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第1章 旅立ちの日 編
第 44 話 初使用!成者の剣
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「なんだぁ? アイツは」
2体のワーウルフが顔を見合わせる。
「どした、どした?」
ワーウルフの足元付近の草むらがガサゴソと 揺れた。さあ、見つかったぞ! 篤樹は覚悟を決める。
「やめろ! このバケモノ共が! 俺が相手だ! かかって来い!」
うわっ! ダッセーセリフ!
こんな幼稚な 挑発の言葉しか思い浮かばない自分自身に、篤樹はガッカリした。
何だよこの 特撮ヒーローっぽいセリフは……中3にもなってこんな「ゴッコ遊び」みたいなセリフが飛び出すなんて……恥ずかし過ぎるだろ!
それでも、サーガを呼び集めるには十分効果があったようだ。
「おい! 人間だ! もう一匹いたぞ!」
篤樹を「人間」だと確認したワーウルフが大声で叫ぶ。
「何! よし! 任せろ!」
草むらの中から声が聞こえる。
「回り込め!」
「逃がすなよ!」
エルグレドが「小型の個体」と呼んでた連中が、草むらの中を進み向かって来ているようだ。ワーウルフも2体並びで近づいてくる。2体とも大型の 刃幅の広い 斧を手に持っていた。
えっと……この後は?
篤樹はどうしようかと迷う。挑発しておいて逃げ出すってのは……カッコ悪いだけでなく、一箇所にヤツラを集めるという計画からズレてしまう。でも、だからと言ってこのままここに突っ立っていたら……
迫り来る「草むらの音」に、篤樹は 恐怖を感じ始めた。エルグレドさん……どうすりゃ良いの!
「エイッ!」
広場中央付近の草むらから突然エシャーが顔を出すと、1体のワーウルフ目がけ攻撃魔法を 放った。ギャン! と叫び声を上げ、ワーウルフが草むらの中に倒れる。
「エシャー!」
「アッキー! 逃げて!」
いや……逃げると作戦が……
「なんだなんだ!」
「エルフがいやがる! 攻撃されたぞ!」
草むらの中のざわつく声に、残っていたワーウルフが答えた。
「広場の真ん中付近だ!」
篤樹に向かって来ていた草の波が、ワーウルフの指示を受けエシャーに向きを変え移動し始める。
「エシャー! そっちに何かが向かって行った! 気を付けて! 小さい奴だ!」
慌てて叫んだ篤樹の声を聞き、エシャーも草むらに 警戒の目を向けた。しかし、エシャーの身長では遠くまで確認出来ない。篤樹は爪先立ちでエシャーの様子を見ていた。
「コウリャー!」
突然、篤樹の目の前の草むらから何かが飛び出して来る。
え? 何、コイツ……
篤樹の目の前に出て来たのは小人族……エシャーの祖父シャルロと同じくらいの身長の小人型サーガだった。しかしシャルロのような文明らしさは感じられない。 裸足にボロボロのズボン。ガリガリにやせ細った裸の上半身に「子ども用のジャケット」のようなボロボロの上着を着ている。
小人型のサーガは両手で 槍のような武器を握り 締め、口元からよだれを 垂らしながら、どこを見ているのか分からない目で篤樹に顔を向けていた。
「ゲシャラファラァ……ニク、ニク」
ソイツは篤樹に向かって槍を突いて来る。
「うわっ! ちょっと! 待って!」
次々に突き出される槍の 先端から逃れようと、篤樹は背後の森の中へ後ずさる。 視界の端に、もう一体のワーウルフが間近に迫って来ているのを感じた。
ちょ、ちょっと! ヤバイって!
ワーウルフが 振り上げた斧と、小型が突き出そうとしている槍……篤樹は先にどちらを 避ければ良いのか判断が出来ず、その場に立ち尽くし目をギュッと閉じた。次の瞬間……
ピシュー! ピシュー!
聞き慣れない音が2回、篤樹の耳に聞こえた。
「大丈夫ですか? アツキくん!」
エルグレドが木の上からストンッ! と飛び降り駆けて来る。篤樹は放心状態で 頷いた。
「すみません! 想定外でした。あそこでエシャーさんが出て来るとは……小型はあと3体です! 確認しました。ここで待っていて下さい!」
エルグレドはエシャーが倒したワーウルフのそばへ駆け行き「とどめ」を刺すと、エシャーたちの居る草むら中央へ向かって行く。放心状態だった篤樹は、エルグレドの言葉をかなり時間をかけ理解し始めていた。
えっとぉ……エルグレドさんが草むらの中に入っていってるのは……3体の小型サーガを倒すため? じゃあ……俺はもう……助かったのかな?
