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しおりを挟むそれっきりだと思っていた。
関わったのは気まぐれみたいなもんだったし、あっちだって助けられてそれを恩に着るなんて殊勝な性格ではないだろう。
だから廊下でたまたま見かけた時も偶然としか思わなかった。
偶然であって欲しかった……。
「せ~んぱいっ」
軽ーい呼び声とともにひょいっと行く手を阻むように絡んできた男の姿に厚いポーカーフェイスの下で口元が引き攣りそうになる。
移動教室帰りで一緒にいたクラスメートが「知り合いか?」と意外そうに問いかけてくるのに「ど~も~」とチャラく挨拶してにこにこしてる様は一見、先輩に懐く後輩にしか見えない。
おい待て、なんでいんだよ?
「お前、後輩にやたら懐かれるな」
「面倒見いいしな」
事情を知らないクラスメイトたちは平和に話しかけてくるが、俺の内心は動揺でいっぱいだ。
そいつ、外面はいいけど中身はわりと危険人物だから!
ってかマジ、なんの用なの?
盗みを見破られたのがプライドに障ってお礼参りしてやろうとかじゃないよね?やめて。
「……どうしたんだい?」
「別にぃ~?」
ただ、せんぱいが見えたからーという言葉は激しく嘘くさい匂いしかしない。
正体と性格を知っているとその人懐っこさが罠にしか見えないんですけど。
「ね、せんぱい。今日もあいつらとメシ食うんだよね?」
あいつらというのはきっといつものメンバーだろう。
ああ、と答えつつ勘ぐらずにはいられない。
つい一時間前、やっぱり廊下であったレイヴァンたちとは昼食の約束をした。
昼を一緒に食べるのはもはや確率としては半分以上。
たまたま確認しただけなのか、それとも “知ってる” アピールか。
フィガロの情報収集能力ならそれぐらい調べるのは朝飯前だし。
ニィと猫のように瞳を細めたフィガロは頭の後ろで両手を組んでわざとらしく唇を吐き出した。
「ざぁ~んねん。こんど俺ともメシ食おうねー!」
そのまま去っていくフィガロ。
マジなんなの?!
…………が、接触はそれで終わらなかった。
次の日も、その次の日も、ひょっこりと顔を出しては他愛のないやりとりをしては「じゃねー!」と二年の教室へ帰っていくフィガロにつきまとわれることになった。
別に危害を加えられるわけじゃなく、悪意もとくに感じない。
「また懐かれたん?」
「またって……」
「だってまたじゃん。妙に目立つのばっかに懐かれるよな、ラファエル」
ケラケラとカイルが笑う。
まさかマジで懐かれてんの?
お礼参りじゃないけど、「なんだコイツ?」的な感じに面白半分で興味持たれたとかですか?
なまじ有り得そうなのがいやだ。
差し出された玩具にじゃれつく野良猫の映像が頭の中でめっちゃ浮かんでるんですけど。
手でパシパシされてるネズミの玩具が俺ね。
あと言っとくけど、妙に目立つ奴で真っ先に俺というモブに絡んできた第一号はカイル、お前だかんな?
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