追放先に悪役令嬢が。不法占拠を見逃す代わりに偽装結婚することにした。

椎名 富比路

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第四章 海賊退治と黒幕

第33話 強襲、幽霊船

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 僕たちは、武装船で海賊のいるポイントまで進む。

「ディータよ、長いこと城を開けとが、大丈夫かのう?」

「多分ね。とにかく、対策は練っている」

 僕たちは、目の前にある障害を処理すればいいと、リユたちを説得した。

「対策じゃと?」

「ちょっと、バリナンに貸しを作った」

「またディータは、一人で面白いことしおる。アタシもおるんじゃから、ちょっと協力させておくれ」

 仲間はずれにされたと思ったのか、リユがため息をつく。

「こればっかりは、バリナンの協力がなければ成り立たなかったんだ。みんなを巻き込むわけにはいかない。それに、成功率も低かったし」

「具体的には?」

「情報収集さ」

 レフィーメからの質問に、僕はぼんやりとした回答をした。

 今回の作戦に一ヶ月もかけたのは、「バリナンによる裏付け」が必要だったからだ。僕たちのような少数精鋭に、そんな大規模な計画は立てられない。 

「見えてきました!」

 向こうから、海賊船が姿を表す。

 海賊を率いているのは、幽霊船だ。巨大なドクロのイラストを描いた、旗をはためかせている。

「あんなのに邪魔されとったのか」

 船を襲っていたのも、乗客たちの生気を吸うためだったのかもしれない。
 あの船の大きさだ。それだけ、大量の人を殺しているに違いない。

「やっつけよう。あの幽霊船に襲われた人たちを、成仏させてあげるんだ」

「おっしゃ」

 リユが、拳を固める。

「我こそはピドーの王、スケルトンキング! シンクレーグのガキよ、直接対決に参った!」

 幽霊船の上から、ガイコツの船長が現れた。全身を、白いヨロイで覆っている。あれがピドーの正装か。

「今までこそこそ逃げ回ってきた割には、堂々としたご登場ではないか!」

「海に逃げたら、魔王軍の魔物に食われたのだ。見よ!」

 船が盛り上がり、大陸が浮上してくる。

「なんだ、島が浮き上がってきたぞ!」

「違います、ディータさま! これはクジラです!」

「クジラ!?」

 幽霊船だと思っていたのは、クジラの化け物だった。現れたのは、マッコウクジラである。頭頂に、イカの頭のようなツノが生えていた。

 下アゴに生えている触手が、こちらの船団に絡みつく。

 我が隊の船が、一隻沈んでしまった。海に落ちた乗組員を、僕たちの船で全員回収する。

「触手が生えているぞ!」 

「マッコウクジラは、ダイオウイカを捕食する。あの怪物は、それがキメラ化したもの」

 こんなデカいキメラまで作れるのか、魔王軍は。

「まいったな。こりゃあ」

「グハハ! 手も足も出まい!」

「いや。対策しておいた甲斐が、あったってもんだ」

 僕は、発煙筒を空へと発射した。あとは、港にいるトラマルが気づいてくれたら。

 クジラの触手をかわしつつ、海上戦となる。

 幸い、クジラは不意打ちでなければ動きが鈍い。大きいだけで、対策は可能だ。とはいえ、その上にピドー王がいるため、近づけないが。

「海賊は、ものの数ではありません! 船団だけで対処できます!」

「ヘニーは、そっちに回ってくれ。カガシ、レフィーメも」

 カガシやレフィーメ、ヘニーを、海賊船の撃退に回す。

「リユ、僕たちはクジラキメラのヒゲから船を防御しながら、海賊船の処理班をサポートするぞ」

「おし!」

 攻撃特化なリユに、防御を任せるのは気が引ける。だが、まだ攻めどきではない。

「ワタシも戦える!」

 カガシが、先行しようとした。

「お前たちを失うのが、こちらにとって一番ヤバい。対策はしてあるから待っていろ」

「やむを得ない。あなたに従います、ディータ!」

 どうにか、カガシも聞き分けてくれたようだ。血の気が多いから、できれば派手に暴れられる前線に回してあげたいが。今はこらえてほしい。なぜなら。

「よし、来たか!」

 ドドド、と、僕たちの後ろから、高速で巨大な物体が接近してくる。

「なあ、ディータ、あれは、アタシらがさっきまで過ごしていた港町ではないか!」

 そう。あの街は、移動要塞にもなるのだ。
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