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動き出す時

私は貴方を許しません

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「……それは一体どう言う……?」

ライラが不可解そうに尋ねてきた。俺は立てた指をピコピコと曲げたり伸ばしたりしながら説明を始めた。

「まずはペッテリの件について。現在エンケリ教の教祖はペッテリってことになっているのですよね?」

「はい。ペッテリ様が私たちに大天使様の素晴らしさを教えてくださったので」

「ですがペッテリは自分がエンケリ教の教祖であると知りません。それは凄く危険なことです。もし万が一、エンケリ教が何らかのトラブルに巻き込まれたら?責任は最高責任者、つまり教祖のペッテリに課せられます。何も知らないペッテリに被害が飛び火することになります。そのような団体を私は支援する訳にはいきません」

「確かにそうですね……」

ライラは深刻そうに相槌を打った。多分最初は、ペッテリの世間話推し語りに触発された2、3人で大天使様について語らうぐらいの規模でしかなかったのだろう。それでも本人は勝手に自分の名前を教祖として使われていい気分にはならないし。なんかペッテリなら気にしなさそうだけど、てか寧ろ嬉嬉として参加しそうだけど。まあ今はそう言うのは置いといて。

でもそれが公の場で大々的に活動するのであれば、尚更その責任者ははっきりしないといけない。てかある意味肖像権の侵害と名誉毀損じゃね?

「……そもそも知らず知らずのうちに新興宗教とか言う怪しい団体の教祖に祭り上げられるって、恐怖でしかありませんよ。貴方たちの口振りでは、ペッテリが望んで教祖をしていると捉えられかねませんし。その状態で貴方たちが奇行に走れば、そのままペッテリの評判にも関わるのですよ?立派な名誉毀損です」

「も、申し訳ございません。ですが私たちはしがない平民。商会町のご子息であられるペッテリ様に会うことは難しく……」

「なら私の方からも連絡を入れますので、装飾部門彫刻技術担当のヤルノ・キルッカと言う人物にアポを取ってみてください。彼は平民で、ペッテリの友人ですから、事情を説明すれば協力してくれるはずです。それと、謝るなら私にではなくペッテリにですよ。ちゃんと話し合っておいてくださいね?後日ヤルノにどうだったか聞きますから、おざなりにしていたら支援の話は無しですからね?」

俺が捲し立てるように話すと、ライラは圧倒されたように一歩下がった。この件は本当に重要なことだ。いくら魔法陣実験に人手が欲しいとは言え、ペッテリに迷惑をかけたくはない。ペッテリにはこれからも伸び伸びと天使崇拝推し布教活動をして欲し……くはないかな。今でさえ新興宗教立ち上げちゃうアグレッシブ信者変人増産してるのに、これ以上狂信者変人が増えたらこの国が変人で飽和しちゃう。割と切実に。父上は喜びそうだけど。

「……わかりました。ペッテリ様に誠心誠意謝罪して参ります」

「お願いしますね」

ライラは真剣な表情で頭を下げた。ライラは事の重大さを理解したようだ。クスターがもにょもにょといたたまれないと言った表情で顔を逸らす。……クスターがペッテリを教祖だと言い出したのかな?

「クスターもちゃんと謝ってくださいね?」

「……はい」

俺は魔力を少し出して、笑顔で威圧した。クスターは冷や汗タラタラで赤べこよろしく頭をブンブン振る。うむ。素直でよろしい誰やねん

ライラは首をもげそうなぐらい振るクスターを見て、呆れながらもクスターを庇うように立ち、話を先に進めた。

「……それで、もうひとつの条件の、魔法陣実験の協力とは……?」

「私は今、魔法陣の研究をしているのですが、圧倒的な人手不足でして。一回の実験にあまり時間は取らないので、協力して欲しいのです」

「……あの、皇子殿下様は魔法がお得意では……?」

ライラの不思議そうな表情を見て、魔法陣学が落ちこぼれ学問って呼ばれてたことを思い出した。いや、最近俺の影響か、貴族とか宮殿内で魔法陣学を大っぴらに軽視する人がいないから、すっかり忘れてたわ。

「私は魔法陣が好きなので研究しています。そこに魔法の得手不得手は関係ないでしょう?」

「……なるほど。それもそうですね」

ライラも大天使様好きなことがあるから、直ぐに納得してくれた。持つべきものはやはり同士だよね!

「でしたら私は、法に触れないことであれば出来る限りご協力するつもりです」

「……頭使うんじゃなければ、俺も」

「それは良かったです。ではペッテリとの話し合いが済み次第、詳しい契約を決めていきましょう」

何とか話はまとまったかな。クスターはまだ俺を警戒しているようで、ライラの後ろに隠れながらビクビクとこちらの様子を窺ってくるけど、何なのさ!人を悪魔みたいに!

クスターの失礼な反応にムスッと頬を膨らませていると、ライラがハッとなって慌てて付け足してきた。

「条件として私は不満がありませんが、他の信者がそれを了承するかわかりません。決定する前に少し話し合う期間をくださりませんか?」

「ええもちろん。……ああそうだ。実際に慈善活動をすることになった場合、帝都の孤児院が併設されている教会の、ロヴィーサと言う盲目の少女を訪ねてみてください。私の名前を出せば協力してくれますよ」

「わかりました。何から何までありがとうございます。そのご厚意に応えるためにも、大天使様の使徒と認められるよう、努力して参ります」

2人は恭しくお辞儀をした。うぐっ。嘘と打算まみれなのに、こう信じきってお礼を言われると罪悪感が……。

俺が微妙な表情を浮かべていると、ヴァイナモが落ち着かせるように俺の背中を摩ってくれた。……ありがとう、ヴァイナモ。


* * *


「なんとか綺麗にまとまって良かったですね~」

「騙していることになるので、少し良心が痛みますが」

「誰も損はしないんだから良いだろ。慈善活動は良いことだしな」

俺は宿から出発するために馬車の準備が整うのを部屋で待っていた。朝一で出発する予定が遅れてしまっているので、早く出発しないと夜までに次の宿に到着しないかもしれない。

「オリヴァ先輩ー!馬車の準備が完了しましたー!」

「おう。直ぐ行く」

馬車の準備が完了したようで、騎士の一人が呼びに来た。俺は聞き覚えのある声にハッとなって扉の方を見る。そこにいたのは中性的な顔立ちの騎士。俺に魔力のことを教えた、混乱の元凶諸悪の根源であった。

「あっ!貴方!名前はっ!?」

「えっ?ダーヴィド・ヤロ・カルッティアラです!」

「ダーヴィドですね!覚えました!私は貴方を許しません!」

「えっ!?なんでですか!?」

ダーヴィドはいきなり俺に名前を聞かれて困惑し、恨み言まで言われて涙目だ。俺はプンスコ怒りながらダーヴィドを指差した。

「あんな紛らわしい言い方をして!そのせいで私、あの後自意識過剰な恥ずかしいことばかり考えてしまったんですからね!?」

「……あちゃー。バレましたか」

「なっ!?わざとだったのですか!?」

「あっ。やっべ」

ダーヴィドは滑らした口を慌てて塞いだが、もう遅い。俺は聞いたからな!故意だって!許さねえ!一生恨んでやる!

「なんでそんなことしたんですか!?」

「えっと……ちょっとした出来心で……てへぺろ?」

開き直っててへぺろしてんじゃねえよこんにゃろう!誤魔化せてねえからな!




* * * * * * * * *




2020/09/02
一部誤字を修正しました。
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