上 下
4 / 81
第一話 ここが、あの勇者様のハウスね

分からせてやるか

しおりを挟む
 先程クーゴンが視線を向けた先には、ダンジョンがある。
 勇者トゥーリが過去に封じた危険なアイテムの数々が、厳重に保管されているらしい。

 通称【宝物庫】と呼ばれているが、中身は毒々しい品々で埋め尽くされているとか。

 この屋敷に収められている正式な「宝」をカモフラージュするためだろう。

「魔物が現れた。どうやら、宝物庫のアイテムを狙ってのことだろう」

 ゴーレムを配置していたが、ことごとく倒されたらしい。

「ワタクシが向かいますわ」
 トランクから、盗賊捕縛用のロープと折りたたみ式のモップを取り出す。

「そんなナマクラで勝てる相手じゃない!」
 ミレイアの肩を掴んで、クーゴンが止めに入った。

「やってみなければ分かりません。急ぎますわ」
 クーゴンの手を払い、ミレイアは男爵に向き直る。

「あなたの思い出の品は、このミレイアがお守り致します」

「捨て置きなさい。あれは、私にとっても取るに足らぬ代物。わざわざあなたが出向かなくても」

「魔族にとっては呪いのアイテムすら貴重品です。それを使って市民を苦しめる。そんなこと、あなたでも望まないはず」

 ミレイアの気迫に押されてか、トゥーリ男爵は引き下がった。

「クーゴンさん、これを試練とさせてください。もし、わたくし一人でこの任務をこなせましたら、正式採用を」
 クーゴンの助けが必要な相手を倒すのだ。ならば、自分が採用されても文句は言えないはず。

「あなたは男爵様のお屋敷を見守っていてください。あなたのお手は煩わせませんわ」

 決して引き下がらないミレイアに、クーゴンは舌打ちをする。
「勝手にしろ。ただし、死にそうになっても助けてやらん」

「誰に向かって口を聞いてらっしゃるの?」
 ミレイアに、いつもの調子が戻った。

 必ず依頼を達成し、採用の許しをもらってやる。

「案内する。来い」

 ミレイアは、クーゴンの後ろをついていった。

 だが、たどり着いたのは屋敷の地下室である。

「ちょっと、ここは地下でしょ? 宝物庫はもっと向こうで」

 てっきり、監禁されてしまうのではと思った。
 このゴリラならやりかねない。
 男爵の趣味なら、ぎりぎり許せるが。
 
「こっちから向かったほうが近い」

 たしかに、宝物庫へは走っても数日、馬車でも二日はかかる。

 だからといって、地下に何があるというのか?

「どういうことですの?」
「こういうことだ」

 地下に、魔法陣が描かれていた。

「転送陣だ。ここから宝物庫まで飛べる」
「どうですか……って、それってまずいんじゃ」
「察したな。そういうわけだ」

 敵の狙いは、宝ではない。転送装置なのだ。
 転送装置を発見できれば、この地まで一足飛びでワープできる。
 魔法陣の場所は、絶対に知られてはいけない。

「敵は大した数じゃないらしい。オレたちで食い止めるぞ」

「ワタクシだけでも十分ですのに」
 ミレイアはため息をつく。

「オレは、監督役だ。オマエの成果を見届けねばならん。勝てたと言っても苦戦するようなら、即不採用だから覚悟しておけ」

「せいぜいワタクシの華麗な働きっぷりに舌を巻くとよろしくて」

「言ってろ。転送陣の中に立て」

 クーゴンに急かされ、ミレイアは魔法陣の中に。

「このまま拘束する気じゃないでしょうね? 転送するなんてウソで」

「そんなウソを付くくらいなら、とっくに食い殺している。オマエなんて来なかったことにしてな」

 ある程度は、期待されていると思っていい様子だ。

 クーゴンもろとも、陣の中央へ。

「少し揺れるぞ」
「お尻を触らないでくださいまし」
「列車の中じゃねえんだ。そこまでするか」


 軽口の叩き合いをしているうちに、転送が完了する。

「真っ暗ですわ」

 何も見えない。視界には、暗闇が広がるのみ。

 やはり、幽閉されたのでは?

 だが、クーゴンは同行している。
 一緒に閉じ込められたわけでもなさそうだ。

「敵に知られないように、陣の場所を隠しているのだ」

 クーゴンは、その辺の岩を引き戸のように動かした。

 音もなく、岩はひとりでに作動する。

 視界が、黄金色に広まっていった。
 
 金ピカの玉座の真後ろに、ミレイアは顔を出す。

「先に行ってろ」と、クーゴンはミレイアを押し出して、再び岩を動かして閉じた。

「ヒャッハーッ!」

 宝物庫と呼ばれる洞窟の奥で、まるまると太った巨人が暴れていた。顔はイノシシで、三メートルはあるだろうか。

 取り巻きもイノシシ顔の巨漢である。

「オークの群れ?」
「殺れそうか?」
「まあ、なんとかなりそうですわ」

「オークロードだな。想像以上に危険な化け物だぜ」
 クーゴンが、敵を分析した。

 オークロードの周りには、鉄製ゴーレムの部品が散乱している。鉄人形すら意に介さないとは。相手にとって不足はない。

「上等ですわ。わたくしの入社試験にふさわしい相手と言いましょうか」
 オークロードを見ながら、ミレイアは鼻を鳴らす。

「さてさて、お目当てのお宝はーっと、ああ?」
「そこまでですわ。悪党」

 モップを武器代わりに持って、ミレイアは現れる。
 思っていたよりデカい化け物を相手に、若干引く。
 しかし、男爵が大事にしているお宝を荒らす不届き者だ。
 許すわけにはいかねえ。

「その汚い手で、男爵様の宝に触らないでくださいまし。カビが生えますわ」
「なんだ、小娘? 餌になりたいならヌードになりな」

 魔族は意に介さない。ミレイアを敵として認識していなかった。

 分からせてやるか。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令嬢?何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:8,301pt お気に入り:5,734

【完結】そう、番だったら別れなさい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,442pt お気に入り:421

お隣さんはヤのつくご職業

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:1,844

君は僕の道標、貴方は俺の美しい蝶。

BL / 完結 24h.ポイント:369pt お気に入り:803

婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:399pt お気に入り:1,537

悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:213pt お気に入り:2,081

あなたに私の夫を差し上げます  略奪のち溺愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:20,577pt お気に入り:134

処理中です...