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動き出す時

大天使様の真実(真実とは言ってない)

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身支度を済ませた俺は、クスターたちを俺の部屋に呼ぶよう騎士たちに頼んだ。ヴァイナモに朝食はどうするかと聞かれたが、今はあまりお腹が空いてないから後で食べることにした。それよりさっさと話をまとめた方が良いからね。

「……ヴァイナモ」

「はい。なんですか?」

「嘘も方便だと思いますか?」

俺の問いにヴァイナモは目を瞬かせた。身支度を整えながら考えていたんだけど、今回の件は少しの嘘を織り交ぜた方が俺に・・利がある結果となりそうだった。でも嘘をつくのは良くないことだ。だから迷っている。それが相手のための嘘ならまだしも、自分のためでもあるから。

「……それで穏便に事が済ませられるのであれば、多少の嘘は黙認されると思いますよ?」

「……そうですか。ありがとうございます」

ヴァイナモが肯定してくれたので、俺は嘘をつくことにした。ああ言う純粋な信仰心を持ってる人を騙すのは少し罪悪感があるけど、多分その方が上手くまとめることが出来るはず。

……なんかヴァイナモに肯定されるだけで凄く心強いな。ヴァイナモは俺の最初の、そして現在進行形で理解者だ。

俺はヴァイナモに微笑んだ。ヴァイナモは不思議そうに首を傾げつつも、笑顔を返してくれた。……うん。俺はヴァイナモの隣が落ち着くや。


* * *


クスターとライラ、そして騎士たちが俺の部屋に集まった。サムエルが朝から絶好調で帝国聖歌を歌っているので、ライラとクスターは奇っ怪なものを見る目でサムエルを見ていた。そっか。俺たちはもう慣れたけど、普通護衛中に熱唱する人なんていないか。でもまあ快活で爽やかな帝国聖歌は、清々しい朝にピッタリでしょ!良きBGM!だから気にすんな!

「……さて、昨日の話の続きをしましょうか」

「……その、クスターはこれ以上のお咎めはないのでは……?」

ライラがサムエルをちらちら見ながら不安そうに尋ねてきた。どうやらクスターの処罰を決めるために呼ばれたと思っているようだ。

「ええ。昨日も言ったでしょう?貴女とヴァイナモの蹴りに免じて、今回は見逃します」

「なら、本日は何用で……?」

「貴方たちが私に要求してきた案件についてです」

「大教会を開放してくれるのか!?」

弱々しげだった2人の表情が緩んだ。もしかしてこのままその話は無かったことにされるとでも思っていたのかな?俺はそこまで薄情じゃないよ。

「いえ。皇族は宗教に干渉しない決まりでして、俺が大教会を開放させることは出来ません」

「そうなのか!?」

「それは……!本当にご迷惑をおかけしました!」

2人は驚愕の表情を浮かべ、ライラはガバッと最敬礼をして謝罪した。まあ勘違いされやすいわな。『偉い人=皇族』って公式が平民にはあるだろうし。でも偉い人も一枚岩ではないのだ。

「ですから私が貴方たちを大天使様の所へ連れて行くことは出来ません。ですが真実を伝えることは出来ます」

「……真実、ですか?」

「はい。何故大教会側が大天使様を隠したがるのか、それをお伝えしましょう」

2人はゴクリと喉を鳴らした。騎士たちは「えっ?金せしめるためじゃないの?」って顔をしてくるが、視線で「黙っとれ」と伝えると表情を引き締め、こくりと小さく頷いた。

俺は2人に視線を戻して、語り騙り始めた。

「第一に、大天使様とはどのようなお方でしょうか」

「えっと。この世の創造神様の眷属にして、慈愛を司ると言われる崇高なお方です」

「はい。大天使様は貧しい人や不幸な人に救いの手を差し伸べていらっしゃる。ですがそれは大天使様だけで出来ることでしょうか?」

「……いえ。大天使様は一人でも多くの人を救うため、沢山の天使様を使役なさっています」

「そうですね。つまり大天使様は天使様方の司令塔のようなお役目を果たされていられる、重要な存在であられます。この世には救いの手を求める人々が途絶えることなく存在します。その者たちのために、大天使様はあの場でずっと司令を出す必要があります。ですから大天使様はあの場から動くことが出来ません」

「……まさか」

俺とライラのやり取りで、騎士たちやライラは俺が言わんとしていることを理解したようだ。だがクスターはわからないようで、首を捻っている。俺は言葉を続けた。

「はい。そしてこの世には利益を独り占めしようとする不届き者がいます。そのような者たちにとって、大天使様は利益をばら蒔いている邪魔者でしかありません。ですから大天使様に害を成そうとする者が現れます。その者から大天使様をお護りするには、大教会の扉を固く閉ざし、本当に信頼のおける者のみだけが入れるようにしないといけないのです」

「……だがお貴族様なら誰でも自由に入れると聞いたぞ」

「そんなことはありません。貴族でも簡単には入れません。何重にも及ぶ調査や試験の結果、大天使様に害を成さない信頼のおける人だと判断された者のみ、入ることを許可されています」

間違った事実は言ってない。身分の調査やいくら寄付金を出せるかの試験をしてるし。それを良いように解釈しただけだ。うん。でも2人とも信じきって深刻そうな表情してるから、罪悪感で胸が痛い……。

「平民だと身元がはっきりとしていないので、信頼しきれない所があるのでしょうね。だから門前払いされたのです」

「では、どうすれば私たちも信頼してもらえるでしょうか……」

「……私も色々と考えたのですが、この方法しかないかと」

「っ!?何だ!?何をすれば良い!?」

「大天使様の意志を受け継いで、大天使様の代わりに慈善活動を行うことです。つまり、大天使様の使徒となるのです」

2人はハッと息を飲んだ。自分たちが崇拝する方の手となり足となり活動する。そうすることで大天使の使徒であると証明すれば、会わせてもらえるかもしれない、と言うことだ。

もちろんそれは実際にも有り得る話だ。確かに大教会には金と権力に溺れた聖職者が沢山いるが、中には純粋な信仰心を持つ聖職者もいる。大々的に活動することでその方の目に止まれば、その信仰心を認められて大天使に会わせてもらえるかもしれない。

胸を躍らせる2人だが、ライラはある事に気づいて表情を暗くする。

「……ですが私たちは平民なので、慈善活動をするお金が……」

「……そうだな。いくら俺たちの給料を集めても、大天使様の使徒だと認められる程の活動が出来るかどうか……」

2人は興奮が冷め、気落ちした。慈善活動にもお金がいる。彼らは平民なので、慈善活動をする資金が足りないのだ。エンケリ教は新興宗教だし、信者はペッテリに触発された極わずかな人数だろうから、資金面で大きな壁が立ちはだかると、俺もわかっていた。

そして少し心苦しいが、そこを利用させてもらう。

「慈善活動を行うのであれば、私が支援しますよ」

「本当かっ!?」「本当ですか!?」

「ええ。条件を2つほど付けますが」

俺は右手の指を2本立てて、にっこり微笑んだ。クスターは期待に満ちた表情で身を乗り出し、ライラは条件と言う言葉に少し身構えた。

「……その、条件とは……?」

ライラが躊躇い気味に聞いてくる。俺は待ってましたと言わんばかりに強く頷いて、条件を提示した。

「ひとつは一度ペッテリとエンケリ教についてきちんと話し合うこと。もうひとつは俺の魔法陣実験に協力すること、です」
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