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しおりを挟む「で、オレに何のご用ですか?ラファエル・エバンス先輩」
壁に凭れかかりながら芝居ったらしい口調でフィガロが言った。
家名は先ほど呼ばれていたから知っていても可笑しくないとはいえ、フルネームを呼ばれちょっと驚く。
「私を知っているのかい?」
「そりゃあ知ってんだろ。校外学習といい、あのメンバーといい目立つっつの」
斜に構えた口調で吐き捨てられた。
そりゃあそうか。
わりと行動を共にしているキラキラメンバーの顔触れを思い出し激しく納得。
「一人場違いなのが混ざってれば確かに目立つね」
なぜモブが紛れ込んでいるのか自分でも激しく謎。
うんうん納得している俺を胡乱そうにみる青年。
「それよりおまえこそなんでオレを知ってんの?」
「君だって目立つだろう?周りが煌びやかな私と違って君自身がね」
言葉通り、青年ことフィガロは整った顔をしている。
レイヴァンや王子らみたいなキラキラ王侯貴族オーラ満載の感じでも、ゼリファンたちクラウ・ソラスの面々のような大人の風格漂う感じでもなく、鋭利な刃物を内に秘めたようなそんな美貌。
人懐っこい笑顔の下に裏の顔を隠し持ってるアウトロー。
一個下の学年の彼は学園でもそれなりに目立つ。
だけど俺が彼のことを知っているのは、フィガロがゲームの登場人物で、主要キャラの一人だからだ。
名前はフィガロ。職業:盗賊。しかも首領。
ゲームでは学園の生徒って設定は特に出てこなかったから廊下ですれ違ったときは吃驚したわ。
思わず掏られてないか持ち物チェックしちゃったもんね。
彼らの盗賊団の名前はシュヴァルツ。
基本的にはいけ好かない貴族やら大商人しかターゲットにせず、人助け的なこともする義賊的集団で市民にも人気が高い。〇小僧的な?
手癖が悪いし、善人とは言い難い一癖も二癖もあるキャラで機嫌が悪いときなどは特にその癖が出やすいってのはゲーム内の設定でもそうだった。
「わからないでもないけど、そう警戒しないで欲しいな。他意はないよ。むしろ君を助けたといっても過言じゃない」
探るような視線に肩を竦めて告げる。
下手な嘘より正直に話した方が得策だろう。
隠すことでもないし。
「さっきの彼の懐を狙っていただろう?」
藍色の瞳が見開かれた。
プロとして素人に気づかれたのが意外だったのか動揺も露わだ。
……ま、実際はフィガロが盗賊だって事前情報があったらか気づいただけだけど。
そうじゃなければ獲物を狙うあの目に気付くこともなく見逃していただろう。
「彼はクラウ・ソラスのメンバーだよ。しかもあれでかなりの食わせ者だ。気配探知や情報収集にも秀でているから手を出して困るのは君の方だ」
強さはそれなりだけど、鋭さは天下一品。
隠れて攻撃してくる面倒な魔物と闘う時なんかは重宝した。
そんな彼だからさっきも始終朗らかな笑顔だったし、あっさり引いてくれたけど、フィガロが手出ししようとしてたことと俺が彼を庇ったことに気付かれてないかひやひやだった。
あんぐりと口を開いたフィガロの顔は少し幼い。
有名な盗賊団の首領といってもまだ16歳の青年だな。
お得意の仮面も相手を見極める目もまだまだ甘い。
そんな感想を内心でこぼしながらひらりと手を挙げた。
「あまりやみくもに手を出すことは感心しないな。相手はちゃんと見極めるべきだよ」
なんなら掏り自体やめろ。
義賊ってもてはやされようと犯罪は犯罪だしな。
ましてや今回のターゲットは非のない相手。
言いたいことを言って「じゃあ」と背を向けた俺が不良少年に付き纏われるようになるのはすぐ後のこと。
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