篤樹は目の前に倒れている小型のサーガと、少し離れて倒れている大型のワーウルフのサーガを、恐怖に見開いたままの目で確認した。
倒れてる……動いてない……助かった?
倒された2体のサーガの体が、ユラユラと 蜃気楼のように揺れ始めた。 水槽の中に墨汁をゆっくり注ぎこんだような黒い 霧が、それぞれの体から立ち上りはじめる。やがて、2体の身体そのものが消えて無くなっていく。
そこまでを見届け、ようやく篤樹は「今、どこにいて、何をしているのか」を認識する思考が回復してきた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
草むらに飛び込んでいったエルグレドは、木の上から確認した小型の個体の動きを頭の中でシミュレーションしながら、広場中央へ駆け寄って行く。
「エシャーさん、左手10mを警戒! レイラさんは?」
「ここよ!」
エシャーの背後に少し離れ、背中合わせに立つレイラの姿をエルグレドは確認した。
「さすが! そちらに2体回り込んでます!」
エルグレドは2人のもとに駆け付け、自分もレイラと同じ向きで3人背中合わせに立つ。
「エシャーは 堪え性の無い子でしてよ、隊長さん」
「だって、アッキーが!」
「来ます!」
エルグレドが声をかけるとほぼ同時に、目の前の草むらから槍の 穂先が飛び出して来た。
エルグレドはそれを 避け棒の部分を片手で 掴むと、敵が突き出す速度よりも速く「グイッ!」と手前に引き、槍尻を持ち上げた。
一瞬の事で手を離し 損ねた敵本体が宙に舞い上がる。レイラがその本体目がけ左手の平をかざすと、吊り上げられた小型のサーガは瞬時に 粉々に砕け散った。
「あら? 隊長さんって腕力タイプでしたの?」
「タイミングです。本来は腕力を使わない攻撃のほうが得意なんですけどね……あなたも、思ってた以上に 豪快な攻撃魔法をお使いのようですね」
2人は互いに口元に笑みを浮かべる。
「『小型』はホビット系だったみたいですね」
エルグレドの言葉にエシャーが反応し振り返った。
「え! ホビットって……小人属の? そんな……」
「小人でもエルフでもサーガは生まれますよ。集中して!」
そんな……ひいおじい様のお仲間にもサーガが……
エシャーは一瞬シャルロの笑顔を思い出していた。あの「可愛らしい笑顔」を……おかげで反応が遅れてしまう。
「危ない!」
背後からレイラの手が伸び、エシャーを右横に押した。左目のすぐ横を何かがかすめ、背後に飛んで行く。
「しゃがんで!」
今度は考えるよりも先に身体が動いた。エシャーは「サッ!」と身を 屈める。さっきのは……何? エシャーは風を感じた左のこめかみ辺りを触る。ヌルッとした感触の手を確認すると、真っ赤な血が付いていた。
「大丈夫?」
レイラが辺りの 警戒を怠らないよう、注意しながらエシャーに声をかける。
「……あ、うん、少し……かすっただけ……レイラ!?」
エシャーはレイラの右腕から血が 滴り落ちているのを見て声を上げた。
「大丈夫よ。私もかすっただけだから」
レイラは右腕をだらんと下ろし、左手で右の 上腕付近の出血箇所を抑えている。
「2人共、大丈………夫では無さそうですね」
エルグレドが辺りを警戒しつつ2人の様子を確認し、息を飲む。
「右腕の出血さえ止まれば大丈夫ですわ。ただ私……自己治癒魔法は使えませんの」
レイラは悪びれる感じでもなく、事実をありのままに伝えるトーンでエルグレドに答えた。エルグレドがレイラに手を伸ばす。
「危ない!」
その差し出した手を目がけて飛んできた「それ」に気付き、エシャーが叫んだ。エルグレドは即座に手を引き、 楕円軌道で戻ってきた「それ」を再度かわす。
「クリングです!」
エルグレドの声に反応し、エシャーは自分の左腕のクリングを右手で 触って確認する。私のは……有る。
「あらあら、良いオモチャを持ってるみたいね、小型のサーガさんたちは……」
レイラは草むらを 睨みつけ言い放ち、怪我をしている右手で攻撃魔法態勢をとった。
「いっそ全部焼き払って、姿を現していただきましょうか?」
「だめです! これだけの草むらを焼き払えば、こちらにも被害が生じます!」
エルグレドが 慌てて止める。
