前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

文字の大きさ
90 / 221
動き出す時

大天使様の真実(真実とは言ってない)

しおりを挟む
身支度を済ませた俺は、クスターたちを俺の部屋に呼ぶよう騎士たちに頼んだ。ヴァイナモに朝食はどうするかと聞かれたが、今はあまりお腹が空いてないから後で食べることにした。それよりさっさと話をまとめた方が良いからね。

「……ヴァイナモ」

「はい。なんですか?」

「嘘も方便だと思いますか?」

俺の問いにヴァイナモは目を瞬かせた。身支度を整えながら考えていたんだけど、今回の件は少しの嘘を織り交ぜた方が俺に・・利がある結果となりそうだった。でも嘘をつくのは良くないことだ。だから迷っている。それが相手のための嘘ならまだしも、自分のためでもあるから。

「……それで穏便に事が済ませられるのであれば、多少の嘘は黙認されると思いますよ?」

「……そうですか。ありがとうございます」

ヴァイナモが肯定してくれたので、俺は嘘をつくことにした。ああ言う純粋な信仰心を持ってる人を騙すのは少し罪悪感があるけど、多分その方が上手くまとめることが出来るはず。

……なんかヴァイナモに肯定されるだけで凄く心強いな。ヴァイナモは俺の最初の、そして現在進行形で理解者だ。

俺はヴァイナモに微笑んだ。ヴァイナモは不思議そうに首を傾げつつも、笑顔を返してくれた。……うん。俺はヴァイナモの隣が落ち着くや。


* * *


クスターとライラ、そして騎士たちが俺の部屋に集まった。サムエルが朝から絶好調で帝国聖歌を歌っているので、ライラとクスターは奇っ怪なものを見る目でサムエルを見ていた。そっか。俺たちはもう慣れたけど、普通護衛中に熱唱する人なんていないか。でもまあ快活で爽やかな帝国聖歌は、清々しい朝にピッタリでしょ!良きBGM!だから気にすんな!

「……さて、昨日の話の続きをしましょうか」

「……その、クスターはこれ以上のお咎めはないのでは……?」

ライラがサムエルをちらちら見ながら不安そうに尋ねてきた。どうやらクスターの処罰を決めるために呼ばれたと思っているようだ。

「ええ。昨日も言ったでしょう?貴女とヴァイナモの蹴りに免じて、今回は見逃します」

「なら、本日は何用で……?」

「貴方たちが私に要求してきた案件についてです」

「大教会を開放してくれるのか!?」

弱々しげだった2人の表情が緩んだ。もしかしてこのままその話は無かったことにされるとでも思っていたのかな?俺はそこまで薄情じゃないよ。

「いえ。皇族は宗教に干渉しない決まりでして、俺が大教会を開放させることは出来ません」

「そうなのか!?」

「それは……!本当にご迷惑をおかけしました!」

2人は驚愕の表情を浮かべ、ライラはガバッと最敬礼をして謝罪した。まあ勘違いされやすいわな。『偉い人=皇族』って公式が平民にはあるだろうし。でも偉い人も一枚岩ではないのだ。

「ですから私が貴方たちを大天使様の所へ連れて行くことは出来ません。ですが真実を伝えることは出来ます」

「……真実、ですか?」

「はい。何故大教会側が大天使様を隠したがるのか、それをお伝えしましょう」

2人はゴクリと喉を鳴らした。騎士たちは「えっ?金せしめるためじゃないの?」って顔をしてくるが、視線で「黙っとれ」と伝えると表情を引き締め、こくりと小さく頷いた。

俺は2人に視線を戻して、語り騙り始めた。

「第一に、大天使様とはどのようなお方でしょうか」

「えっと。この世の創造神様の眷属にして、慈愛を司ると言われる崇高なお方です」

「はい。大天使様は貧しい人や不幸な人に救いの手を差し伸べていらっしゃる。ですがそれは大天使様だけで出来ることでしょうか?」

「……いえ。大天使様は一人でも多くの人を救うため、沢山の天使様を使役なさっています」

「そうですね。つまり大天使様は天使様方の司令塔のようなお役目を果たされていられる、重要な存在であられます。この世には救いの手を求める人々が途絶えることなく存在します。その者たちのために、大天使様はあの場でずっと司令を出す必要があります。ですから大天使様はあの場から動くことが出来ません」

