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イシス王国&ドルイド王国編

蘇る獣神と消去の魔女

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【ケイベイス洞窟前】
「待っててドレイク!必ず治すから!少し時間はかかるかど…絶対治すからっ!!」

ミンクはドレイクに「絶対に助かるから!」と言い聞かせる様に、回復魔法を掛けていた

「あっ!…い、痛たた…これは酷いね…流石に無理し過ぎちゃったみたいだね…」

「もうぅ!カルーアったら、こんなに頑張っちゃっうんだからぁ…心配したんだからねぇ!」

「あはは…でも、あの獣神を倒せたんだから、良かったじゃあないか!無理した甲斐があったってものさ…」

アリスは妹カルーアの頑張りを労い、頭を撫でて良い子良い子した。助かったと思い、お互い安堵の笑みを浮かべる姉妹。その時だった…

「ギョブォォ…」

アリス、カルーア、ミンクの背筋が一瞬で凍りついた。聞こえてはならない者のうめき声が聞こえたからだ…

「う、嘘よね、断末魔の悲鳴って奴よねぇ…」
 

恐怖に引きつりながらも、アリスは恐る恐る背後を振り返った。すると…

「んなっ!?」

ドレイクの超剣戟とカルーアの超極大魔法で虫の息だったマルバァスが、ゆっくり頭を持ち上げようとしていた

「う、嘘よね…アレだけダメージを与えたのよ!?」

ミンクも事のヤバさを理解した。魔法の使い過ぎなのか?蘇ろうとしている獣神への恐怖なのか?彼女の顔色はイッキに悪くなった

「復活なんてされたら…今の戦力じゃぁ…どうしたって勝ち目なんか無いじゃない…」

マルバァスの背中の突起物が、青白く光っている。それとともに、ヤツの受けた大ダメージが少しづつ修復されている
パッと見、100くらいある突起物が青白い光を灯していたが…徐々に黒くなっていく

「突起物だ…あの背中の突起物が、あらゆる傷を治すポーションの役目を果たしてるんだ…」

カルーアはマルバァスの傷の回復具合と、突起物の黒色化から、そう推察した


「さ……三分の一くらいが黒くなっていく…ってことは何?私達が与えたダメージを、あと3回与えないとアイツを倒せないって事?」

おそらくミンクの仮説は正解だ

「そんな、どう頑張ってもアタシそんな走れないよぉ…」

「貴方だけじゃないわ…他のみんなもよ…」

ミンク、カルーア、アリスは自分達に勝ち目が全く無い事を悟った



【離れた山の上】
「ヤバい、マルバァスが再生していく…なのに、向こうの4人は、既に限界…絶対絶命だ…」

遠視で見ていたミクイも、圧倒的にヤバい状況を理解し顔面蒼白だ

「人間が…いや、亜人も含めて人型の生き物が、どう頑張っても勝ち目のない存在だ…アレが獣神…」

アドルも圧倒的敗北を理解した。地上最強の種族と言われる臥龍族の最強の戦士と魔法使い、それに希少種であるハイエルフが束になったのに勝ち目が無いのだから……隣で優輝が震えながらブツブツと何かを呟いている

