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しおりを挟む壁に面した書架。重厚な色合いの家具。
そこかしこに置かれた小物類と装飾品。
時計に、写真立てに、小さなジュエリーケース、さらには美しい装飾の仮面や短剣に至るまで。
まるで忘れられた時に片隅に埋もれるように、それらは静かに佇んでいる。
眠るように、誰かに手に取られるのを待つように。
「すごいですね」
軽く息を呑み、店内を見渡すレイヴァン。
「だろう?」
想像通りの反応に満足し、お気に入りの席へと誘う。
黄昏めいた仄暗さを照らすオレンジ色の灯り。
隅の方にある一席のソファを勧めた。
テーブルに、一人掛けの皮張りのソファが二つ。
「まるで本の中に入り込んだみたいです」
興奮ぎみに視線を彷徨わせながらレイヴァンがテーブルの端に置かれた日記帳を手にとった。
彼の言葉の通り、このカフェはまるで本の中の世界だ。
ゆったりと感覚を空けて誂えられたテーブルやソファも同じものは一つもなく、店内というよりもどこかの部屋へ紛れこんだかのよう。
乱雑であるようで、一つのまとまりのある世界感。
配置された様々な小物類や装飾品も有名な本の数々のモチーフだ。
物語に出てくる印象深い装飾や重要な小道具、その描写にピッタリな品々は本好きならテンション上がること請け合いだ。
「気に入った?」
「もちろんです。すごい……あ、あれはローマン卿の懐中時計ですね。あっちは……」
物語や登場人物たちの名前をあげながら忙しなく棚へと視線を移すレイヴァンに相槌を打っていると、ロマンスグレーの老紳士が静かに寄ってきた。
このカフェのオーナーだ。
「お一人でないなど珍しいですね」
「この店はお気にいりだからあまり人に紹介したくはないからね」
目尻に柔らかな皺を刻んで老紳士が笑いかける。
まるで彼自身も物語の登場人物のようにこの世界感によく馴染んでいた。
「棚の本や小物もお手に取っていただいて構いません。どうぞごゆるりとお寛ぎ下さい」
オーナーがレイヴァンへと声を掛ける。
嬉しそうに礼を告げるレイヴァンに、微笑ましそうに目元の皺が深まった。
「このままここに鎮座してしまいたくなるぐらい絵になるだろう?」
実際、本の世界のようなこの場所と美しいレイヴァンの姿はものすごく絵になった。
本当に物語のワンシーンのようだ。
「ええ、本当に」
「でも駄目。あげないよ」
「おやおや。ではエバンス様はいかがでしょう?」
「私?私なんかを置いても仕方ないだろう」
常連の気安さと、同じ本好きの同士としてそんな軽口を叩きあいながら注文をした。
ほどなくして運ばれてきたのはコーヒーとお菓子。
メニューはどれも有名な本のタイトルで、それらをイメージした飲み物と菓子がセットになったものだ。
もちろん、カップだって一つ一つ違う。
九つに区切られた箱に並べられているのは、一口大のショコラなど。
ちなみに俺はファン心理をくすぐられ、全メニュー制覇済みだ。
コーヒーの苦みを味わいながら、自分の方の箱の向きを変えレイヴァンへと手で示した。
「折角だし、どれか気になるものがあればこちらもどうぞ」
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