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最終章 さらば枯れ専令嬢! 恋の行方は?

枯れ専メイド誕生 前日譚

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 今日のミレイアは体調が優れないのだろうと、男爵は世話をアメスに交代させた。一日休んだ後、ミレイアが面倒を見る。

「もう一年になりますか」

 ミレイアがこの地に住んで、こんなにも経っていた。


 ◇ * ◇ * ◇ * ◇


 今から一年前――

 ミレイア・エルヴィシウスの手許に、毎回のように見合い写真が送られてくる。もう何度目だろうか。書類審査でドンと落とし、実際にあうこともしなかった。

「ミレイア、あなたにピッタリのお相手を見つけてきましたざます」

 母から送られてきた写真に、子どもの写真が写っている。

「フンフン! キッと気に入ると思うぞフンフン!」

 石製のダンベルをカールしながら、父も楽しげだ。
 それが、余計にミレイアを不快にさせた。

「はーあ。またガキンチョですか」
「またとはなんですか! あなたも十分ガキンチョざます」

 母に続き、父も見合いに賛成の気配である。

「そうだそうだフンフンッ。健全な家族は、健全な肉体にこそ宿るモノだ。若いウチから、徹底的にうちの房中術を仕込んでおくのだ! そうすれば、貴族なんぞたやすく意のままにできるぞフンフン!」
「そんなよこしまな理由でムコを取るのですか? アホくさ。クサすぎて大草原ですわ」

 うんざりしながら、ミレイアは立ち去ろうとする。

「父の言葉は九割冗談ざますよろし」
「ですが、父のおねショタ趣味には付き合ってられません」

 毎回毎回、ガキの見合い写真など送られても。

「残りの一割は、本気で貴族共を籠絡するおつもりなのでしょう? 我々はそこまで貧窮しているのですか?」
「違いますよ。あなたの趣味を心配なさっているのざます」

 やはりか。

 ミレイアが年上以外……いや。男爵以外の男に興味がないことを、両親は気にしているのだ。

「いい加減になさいミレイア。あなたはエルヴィシウスの血を絶やしてはならぬ身。健康な男児を迎え入れて、健康な子を産むことが、エルヴィシウスの反映に繋がるのです」
「こんな閉鎖的な血筋など、滅びてしまえばいいのです」

 いつまで、こんな前時代的生活を送るつもりなのか。どの国も、自由恋愛を認めようとしている。なのに、この地ときたら。どこまで田舎なのだろう。

「まだ言うざますか。トゥーリ男爵がよき御仁であることは、父も母も理解しています。勇者ですもの」
「でしたら、認めてくださってもよろしいのではなくて? 男爵は心技体揃った立派なお方です。交際を断る理由など」
「歳を取り過ぎていらっしゃる。先立つのは、あの方からなのざますよ?」

 痛いところを、母が突いてくる。

「わたくしだって、あなたが誰を慕おうと応援するつもりでした。ですが、男爵ほどご高齢の方と添い遂げるとなれば、話は別です」

 母の目は厳しい。その中に彼女なりの愛情は見て取れる。

 それが余計に、ミレイアを苦しめた。

「もしものことがあって、あなたは自分を維持できますの?」


 
 大雨の中、ミレイアは家を飛び出した。

 このままでは、若い男と結婚させられる。ならば、自分は男爵の元へ。

 まずミレイアは、見合いの相手に一筆したためた。
 彼が悪いわけではない。

 自分は家出中、川に流されて死んだことにする。そのために、わざと激しい雨の日を選んだ。

 ミレイアだって、両親のすべてが嫌いなわけではなかった。しかし自分への愛が深すぎる故、彼らを説得するのは難しかろう。男爵と自分を遠ざけることこそ愛だと、彼らは思い込んでいるから。

 ならば、死んだことにすればいい。娘が亡くなったくらいで、両親は自決したリなどしないだろう。そこまで心が弱い人ではないくらい、ミレイアは二人を信頼している。騙すのは気が引けたが、二人のことだ。訃報を信じず、自分を捜し回るかも知れない。

 ボロボロの状態で、どうにか隣国の冒険者ギルドまで辿り着く。名前を偽り、路銀は盗賊狩りで稼いだ。

 ストレスを発散するのに、盗賊という集団はちょうどよかった。こちらがいたいけな少女だと見ると、例外なく油断したから。

 悪党相手なら、撃退しても心は痛まない。盗賊のアジトで、散々暴れた。両親への怒りをぶつけるかのように。

「ふむ。いいモノがあるではありませんか」

 変装用の魔導メガネを、盗賊のアイテムからゲットする。おそらく、スリか金持ちの屋敷へ潜入するときにでも使うのだろう。
 これで、「ミレイア・エルヴィシウスは死んだ」ことにできる。

「今日のわたくしは、機嫌が悪いですわ!」

 旅の資金を稼ぐかたわら、使えそうな道具はネコソギ奪った。これではどちらが盗賊なのか。

 そんな生活を送って数ヶ月、ミレイアはようやく男爵の居場所を突き止める。


 ◇ * ◇ * ◇ * ◇



 男爵との間は進展こそないが、愛情は感じている。ミレイアが外で魔物退治をしているとき、彼もまた襲い来る魔物からこの地を守っているのだ。

『せやけど、運命のイタズラやな。自分が捨てた見合い相手が、アンタを頼ってくるとは』

 これはケジメだ。最後まで自分でやり遂げる。

『ほんで、どないする気や? 決心は付いたんか?』
「わたくしは、男爵最期の日まで、お仕えしたいですわ」

 しかし、過去は精算しなくては。

『あのあんちゃん、殺すつもりやないやろうね?』
「まさか! 冗談が過ぎますわ」
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