「冗談よ、隊長さん。そのくらいうっとうしい攻撃ってことですわ……草むらからのクリング攻撃は……」
3人は再び近づき、背中合わせの警戒態勢を取ろうとした。しかし、その合流を阻む「クリング攻撃」が続く。
「ほら! もう……面倒ね!」
再び飛んできたクリングをかわし、レイラが抗議の声を上げた。
「止血魔法を使いたいんですが……」
エルグレドがレイラをチラッと見て声をかける。
「『小型』さんたちは攻撃方法を変えたみたいですわ。私たちを一定距離以上近づけさせずにいるところを見ると……どこかのタイミングで2対1の攻撃を仕掛けてくるおつもりでは?」
「『小型』なだけに、これだけの背丈の草むらなら姿を隠すのもお手のもの……ですか」
エルグレドは周囲警戒を 怠らず、何回かレイラへ止血魔法を試みようとするが……その度に高速のクリング攻撃で狙われてしまう。
「あ! そうだ!」
エシャーは自分の左腕からクリングを外し、法力を 溜め「法力光の刃」を出させた。
「レイラ、しゃがんで!」
レイラの正面の草むらに向かい、エシャーはクリングを投げる。草むらの中をきれいに楕円軌道で回ったクリングは、しっかりとエシャーの手元に戻って来た。
「エシャーさん! クリングはそんな風に 滅多やたらに投げる武器ではありませんよ! 相手を確認し、楕円をイメージして、投げる者の法力でコントロールしながらでないと当たりません!」
エルグレドが注意するが、エシャーは 一向にお構い無く、何度も何度も投げ続ける。
「エシャー! 無駄だからやめなさいって!」
頭上を何度も行きかうクリングに、レイラもウンザリした声で注意をする。しばらくすると、レイラの目の前の草むらはエシャーのクリングによって刈られ、まるで大風になぎ倒された麦畑のようになっていた。
「エルグレドさん! 止血を!」
エシャーはエルグレドにレイラの止血を指示する。エルグレドはエシャーに何か考えがあると察し、その指示に従う。
「レイラさん、こっちへ!」
エルグレドが手を伸ばした。次の瞬間……
「いた!」
エシャーは叫ぶと、刈り倒された草むら目がけクリングを投げる。
「ギャブッ!」
草むらの奥10mほどの所から、小型サーガの断末魔が聞こえた。エルグレドはレイラの右腕出血点に自分の右手の平をしっかり乗せ止血魔法を施しながら、やわらかな笑みをエシャーに向ける。
「なるほど……『敵』は草むらそのもの、というわけですか?」
「だって、 邪魔だったんだもん。だからまず先に『邪魔な敵』をしっかり倒したの。そうしたらあの『クリング投げ』の敵の姿も見つけやすいかなぁって」
エシャーは自分の「作戦」が上手くいった事に 高揚してるのか、それともクリングを多用したせいか、 頬を赤らめながらエルグレドとレイラに説明をした。
「さて……あと一体いるはずですけど……」
エルグレドはそう言って周りを確認する。止血が終わったレイラも地面に手の平をついて気配を探る。
「近くにはいませんわ……」
「いったいどこに……」
3人は辺りを見渡した。
「おや?」
広場の 端に立っている篤樹の姿にエルグレドは気付く。こちらに向かって篤樹が手を上げている。
「アッキー……?」
「何かあったんでしょうか?」
3人は周囲を警戒しながら篤樹に近づき、その手に握っているモノに気付いた。
「『 成者の剣』……の 原初形態……ですね」
エルグレドはハッキリ「それ」と分かる距離まで近づくと、篤樹の足元に小型のホビット系サーガが倒れている事にも気付いた。
「え? 残りの1体? これ、アッキーが?」
「あら、こんな所で 逝ってしまってたんですの? 最後の小型さんは」
篤樹は引きつった笑顔でレイラの問いに 頷いた。
「3人とも、無事でよかった……です。……とりあえず、僕も……勝てました……」
そう言うと篤樹は、「アイスバーの棒」のような成者の剣を握り締め、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。
2体のワーウルフが顔を見合わせる。
「どした、どした?」
ワーウルフの足元付近の草むらがガサゴソと 揺れた。さあ、見つかったぞ! 篤樹は覚悟を決める。
「やめろ! このバケモノ共が! 俺が相手だ! かかって来い!」
うわっ! ダッセーセリフ!
