38 / 142
38
しおりを挟む「ご機嫌は戻ったようだね」
覗きこむように笑い掛ければ、楽し気に動いていた口がピタリと止まり丸くなった瞳がこちらを見つめた。
週末。
宣言通りに半強制な勢いでカイルたちに付き合わされた俺。
カイルとアレン、それからレイヴァンもついてきた。
午前中は武器や装具の店をまわり、カイルとアレンに合いそうな品を物色。
昼食は二人が行きつけだという食堂でとった。
下町の食堂、といった雰囲気の賑やかな店はやたらとボリュームが多く、さらにオバちゃんがサービスだとあれもこれもと追加してくれた。
代金は自分で払う気だったのだが……見立てに大満足のカイルたちに結局奢られてしまった。
なんか最近やたらと誰かに奢られてる気が……。
その後はプラプラと露店などがある通りをひやかしたり。
……さっきあれだけ食ったのに、肉のくし焼きだのなんだのを買い食いしてる兄弟の胃袋が信じられん……。
ブラックホールか……。
本日のメインは武器や装備の買い出し。
俺と同じく魔法攻撃中心のレイヴァンは退屈じゃないかと心配していたのだが、持ち前の好奇心を刺激されたのか意外と楽しそうだった。
実用性の感じられない変わった形の武器を見て「コレ、使いにくくないんですかね?」と同意しかない疑問を零したり、騒々しい雰囲気に驚きつつも普段あまり味わうことのない家庭的な料理を楽しめたようだ。
露店でも物珍しいモノを見つけては「アレはなにですか?」「あっちは?」と質問攻めにあったし。
帰りの馬車の中、心なしか瞳を輝かせて喋り続けるレイヴァンにこちらも自然と笑みが浮かぶ。
二台の馬車で来たから、今は俺の家の馬車で彼を送って行く途中。
一瞬だけ気まずそうに瞳を彷徨わせたレイヴァンは拗ねたように俺を見る。
「君が楽しめたようで良かった」
にこりと笑いかければモゴモゴと「……あまり体験したことのないことばかりだったので」言い訳のように告げるのがおかしい。別にはしゃいでいたのを茶化したつもりはないのに。
「好奇心旺盛なのはいいことだよ。君の知識欲の根源だね。いつもと違った体験もいいけど、今度はレイヴァンの好きそうなところへ行こうか?」
「僕の……?」
「うん。私のお気に入りのカフェなんだけど、きっと君も好きな雰囲気だと思うんだ。他にもレイヴァンが気に入りそうな場所が幾つか」
「行きたいです!」
前のめりになるレイヴァンの勢いにちょっと驚いた。
小石でも踏んだのかちょうど馬車が揺れ、椅子から身を乗り出していた彼の体を手を伸ばして支える。
「……っと、大丈夫かい?」
「は、はい。ありがとうございます」
座り直したレイヴァンの頬が薄っすらと赤い。
文字通り前のめりになって食いついたのが恥ずかしかったのかも知れない。
でも、興味を持ってくれたならいいことだ。
あのカフェは絶対彼も気にいると思うから。
「いつがいいかな?都合のいい日はあるかい?」
「来週はいかがでしょう?」
「来週?私はいいけど……二週も連続で君の休みを潰してしまっていいのかい?」
「潰すだなんて。今日も来週も僕が望んだことです」
「じゃ、来週。今日と同じ時間ぐらいでいいかな?迎えにいくよ」
カーテンの隙間から差し込む夕日を浴びて、次の約束を交わした。
272
お気に入りに追加
1,007
あなたにおすすめの小説

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
親友の大事な人を好きになりました
すずかけあおい
BL
親友の陸翔から「大事な人との待ち合わせに代わりに行ってほしい」と言われて想は待ち合わせ場所に向かう。
そこに立っている男性、瑛大の姿を見て一目で惹かれてしまう。
ハッピーエンドです。概要はタグをご覧ください。
〔攻め〕瑛大(えいた)大学二年
〔受け〕想(そう)高校二年
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
推しの恋を応援したかっただけなのに。
灰鷹
BL
異世界転生BL。騎士×転生者の王子。
フィアリス王国の第3王子であるエドワードは、王宮で開かれていた舞踏会で前世の推しである騎士と出会い、前世で好きだった恋愛ファンタジー小説の世界に転生していたことに気づく。小説の通りに推しが非業の死を遂げないよう、奮闘するエドワードであったが……。
攻め:カイン・ド・アルベール(騎士/20才)
受け:エドワード・リーヴェンス・グランディエール(第3王子/転生者/18才)
※ こちらはBLoveさんの短編コンテストに応募した作品を加筆修正したものです。後半は大幅に内容を変えているので、BLoveさんで既読の方にも楽しんでいただけたらいいなと思います。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる