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しおりを挟む「ご機嫌は戻ったようだね」
覗きこむように笑い掛ければ、楽し気に動いていた口がピタリと止まり丸くなった瞳がこちらを見つめた。
週末。
宣言通りに半強制な勢いでカイルたちに付き合わされた俺。
カイルとアレン、それからレイヴァンもついてきた。
午前中は武器や装具の店をまわり、カイルとアレンに合いそうな品を物色。
昼食は二人が行きつけだという食堂でとった。
下町の食堂、といった雰囲気の賑やかな店はやたらとボリュームが多く、さらにオバちゃんがサービスだとあれもこれもと追加してくれた。
代金は自分で払う気だったのだが……見立てに大満足のカイルたちに結局奢られてしまった。
なんか最近やたらと誰かに奢られてる気が……。
その後はプラプラと露店などがある通りをひやかしたり。
……さっきあれだけ食ったのに、肉のくし焼きだのなんだのを買い食いしてる兄弟の胃袋が信じられん……。
ブラックホールか……。
本日のメインは武器や装備の買い出し。
俺と同じく魔法攻撃中心のレイヴァンは退屈じゃないかと心配していたのだが、持ち前の好奇心を刺激されたのか意外と楽しそうだった。
実用性の感じられない変わった形の武器を見て「コレ、使いにくくないんですかね?」と同意しかない疑問を零したり、騒々しい雰囲気に驚きつつも普段あまり味わうことのない家庭的な料理を楽しめたようだ。
露店でも物珍しいモノを見つけては「アレはなにですか?」「あっちは?」と質問攻めにあったし。
帰りの馬車の中、心なしか瞳を輝かせて喋り続けるレイヴァンにこちらも自然と笑みが浮かぶ。
二台の馬車で来たから、今は俺の家の馬車で彼を送って行く途中。
一瞬だけ気まずそうに瞳を彷徨わせたレイヴァンは拗ねたように俺を見る。
「君が楽しめたようで良かった」
にこりと笑いかければモゴモゴと「……あまり体験したことのないことばかりだったので」言い訳のように告げるのがおかしい。別にはしゃいでいたのを茶化したつもりはないのに。
「好奇心旺盛なのはいいことだよ。君の知識欲の根源だね。いつもと違った体験もいいけど、今度はレイヴァンの好きそうなところへ行こうか?」
「僕の……?」
「うん。私のお気に入りのカフェなんだけど、きっと君も好きな雰囲気だと思うんだ。他にもレイヴァンが気に入りそうな場所が幾つか」
「行きたいです!」
前のめりになるレイヴァンの勢いにちょっと驚いた。
小石でも踏んだのかちょうど馬車が揺れ、椅子から身を乗り出していた彼の体を手を伸ばして支える。
「……っと、大丈夫かい?」
「は、はい。ありがとうございます」
座り直したレイヴァンの頬が薄っすらと赤い。
文字通り前のめりになって食いついたのが恥ずかしかったのかも知れない。
でも、興味を持ってくれたならいいことだ。
あのカフェは絶対彼も気にいると思うから。
「いつがいいかな?都合のいい日はあるかい?」
「来週はいかがでしょう?」
「来週?私はいいけど……二週も連続で君の休みを潰してしまっていいのかい?」
「潰すだなんて。今日も来週も僕が望んだことです」
「じゃ、来週。今日と同じ時間ぐらいでいいかな?迎えにいくよ」
カーテンの隙間から差し込む夕日を浴びて、次の約束を交わした。
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