「優輝、どうした?お腹痛くなったか?」

「ちげーよ!…はぁ、今度呼んだら俺、確実に殺されるだろうなぁ…」

「もしかして…この状況を何とか出来そうな者を呼べるのですか!?」

イシスの戦いを知らないサリーリャ達は優輝に質問した

「えぇい!最悪、俺一人の生命で何とかなるのなら!やってやらぁ!」



【アレクス城】
「うっまー!ローナってばデザート作りの天才よねぇ♪マジでヤバい美味しさね!」
 

「お褒め頂き有難うございます!有栖様から教えていただいた【ブリン】のレシピのおかげです♪」

中庭で部下に稽古を付けているアレクスとロキシードをよそに、3人の魔女はローナの用意した紅茶とプリンでお昼のひと時を楽しんでいた

「へー、じゃあ優輝とか言う貴方と同じ出身地の男に呼ばれて、イシスに行っていたのね」

「そうなのよぉ!ほんでさ、自分達じゃ負けるからって私にベイの軍団を全滅させてくれ!って頼んできたのよ…ふざけんな!ってのよ」

お茶会の席で、この前有栖が突然フュール達の前から消えた理由を説明していた

「そうね…流石にソレは無いわよね」

渇望の魔女と呼ばれるフュールも、面識の浅い有栖1人に「敵軍を倒してくれ」なんて無茶頼みに呆れていたのだが…

「でも、エーデは少し分かります…本当にどうにもならない絶望的な状況に襲われたら…例え相手が何であっても、すがれるものには、すがりたくなりますから…」

「エーデ…そうだね、それも仕方ないよね」

フュールは優しくエーデの頭を撫でた。やんわり微笑むエーデ。彼女のツライ過去をフュールは知っているからだ

「そっか!エーデちゃんは隣国の騙し討ちで、住んでた城が絶望的になってたところをフュールに助けてもらったんだっけ…うーん、なら…まあ、仕方ない…のかな?
まぁ、彼からもらった記憶を媒体にして掛けた中和魔法で、世界中からの認識阻害も明後日くらいには完全に中和されるから…アイツに呼ばれる事はもう無いハズ…あっ!?あぁぁ!」

「どうしたの有栖?…まさか?」

「呼ばれた!…あんだけ釘刺したのに…あの男、また私を呼んでやがるっ!」

アレクス城でお茶会を楽しんでいた有栖の脳内に、助けを求める優輝の声が確かに届いた



【盆地の上】
「徳川有栖ぅー!俺だ、優輝だ!頼みを聞いてくれーっ!引き換えに俺の生命でも何でも捧げるからー!助けに来てくれー!!」

優輝は何度も何度も【消去の魔女】の名を連呼した。それ程に追い詰められた状況だからだ

「頼む有栖っ!あーりぃす、ちゅわぁー…」

「ゲシッ!」優輝は突然、背後から蹴られた

「やかましいわっ!あんたねぇ…少しは遠慮するって言葉を知らないのっ!!」

優輝は自分を蹴ったのが誰か理解していた。すぐさま振り返り深々と頭を下げた。かなり怒っている有栖が、腕を組んで優輝を見下ろしている

「懲りずに呼んでしまって…申し訳ない!それでも!どうしても!頼みたい事が有るんだっ!」

優輝の前には魔法陣が現れていて、そこから魔女達が出て来た

「あぁっ!【渇望の魔女】それに【不死の魔女】までっ!!」

アドルはかつて自分に瀕死の致命傷を与えたフュールと、何度か戦った【不死の魔女】が目の前に居る事に驚いた!

「貴方(アドル)…本当にアレを喰らって生き延びてたのね、アドル・クリスニッジ」

フュールはアドルに気が付くと、優しい眼差しだが不敵な笑みを浮かべた

「あんたねぇ!十分な見返りはしてあげたんだから、もう呼ばないで!って言ったでしょうがっ!どういう了見よっ!!」

「すみません、すみません、すみません!流石に【国家災害級】はどうにもならなくて、俺だけならともかく…」

「国家災害級!?…はーん…マルバァスか…おや?臥龍兵の大隊長に大魔道士まで…ふむ、彼らが居てもヤツには勝てないか…まっ、そうだろうね」

徳川有栖は回復中のマルバァスを見つけた。見つめるその瞳には、何か想いがあるようだった

「あの、3人はどういう関係で…」

「フュールとエーデは、私の仲間であり友人よ!そんな事より…今回、私を呼び出した理由はアレね!」

有栖はマルバァスを指さした。無言で「ブンブン」頭を上下に振り答えた優輝

「はぁ、流石にアレはほっとけないか…私達にとっても困るからね…優輝!本当にこれが最後だからねっ!?」

「あ、有難うございますっ!!」

優輝が命懸けで呼び出した【消去の魔女】以外にも、2人も追加で魔女が来ていた

「アレを倒せるのかい?」

「誰に物を言ってる!私はともかく、フュールお姉様の敵じゃないわ!更に、お姉様の親友まで居るのよ。あんな獣如きに負けないわよ!」

エーデは強気だった。自分の師匠に加えて最強の魔女も居るのだからと!だがソレは、決して虚勢ではなかった事を教えられる事になる
魔族側でドチラが最強か?と言われる魔女【有栖】と【フュール】対【獣神マルバァス】の戦いが始まろうとしていた



続く
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