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しおりを挟む土砂ぶりの雨の中、騎士団は休み無く進む
荷馬車の中はこの天気同様、
どんよりとした雰囲気が漂っていた。
先に様子を見に行った
視察隊員が戻ってきた。
「ダメです!この先の川が氾濫しています」
「そうか。じゃあ迂回して進むしか無いな…となるとミネルヴァ領を通るしかない」
団長のジャスティンが
機転をきかせて
すぐに隊は迂回を始めた。
「ミネルヴァ領ってロジャーの地元って事?」
と暇そうにしているロジャーに聞いた
「…そう。最悪~…俺、実家嫌いなんだよね~」
この雨で
自慢のウェーブが
ヨレヨレだから
機嫌が悪いのかと思ったら
違う理由だったみたい。
昔、ジャスティンの家に
家出してきたとか言ってたし
親御さんと仲が悪いのかな?
そんな事聞けなかったので
何も言わないでいると
「行けば分かると思うけど、咲さんはあんまり喜ぶ所じゃないよ~。まあ、スワロフは大喜びしそうだけどさ~」
スワロフに視線を移せば、
鏡で自分の前髪を確認している所だった。
「とても素敵な街じゃないか!私は隠居したらそこに死ぬまで暮らしたいね」
顔を赤らめ高揚しながらスワロフが言った
「へぇ~どんな所なの?」
と言うと
皆何も言わない。
ロジャー以外
無言で身支度を整えているだけだ。
…何かがおかしい。
それに行軍するスピードも
あきらかに早い気がする。
誰かに聞こうとすると目を逸らしてくる。
怪しい。
隊は
暗くなってしばらく立ってから
ミネルヴァ領の中心の街に着いた
その頃には
あのどしゃ降りも
上がって星空が見えていた
そこには何キロあるか分からない位の
高く長い壁が立っていて
入り口は一カ所、
大きな赤い提灯がぶら下がっていた。
入るとそこは
まるで江戸時代遊郭を思わせる、
建物が沢山立っていた。
建物の中には
派手な着物を着た
綺麗な女性が並ぶ
ここミネルヴァ領はこの国の唯一の
色街
なのだという。
「ハッ…そーゆー訳ね。全く男って…」
どうりで皆、
身支度を整え始めるし、
進むスピードも速かった訳ね…
「あー…皆好きな置屋に泊まっていいよ~話はついてるから~」
と、この土地の跡取り息子が言うものだから
皆
浮き足だってそれぞれ好みの女性を物色し始める。
血気盛んな騎士団の面々は
そちらもお盛んなのだろう
私達は
あっという間に、居なくなった
スワロフを置いて
ロジャーの実家へと向かう。
1番奥にある、
大店が領主の住まう家だった。
通されるとすぐに、
着替えを用意されていて
それを広げると懐かしさが溢れてくる。
「浴衣だ!!!」
と言うと
「咲ちゃんはコレを知っているの?」
女子部屋だと言うことで
マリアンヌと同室になった。
女子?部屋で合っているのだろうか
疑問に思いつつも着替えを始める
スルスルと着がえる私を尻目に
マリアンヌは全く着替えが進まない
「あーん!もう全然出来ない~なにこのヒモ~どうやるの~?コレ」
と上半身裸の彼女。
やはり胸は出ていない。
紛れもない男性の体だった。
「やってあげようか?」
と声をかけると
彼女は、
子供の様に素直に手を広げ立って
待っている。
私より大きいマリアンヌに、
着がえをさせるため
腰に手を回すのは
何とも言えない気分になる。
目の前の体は男性なのがまた恥ずかしさを、覚える
「出来たよ!マリアンヌ…凄く綺麗!似合ってる。本当の女の子みたいだよ」
と言うと
ふんっとそっぽを向いて
「ありがとっ。本当の女の子じゃなくて悪かったわね!」
と言う
すねてしまった様だ。
慌てて謝ると
「嘘よ。皆の所へいきましょ」
どうやら許してくれた様だ。
手を引かれて行く私は、
浴衣を着れた事に
嬉しく思いテンションが上がって
マリアンヌと駆け足で向かった。
案内された部屋へ行けば、
全員そこに正座で座っていた。
あ、スワロフ以外だけど。
「あれ?どこかのお店に行ったのかと思った」
いつも意地悪されるので
少しやり返してやろうと
ジャスティンに
言ってみた
「俺は興味ないね!てかそれどころじゃねーだろ。幹部がハメ外してどうすんだよ」
こっそり身支度整えてたの、
知ってるけど?