こんな幼稚な 挑発の言葉しか思い浮かばない自分自身に、篤樹はガッカリした。
何だよこの 特撮ヒーローっぽいセリフは……中3にもなってこんな「ゴッコ遊び」みたいなセリフが飛び出すなんて……恥ずかし過ぎるだろ!
それでも、サーガを呼び集めるには十分効果があったようだ。
「おい! 人間だ! もう一匹いたぞ!」
篤樹を「人間」だと確認したワーウルフが大声で叫ぶ。
「何! よし! 任せろ!」
草むらの中から声が聞こえる。
「回り込め!」
「逃がすなよ!」
エルグレドが「小型の個体」と呼んでた連中が、草むらの中を進み向かって来ているようだ。ワーウルフも2体並びで近づいてくる。2体とも大型の 刃幅の広い 斧を手に持っていた。
えっと……この後は?
篤樹はどうしようかと迷う。挑発しておいて逃げ出すってのは……カッコ悪いだけでなく、一箇所にヤツラを集めるという計画からズレてしまう。でも、だからと言ってこのままここに突っ立っていたら……
迫り来る「草むらの音」に、篤樹は 恐怖を感じ始めた。エルグレドさん……どうすりゃ良いの!
「エイッ!」
広場中央付近の草むらから突然エシャーが顔を出すと、1体のワーウルフ目がけ攻撃魔法を 放った。ギャン! と叫び声を上げ、ワーウルフが草むらの中に倒れる。
「エシャー!」
「アッキー! 逃げて!」
いや……逃げると作戦が……
「なんだなんだ!」
「エルフがいやがる! 攻撃されたぞ!」
草むらの中のざわつく声に、残っていたワーウルフが答えた。
「広場の真ん中付近だ!」
篤樹に向かって来ていた草の波が、ワーウルフの指示を受けエシャーに向きを変え移動し始める。
「エシャー! そっちに何かが向かって行った! 気を付けて! 小さい奴だ!」
慌てて叫んだ篤樹の声を聞き、エシャーも草むらに 警戒の目を向けた。しかし、エシャーの身長では遠くまで確認出来ない。篤樹は爪先立ちでエシャーの様子を見ていた。
「コウリャー!」
突然、篤樹の目の前の草むらから何かが飛び出して来る。
え? 何、コイツ……
篤樹の目の前に出て来たのは小人族……エシャーの祖父シャルロと同じくらいの身長の小人型サーガだった。しかしシャルロのような文明らしさは感じられない。 裸足にボロボロのズボン。ガリガリにやせ細った裸の上半身に「子ども用のジャケット」のようなボロボロの上着を着ている。
小人型のサーガは両手で 槍のような武器を握り 締め、口元からよだれを 垂らしながら、どこを見ているのか分からない目で篤樹に顔を向けていた。
「ゲシャラファラァ……ニク、ニク」
ソイツは篤樹に向かって槍を突いて来る。
「うわっ! ちょっと! 待って!」
次々に突き出される槍の 先端から逃れようと、篤樹は背後の森の中へ後ずさる。 視界の端に、もう一体のワーウルフが間近に迫って来ているのを感じた。
ちょ、ちょっと! ヤバイって!
ワーウルフが 振り上げた斧と、小型が突き出そうとしている槍……篤樹は先にどちらを 避ければ良いのか判断が出来ず、その場に立ち尽くし目をギュッと閉じた。次の瞬間……
ピシュー! ピシュー!
聞き慣れない音が2回、篤樹の耳に聞こえた。
「大丈夫ですか? アツキくん!」
エルグレドが木の上からストンッ! と飛び降り駆けて来る。篤樹は放心状態で 頷いた。
「すみません! 想定外でした。あそこでエシャーさんが出て来るとは……小型はあと3体です! 確認しました。ここで待っていて下さい!」
エルグレドはエシャーが倒したワーウルフのそばへ駆け行き「とどめ」を刺すと、エシャーたちの居る草むら中央へ向かって行く。放心状態だった篤樹は、エルグレドの言葉をかなり時間をかけ理解し始めていた。
えっとぉ……エルグレドさんが草むらの中に入っていってるのは……3体の小型サーガを倒すため? じゃあ……俺はもう……助かったのかな?