「……まさか」

俺とライラのやり取りで、騎士たちやライラは俺が言わんとしていることを理解したようだ。だがクスターはわからないようで、首を捻っている。俺は言葉を続けた。

「はい。そしてこの世には利益を独り占めしようとする不届き者がいます。そのような者たちにとって、大天使様は利益をばら蒔いている邪魔者でしかありません。ですから大天使様に害を成そうとする者が現れます。その者から大天使様をお護りするには、大教会の扉を固く閉ざし、本当に信頼のおける者のみだけが入れるようにしないといけないのです」

「……だがお貴族様なら誰でも自由に入れると聞いたぞ」

「そんなことはありません。貴族でも簡単には入れません。何重にも及ぶ調査や試験の結果、大天使様に害を成さない信頼のおける人だと判断された者のみ、入ることを許可されています」

間違った事実は言ってない。身分の調査やいくら寄付金を出せるかの試験をしてるし。それを良いように解釈しただけだ。うん。でも2人とも信じきって深刻そうな表情してるから、罪悪感で胸が痛い……。

「平民だと身元がはっきりとしていないので、信頼しきれない所があるのでしょうね。だから門前払いされたのです」

「では、どうすれば私たちも信頼してもらえるでしょうか……」

「……私も色々と考えたのですが、この方法しかないかと」

「っ!?何だ!?何をすれば良い!?」

「大天使様の意志を受け継いで、大天使様の代わりに慈善活動を行うことです。つまり、大天使様の使徒となるのです」

2人はハッと息を飲んだ。自分たちが崇拝する方の手となり足となり活動する。そうすることで大天使の使徒であると証明すれば、会わせてもらえるかもしれない、と言うことだ。

もちろんそれは実際にも有り得る話だ。確かに大教会には金と権力に溺れた聖職者が沢山いるが、中には純粋な信仰心を持つ聖職者もいる。大々的に活動することでその方の目に止まれば、その信仰心を認められて大天使に会わせてもらえるかもしれない。

胸を躍らせる2人だが、ライラはある事に気づいて表情を暗くする。

「……ですが私たちは平民なので、慈善活動をするお金が……」

「……そうだな。いくら俺たちの給料を集めても、大天使様の使徒だと認められる程の活動が出来るかどうか……」

2人は興奮が冷め、気落ちした。慈善活動にもお金がいる。彼らは平民なので、慈善活動をする資金が足りないのだ。エンケリ教は新興宗教だし、信者はペッテリに触発された極わずかな人数だろうから、資金面で大きな壁が立ちはだかると、俺もわかっていた。

そして少し心苦しいが、そこを利用させてもらう。

「慈善活動を行うのであれば、私が支援しますよ」

「本当かっ!?」「本当ですか!?」

「ええ。条件を2つほど付けますが」

俺は右手の指を2本立てて、にっこり微笑んだ。クスターは期待に満ちた表情で身を乗り出し、ライラは条件と言う言葉に少し身構えた。

「……その、条件とは……?」

ライラが躊躇い気味に聞いてくる。俺は待ってましたと言わんばかりに強く頷いて、条件を提示した。

「ひとつは一度ペッテリとエンケリ教についてきちんと話し合うこと。もうひとつは俺の魔法陣実験に協力すること、です」
しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結】双子の兄が主人公で、困る

  *  ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……! ルティとトトの動画を作りました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 本編、両親にごあいさつ編、完結しました! おまけのお話を、時々更新しています。 本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...