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第一話 ここが、あの勇者様のハウスね

ブーメランを魔物の顔面にシューッ!

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「こっち向きなさいよ豚ども!」
 モップを投げ槍のように投擲した。

 木製の槍と化したモップが、オークの一体を貫く。オーク一体は絶命したようだ。

 木製モップは一撃食らわせただけで、無残にも砕けてしまう。

「仲間がやられた!」
「ちくしょう、兄弟の仇!」
「女だろうが、どエラく強いぜ。ぶっ殺せ!」

 オークたちが、ミレイアを取り囲もうとした。

「何か、何か武器はないのですか?」

 足元に、大量のアイテムが転がっている。

 ミレイアはしゃがみ込み、適当に宝を物色した。
「これはいい感じですわ。少々お借りいたしますわ」
 宝の中から、ミレイアはブーメランを選択する。

「ブーメランを魔物の顔面にシューッ!」
 渾身の力を込めて、魔族にブーメランを投げつけた。

 オークたちの首を、ブーメランがハネ飛ばす。

 ザコは一掃できたようだ。
 
「残るは、あなただけですわ、豚」

 唯一残ったオークロードという豚親玉に、ミレイアはタンカを切った。

「挑発するな! 何か様子がおかしい!」
「頭がオカシイのは分かりますわ!」
「違う! オークの割に瘴気が強すぎる!」

 クーゴンが警戒する通り、ミレイアの頭もアラームが鳴りっぱなしなのだ。

 これがオークだと? だいたい人間サイズで、さほど危険な相手ではない。
 オークが女騎士を手篭めにする展開など、絵物語の世界それなんてラノベでしかありえない。


「俺様の邪魔をするなら、てめえから食っちまうぜ」
 うっとうしそうに言葉を吐き、魔族がこちらを向く。のっしのっしと、ミレイアの方へ寄ってくるではないか。

 異様な悪臭が、漂ってくる。
 これは、血の匂いだ。
 体中から、人間の血を浴びているではないか。


「ブーメランをシューッ!」
 半狂乱になったミレイアは、ブーメランを投げつけた。

 コン、という小気味良い音が鳴る。ブーメランは魔物の額に当たった。

 それだけで、ブーメランは砕けてしまう。


 これまでなのか?
 こんな暗い洞窟で魔物と二人きり、何も起きないはずもなく!

 男爵と契りを交わさずに死ぬなんて。

 ミレイアは後ずさる。
 決して怖いからではない。あまりにも敵が臭いからだ。

 自分の行いに後悔はしていない。
 だが、一太刀も浴びせられずに死んでいくことに、言いようもない屈辱を感じていた。
 聖女としてのトレーニングとは何だったのか。

 ちくしょう、一五歳から先は、花嫁修業しかしてねえ!

 側仕えの老執事から紅茶の入れ方を盗み見てはマネて、召使いの少女から料理のレシピを聞いては実験した。青春はほとんど料理と修行に明け暮れていたっけ。

 もっと魔物退治の特訓をしておくべきだったと、ミレイアは後悔した。


 嘔吐しそうなほどの悪臭が、目と鼻の先にまで達しようとした次の瞬間、ミレイアは後ろに倒れた。
 なにかに足を引っ掛けたのである。

 ヘビのようなムチであった。

「もう、邪魔な!」

 投げ捨てようとした瞬間、持ち手にある宝玉が、こっちを向く。
 黄金の目玉を思わせる宝玉が、ムチと持ち手の間に埋め込まれていた。
 そのヘビのような眼差しが、ミレイアを射抜く。


『我と契約せよ。さすれば、この魔女の力を得られようぞ』


 悠長に、ムチが語りかけてきた。

 こっちは急いでいるというのに。

 だが、魔物の動きが異常に鈍い。

 人は死ぬ間際、何もかもスローモーションに映るという。
 

 今がその時なのか?

『オマエの心に、超高速で語りかけている。脳へ直接信号を送っているようなものさ』

 魔女の力で、時間間隔が変化しているらしい。

 よく見ると、クーゴンがミレイアに何かを呼びかけている。
 だが、背後に何らかの気配を感じて奥へと向かっていった。

 その一部始終が、すべてスローモーションで繰り広げられる。

「あなたは何者です? 魔女と名乗っていましたが?」

『我が名は、この呪われた武具に閉じ込められし魔女。人呼んで、太陽よりも貴き者OVER THE SUNなり』

「本当に、手を貸してくださるの?」

『魔女に二言はない』
 しわがれた声で、魔女はヒヒヒと笑う。

「でもお高いんでしょう?」
『まあ、寿命をいただくことになるね』

「あらそう、では遠慮なく使わせていただきますわね」
 二つ返事で、ミレイアは自身の寿命を差し出す。

『ちょっと待てや。普通ためらわへんの? そういうムーブって大事やと思うねん』

「どうせ、男爵様は老い先短いお命。ならば、一緒に死ねるくらいの寿命ぐらい差し上げますわ」

 躊躇したのは、魔女の方だった。
 寿命を食ってしまっていいものか、考え込んでいるらしい。

「早くなさって。急いでますのよ」
『マジやん、このアマ。後悔すんなや!』
「元より後悔だらけですわ。今更何を悔やむやら」

 一度、自分は憧れの男爵に拒絶されたのだ。
 ならば、この命をかけてお守りするのみ。
 自分の幸せはどうでもいい。
 男爵様さえ無事であれば。

『捨て身の覚悟、しかと聞き届けた! 魔女の軌跡の再来を見よ!』

 ムチに付いた宝玉が光り輝いた。宝玉の隙間から紫色の触手が飛び出す。

「ひいい!」

 触手はミレイアの全身を包み、細胞レベルで融合する。



 激しい痛みはあったものの、一瞬だった。
 あとから来たのは、極上の恍惚感である。
 何でもできそうな万能感が、ミレイアの脳を支配した。
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