篤樹は目の前に倒れている小型のサーガと、少し離れて倒れている大型のワーウルフのサーガを、恐怖に見開いたままの目で確認した。
倒れてる……動いてない……助かった?
倒された2体のサーガの体が、ユラユラと 蜃気楼のように揺れ始めた。 水槽の中に墨汁をゆっくり注ぎこんだような黒い 霧が、それぞれの体から立ち上りはじめる。やがて、2体の身体そのものが消えて無くなっていく。
そこまでを見届け、ようやく篤樹は「今、どこにいて、何をしているのか」を認識する思考が回復してきた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
草むらに飛び込んでいったエルグレドは、木の上から確認した小型の個体の動きを頭の中でシミュレーションしながら、広場中央へ駆け寄って行く。
「エシャーさん、左手10mを警戒! レイラさんは?」
「ここよ!」
エシャーの背後に少し離れ、背中合わせに立つレイラの姿をエルグレドは確認した。
「さすが! そちらに2体回り込んでます!」
エルグレドは2人のもとに駆け付け、自分もレイラと同じ向きで3人背中合わせに立つ。
「エシャーは 堪え性の無い子でしてよ、隊長さん」
「だって、アッキーが!」
「来ます!」
エルグレドが声をかけるとほぼ同時に、目の前の草むらから槍の 穂先が飛び出して来た。
エルグレドはそれを 避け棒の部分を片手で 掴むと、敵が突き出す速度よりも速く「グイッ!」と手前に引き、槍尻を持ち上げた。
一瞬の事で手を離し 損ねた敵本体が宙に舞い上がる。レイラがその本体目がけ左手の平をかざすと、吊り上げられた小型のサーガは瞬時に 粉々に砕け散った。
「あら? 隊長さんって腕力タイプでしたの?」
「タイミングです。本来は腕力を使わない攻撃のほうが得意なんですけどね……あなたも、思ってた以上に 豪快な攻撃魔法をお使いのようですね」
2人は互いに口元に笑みを浮かべる。
「『小型』はホビット系だったみたいですね」
エルグレドの言葉にエシャーが反応し振り返った。
「え! ホビットって……小人属の? そんな……」
「小人でもエルフでもサーガは生まれますよ。集中して!」
そんな……ひいおじい様のお仲間にもサーガが……
エシャーは一瞬シャルロの笑顔を思い出していた。あの「可愛らしい笑顔」を……おかげで反応が遅れてしまう。
「危ない!」
背後からレイラの手が伸び、エシャーを右横に押した。左目のすぐ横を何かがかすめ、背後に飛んで行く。
「しゃがんで!」
今度は考えるよりも先に身体が動いた。エシャーは「サッ!」と身を 屈める。さっきのは……何? エシャーは風を感じた左のこめかみ辺りを触る。ヌルッとした感触の手を確認すると、真っ赤な血が付いていた。
「大丈夫?」
レイラが辺りの 警戒を怠らないよう、注意しながらエシャーに声をかける。
「……あ、うん、少し……かすっただけ……レイラ!?」
エシャーはレイラの右腕から血が 滴り落ちているのを見て声を上げた。
「大丈夫よ。私もかすっただけだから」
レイラは右腕をだらんと下ろし、左手で右の 上腕付近の出血箇所を抑えている。
「2人共、大丈………夫では無さそうですね」
エルグレドが辺りを警戒しつつ2人の様子を確認し、息を飲む。
「右腕の出血さえ止まれば大丈夫ですわ。ただ私……自己治癒魔法は使えませんの」
レイラは悪びれる感じでもなく、事実をありのままに伝えるトーンでエルグレドに答えた。エルグレドがレイラに手を伸ばす。
「危ない!」
その差し出した手を目がけて飛んできた「それ」に気付き、エシャーが叫んだ。エルグレドは即座に手を引き、 楕円軌道で戻ってきた「それ」を再度かわす。
「クリングです!」
エルグレドの声に反応し、エシャーは自分の左腕のクリングを右手で 触って確認する。私のは……有る。
「あらあら、良いオモチャを持ってるみたいね、小型のサーガさんたちは……」
レイラは草むらを 睨みつけ言い放ち、怪我をしている右手で攻撃魔法態勢をとった。
「いっそ全部焼き払って、姿を現していただきましょうか?」
「だめです! これだけの草むらを焼き払えば、こちらにも被害が生じます!」
