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『奥手』(SIDE 朝倉 脩二)
しおりを挟む~~~~登場人物~~~~
♡朝倉 脩二(あさくら しゅうじ) 38歳
愛治医療センターに勤務する、一流の心臓外科医。
長身で体格が良い色男。ハンサムという言葉が似合うイケメン。
プライベートでは細かいことを気にしない男前な性格。
仕事に命をかけている熱い男。
研修医時代に面倒を見ていた湊を手術のパートナーに育て上げ、とても可愛がっている。
♡湊 京(みなと けい) 33歳
愛治医療センターに勤務する、優秀な心臓外科医。
肩まで伸ばしたロン毛。青光りする黒髪。タレ目で甘いマスク。
医者とは思えないチャラチャラした軽い雰囲気に見えるが、根は真面目。
患者に対しては、優しく紳士的。若いが、腕の良い一流の心臓外科医。
先輩である朝倉医師のことを尊敬している。
~~~~~~~~~~~
「これ飲んでいいっすか?」
「あぁ、いいよ。好きなの飲んでくれ。」
仕事帰り、京は毎日のように俺の部屋に寄っていくようになった。
同じマンションに住んでいることに気付かないで過ごしていた俺たちは、仕事以外のことに興味がなさ過ぎだろうとさすがに反省した。
同じ職場でパートナーとして働いているのだから、もう少しお互いに興味を持つべきだというのは口実で、俺は湊 京という男に個人的に興味があった。
「京、そういうの飲むんだな。」
辛口のジンジャーエール。水、お茶、コーヒー以外の飲み物を口にするところを見たことがなかった。
「飲みますよ。ジンジャエールだけは、結構好きなんで。」
「俺も、好きだ。」
本を読みながら顔を上げると、京が驚いたような顔でこちらを見ていた。
「どうした?」
「いえ、別に。」
京は素っ気ない。自分で引いた一線からこちら側へ入ってこようとはしないし、嬉しいとか辛いとかそういう感情を他人に見せようとしない。
毎日多くの時間を共有している俺には、彼の感情の機微がかなりわかるようになってきていて、そうと気付くたびに彼を可愛いと思う気持ちが抑えられなくなっていった。
♢♢♢♢
「脩二君の部屋に毎日来てるんですか?あの湊君が。」
脳神経外科の野崎先生と俺はよく食事に行く。
彼は人格者で、一緒にいてとても心地よい医師だ。
医師としてのスタンスが自分と似ている部分があり、意気投合して以来毎月食事に行く仲になった。
「来てますね。毎日、仕事帰りに。」
彼にだけは京とのことを話していた。
俺が唯一相談できる貴重な相手。
「湊君、随分変わりましたね。」
「そうですね。最初は嫌そうにしてたんですけど。」
「特別な関係にステップアップするつもりはあるんですか?」
野崎先生は鋭い。
彼に対しての俺の気持ちに気付いているようで驚いた。
「特別な関係・・ですか。」
「脩二君は、恋には奥手、でしたよね。」
確かにそうだ。俺はいつも仕事優先で、恋愛よりも仕事を選んできた。
仕事の邪魔をするような関係は望んでいない。
京は違った。
彼がいることで、仕事に対してのエネルギーがより湧いてくるし、お互いを高めていける間柄だと思っている。
それでも、彼が自分の気持ちを受け入れてくれるという確信が持てなかった。
♢♢♢♢
「その本、面白いだろ。」
「この治療法は知ってましたけど、この論文の切り口面白いっすね。」
京の集中力はすごい。仕事終わりで疲れているだろうに、一度読書に没頭するとこちらが声をかけるまで黙々と読み続ける。
俺の部屋のソファで本を読んでいた彼は、壁にかかっている時計を見上げて声をあげた。
「もうこんな時間だったんですね、すみません。そろそろ帰ります。」
パタン、と本を閉じた彼は、本棚に本を戻そうと立ち上がった。
引き止めたい。
俺が引き止めたら、彼はどんな顔をするだろう?
柄にもなく、俺は緊張していた。
「京、今夜は泊まっていけよ。」
明日は休日。
俺に背を向けて本棚の高い位置に手を伸ばしていた彼は、ピタリと動きを止める。
「・・・明日は休みだろ。たまには、」
沈黙に耐えられず言葉を発した俺に、本を元の場所に戻した彼が振り返った。
「わかりました。そうします。」
上司の命令に返事をするような固い口調。
彼の表情から、俺は何も読み取ることが出来なかった。
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