


「来週の定期検診に、一緒に来てくれますか・・?」

甘えるように私を見上げた楓が可愛くて、何でもしてあげたい気持ちになる。


「もちろんだよ。」

そばにいるだけで何も出来ないことが、もどかしい。


不思議な光景。
女性ではなく男性が妊娠し、出産する世界。
自分の夫が妊娠中だというのに、私はいまだにその事実に実感が伴っていなかった。





「あれ!?楓さん、大丈夫?具合悪いの?」

「うるせー、いつき、騒ぐなって。」

中庭で花に水をやっていたいつきいずみが、リビングに戻ってくる。


「つわりで少し体調が安定しなくって。大丈夫だよ、二人ともありがとう。」

楓が10代の二人に向ける笑顔は、自分の子どもに向けているように温かくいつくしみに満ちていた。


「楓さん、いいなぁ。俺も赤ちゃん早く欲しくて!俺に手伝えることあったら何でもやるから、言ってね!!」

樹はいつも元気いっぱい、無邪気でかわいい。
自分の夫だというのに、弟みたいな感覚で見てしまうことが多かった。


「俺らは学校終わればいくらでも時間あるし、部活もやってねぇから暇だし。」

泉はいつも冷めた雰囲気で素っ気ない言葉が多いけれど、とても根が優しい。
恥ずかしがり屋で純粋な良い子だと、夫たちはみんな知っている。

「ありがとう、樹君。泉君。」




「楓どした?具合わりーの?」

桜雅おうがしずくが、買い出しから戻ってくる。
横になっている楓を見て、桜雅が荷物をおろしながら声をかけた。


「今、お水入れるね。」

雫は、物静かな男性だがとても面倒見がよく、こういう時は誰よりテキパキ動いてくれる。
前にも風邪をひいた夫の介抱かいほうを、献身的けんしんてきに行ってくれていた。
頼りになる夫たちが居てくれて、ホッとする。


家族の初めての妊娠に、夫たちは皆とても協力的だった。
楓の代わりに掃除当番を引き受けてくれたり、車を出してくれたり、つわり中でも食べやすい食事を作ったり、家族みんなでサポートしている。



♢♢♢



「なぁ、困った事があったら、俺に言えよ?」

楓を部屋までお姫様抱っこで運んでくれた桜雅が、部屋を出たところで私に言った。


「楓の体調については慶斗けいとさんが診てくれるだろうけど、楓のことでも他のことでも繭ちゃんが困ってることあったら、何でも。」

私の顔を覗き込んで、頭を撫でるとチュッと軽いキスをする。


「俺はお前の夫なんだから、遠慮とかそういうのは無しで。」

もう一度唇が、優しく重なる。

彼はキスする時、私の耳元に指先で触れる癖があった。
触り方が絶妙なタッチで気持ち良くて、私はいつも反射的に彼が欲しくなってしまうのだ。


桜雅に「お前」と呼ばれるのが好きで、楽しみにしていることは内緒だけど、彼はするどいので全てを見抜いているかもしれない。


「やべぇ。お前のにおい嗅いだら、ムラムラしてきた。」

「・・・ッ、桜雅君・・ッ・!?」

廊下の壁に押し付けられて、首筋にキスされる。


「ん・・・・ッ・・・・」

何度触れられてもドキドキする。
慣れることは、一生ないのかもしれない。


私たちは、リビングに戻るまでの少しの距離を、こっそりと手を繋いで歩いた。


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