エルグレドが 慌てて止める。
「冗談よ、隊長さん。そのくらいうっとうしい攻撃ってことですわ……草むらからのクリング攻撃は……」
3人は再び近づき、背中合わせの警戒態勢を取ろうとした。しかし、その合流を阻む「クリング攻撃」が続く。
「ほら! もう……面倒ね!」
再び飛んできたクリングをかわし、レイラが抗議の声を上げた。
「止血魔法を使いたいんですが……」
エルグレドがレイラをチラッと見て声をかける。
「『小型』さんたちは攻撃方法を変えたみたいですわ。私たちを一定距離以上近づけさせずにいるところを見ると……どこかのタイミングで2対1の攻撃を仕掛けてくるおつもりでは?」
「『小型』なだけに、これだけの背丈の草むらなら姿を隠すのもお手のもの……ですか」
エルグレドは周囲警戒を 怠らず、何回かレイラへ止血魔法を試みようとするが……その度に高速のクリング攻撃で狙われてしまう。
「あ! そうだ!」
エシャーは自分の左腕からクリングを外し、法力を 溜め「法力光の刃」を出させた。
「レイラ、しゃがんで!」
レイラの正面の草むらに向かい、エシャーはクリングを投げる。草むらの中をきれいに楕円軌道で回ったクリングは、しっかりとエシャーの手元に戻って来た。
「エシャーさん! クリングはそんな風に 滅多やたらに投げる武器ではありませんよ! 相手を確認し、楕円をイメージして、投げる者の法力でコントロールしながらでないと当たりません!」
エルグレドが注意するが、エシャーは 一向にお構い無く、何度も何度も投げ続ける。
「エシャー! 無駄だからやめなさいって!」
頭上を何度も行きかうクリングに、レイラもウンザリした声で注意をする。しばらくすると、レイラの目の前の草むらはエシャーのクリングによって刈られ、まるで大風になぎ倒された麦畑のようになっていた。
「エルグレドさん! 止血を!」
エシャーはエルグレドにレイラの止血を指示する。エルグレドはエシャーに何か考えがあると察し、その指示に従う。
「レイラさん、こっちへ!」
エルグレドが手を伸ばした。次の瞬間……
「いた!」
エシャーは叫ぶと、刈り倒された草むら目がけクリングを投げる。
「ギャブッ!」
草むらの奥10mほどの所から、小型サーガの断末魔が聞こえた。エルグレドはレイラの右腕出血点に自分の右手の平をしっかり乗せ止血魔法を施しながら、やわらかな笑みをエシャーに向ける。
「なるほど……『敵』は草むらそのもの、というわけですか?」
「だって、 邪魔だったんだもん。だからまず先に『邪魔な敵』をしっかり倒したの。そうしたらあの『クリング投げ』の敵の姿も見つけやすいかなぁって」
エシャーは自分の「作戦」が上手くいった事に 高揚してるのか、それともクリングを多用したせいか、 頬を赤らめながらエルグレドとレイラに説明をした。
「さて……あと一体いるはずですけど……」
エルグレドはそう言って周りを確認する。止血が終わったレイラも地面に手の平をついて気配を探る。
「近くにはいませんわ……」
「いったいどこに……」
3人は辺りを見渡した。
「おや?」
広場の 端に立っている篤樹の姿にエルグレドは気付く。こちらに向かって篤樹が手を上げている。
「アッキー……?」
「何かあったんでしょうか?」
3人は周囲を警戒しながら篤樹に近づき、その手に握っているモノに気付いた。
「『 成者の剣』……の 原初形態……ですね」
エルグレドはハッキリ「それ」と分かる距離まで近づくと、篤樹の足元に小型のホビット系サーガが倒れている事にも気付いた。
「え? 残りの1体? これ、アッキーが?」
「あら、こんな所で 逝ってしまってたんですの? 最後の小型さんは」
篤樹は引きつった笑顔でレイラの問いに 頷いた。
「3人とも、無事でよかった……です。……とりあえず、僕も……勝てました……」
そう言うと篤樹は、「アイスバーの棒」のような成者の剣を握り締め、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。
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