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『医師として』(SIDE 野崎 一彦)
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♡野崎 一彦(のざき かずひこ) 40歳
陽大の上司。常識人の脳外科医。
清潔感のある七三分けの前髪をサイドに流している。
アダルトな雰囲気、色気のあるイケオジ。湊はエロ崎先生と呼んでいる。
腕は一流。いつも穏やかで、余裕のある大人の男。
いつも敬語でのんびり話す。
突っ走り傾向のある問題児の陽大が、唯一素直に従う相手。
♡甘崎 陽大(かんざき はると) 26歳
生意気、毒舌、自信家の脳外科専攻医。
茶髪、耳下で揃えられたストレートヘア。
前髪パッツンだが、いつも前髪を縛って上に上げている。幼さの残る顔立ち。
チェック柄が好きで、持ち物は柄物が多い。
同期の雨宮を敵対視している。
~~~~~~~~~~~
「エロ崎先生~お疲れ様です。」
「湊君、その呼び方やめてください。」
「いや、今日もエロいっすよ。」
「今日あたり脩二君と飲みに行こうかと思っていました。湊君もどうですか?」
彼がゲッと明らかに表情を変えたのを見て、くすぐったいような気持ちになる。
彼は素直じゃない。
湊君は心臓外科の若手で、とても優秀な医師だ。
彼の指導医である朝倉脩二と私はよく食事に行く間柄で、湊君は彼に紹介された。
彼と脩二君の間には、割り切れない特別な感情があるらしい。
彼ら二人を見ていたらそれは火を見るより明らかなのに、本人たちは色々と難しい言葉を並べ立ててそうと認めようとしない。
私と陽大君の関係も、側から見ればそう思えるのかもしれない。
先日、脳外科の後輩である陽大君から告白された。
彼とは元指導医、元研修医の間柄で、彼の研修期間が終了してからは同僚として仲良くしている。
最近は仕事以外の時間も、彼と過ごす時間が増えていた。
「一彦さん、」
私を呼ぶ彼の声がいつもと違って固かった。
陽大君は若いのに肝が座っていて、物怖じしない度胸がある。
どんなに難しい手術の前も、彼の目はいつも冷静で迷いが無い。
彼の自信は翳ることがない。
それなのに。
彼の顔を見てハッとした。
真っ直ぐだけれど、いつもと違う彼の瞳。
胸が苦しい。
苦しいほどに、鼓動が高鳴る。
彼が私に好意を寄せてくれていることは、もちろんわかっていた。
医師として信頼してくれていることも。
可愛い後輩、という以上の感情が無いと言ったら嘘になる。
彼を特別に想う感情が日に日に大きくなっていて、どう制御したらいいのかわからない。
この歳になって、これ以上余計な感情を増やしたくないと思う自分もいて苦しい。
私はいつも笑顔でいられるし、ほとんどのことは笑って許せる。
それは誰のためでもなく自分のためだ。
感情に翻弄されることなく生きること。
それは医師という特殊な仕事で成果を出していくために得た技能だ。
私にとって一番大事なのはいつも仕事で、それだけが唯一人生で優先させたいものだった。
いつも通りの万全な自分で仕事にあたりたい。
医師として、全力投球できる自分でいたい。
彼の告白が一世一代の決心を持って挑んだものだとわかっていた。
「一彦さんのことが、大好きです。」
そう聞いた瞬間、彼の好意には応えられないと思った。
これからも仕事に全力投球するために。
医師として最善を尽くしていくために。
「私も好きですよ。」
そう思っていたのに、私が口にした言葉はそれとは真逆のものだった。
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