なんのためにやってたアレ
「おう!とりあえず飯にしようぜ!」
ロジャーも浴衣を着ているのが
不思議に思う。
金髪王子顔で和服って…
まあ、似合っているので
何も言わないでおいた。
他の面々も和服姿
なのが新鮮に思うが、
やはり似合ってる。
それになんだか色っぽく見えてきた。
「この土地の服は変わっているな。着るのに苦労した」
と、シヴァが豪華な和食を食べながらそう言った
「やっぱり~?私も着方分からなくて咲ちゃんに着せてもらったのよ」
とマリアンヌ
その言葉に過剰反応したのがジャスティンだ
「は?咲に着せて貰った?…この意味分かんねぇ服の着方分かるのか?」
一瞬マリアンヌを睨み付けて
不思議そうに、聞いてきた
「うん。私の国でもお祭りだったり花火大会だったりすると浴衣はよく着るよ」
と得意気に答えた
カイトが小さい頃
浴衣着せるのに
暴れて大変だった頃を思い出す。
しかもチョロチョロ動きまわるから
すぐ着崩れするし、
その度に直してたっけ
「へぇ…変わっているな。お祭りでこんなん着るのか」
と浴衣に関して無関心のジャスティンだ
そこに
現領主のロジャーの父親が顔を出す。
「帰って来たか!!ドラ息子。手紙1つ寄越さないくせにこう言う時だけ頼りやがって!」
勢いよく入って来て
他の人にも目をくれず
ロジャーへ
一直線に向かう
「げっ!親父…最悪~居ないと思ってきたのに~」
父親が目の前にまでくると
フィッ
と横を向いて知らないふりをかます。
「なんだ?その態度は?…お前はここの次期領主だろ?それがフラフラして…たまに帰って来たと思えばその態度だと?ふざけるなっ!」
カチンときた
父親はロジャーへ怒鳴り声をあげる。
ロジャーも最初は上手く聞き流して居たけど、
我慢の、限界が来たのだろう
勢いよく立ち上がって
「だから俺は継がないって言ってんだろ?…こんなミネルヴァの地なんていらねーって言ってんだろ!!こんな汚い家なんかいらねー…」
…ドガッ!
ロジャーの頰に
父親のパンチが飛ぶ。
話している途中で
殴られたため口の中が切れたのか
唇に血が滲んでいた。
倒れ込むロジャーは
「…こんな奴隷商で成り上がった家まっぴらごめんだ」
と言って
その場から駆け足で立ち去った。
奴隷商? 成り上がり?
聞き慣れない言葉に
ジャスティンの実家でメイド達が噂話していたのを思い出す。
ロジャーが、去った後
父親はこちらに気づいた様で
血の気が戻り
紳士的なおじさまへと変わった
「いや~すまないね。皆さんの前でみっともない姿を晒してしまったね」
先程まで大声をあげて叫んで、
息子を殴った人とは思えない
変わりぶりに少し戸惑う
「親父さん、まだロジャーと仲違いしている様ですね」
顔なじみのジャスティンが
父親にそう言った
「…ハハ。そうだね。ロジャーはミネルヴァ家の歴史が嫌いだからね…」
ミネルヴァ家の、歴史?
どういう事?
ちらりと父親は私をみると
「女性の前で言うのもアレだけど…うちは5代前で魔族に人を奴隷として売って成り上がった家なんだ。今はまあこうして風俗業を生業にしているがね」
と少し寂しそうにその父親が言った。
人が生きるのに必死だった時代の頃
ミネルヴァの先祖達は考えて、
考え抜いて、
そうやって生き抜いて来たのだろう。
確かに奴隷商と聞くと
良い反応は少ないと思うが
それほど必死だったのだと思うと
理解も出来る。
子供を育てるには
お金がいるのも確かなのだ。
ロジャーが
実家の事嫌いな理由が
やっと分かった。
夕食を食べ終えて
部屋へと移動の際、
キラリと街の灯りに光る金髪が見えた。
「…ロジャー?大丈夫?」
赤く腫れた頰が目立つ。
ロジャーは片手に、
お酒を持っている。
ヒックヒック…
時よりしゃっくりもしている様子
から相当飲んだのだと気付いた。
「…あ~?咲さんだあ!どう?ここは?醜い場所でしょ?こんなにも汚い…」
視線の先には、
街で戯れる男女の駆け引きが見えた。
遊女はお金のため男を誘う
男は自分の欲のため女の愛を買う。
そうやって2人は奥へと消える
「そんな事ないよ!ロジャーのふるさと、凄く綺麗だよ!」
女の私が
言うものだから
ロジャーは目を丸くして驚いたいた。
正直よく分からない。
こういう街へ来たのも、
あういう駆け引きを見たのもはじめてだ。
ただ、あの人達は生きている
中には幸せもあるのだと思うと
醜い、汚いなんて思わない。
「私はロジャーがここの領主になったって嫌いにならないよ」
ソヨソヨ…
夜風が、髪をなびく
その風にのって
遊女の唄と笑い声が
かすかに聞こえる。
ロジャーが
子供の頃から聞いてきた
この唄は彼にとっての
マザーグースだろう。
「…そっか。じゃあ咲さん良いことしよっか?」
そういうと
どこからかやり手婆が出てきて、
私の浴衣を剥ぐ。
カツラを付けられ、
厚塗りの化粧を施される。
最後に花魁衣装を着せられる。
「おお!咲さん…誰か分からないレベルに綺麗だよ!」
それは褒め言葉と取っていいのか分からないが
酔ったロジャーは楽しそう。
またグイッとひと呑みして
私を外に連れ出す
「じゃあ、ミュージックスタート!!」
え?え?と困惑していると
ゆっくりゆっくり
一歩ずつロジャーが歩き出す。
笛や太鼓の人も歩き出す。
ロジャーに、
手を引かれて私も何となく歩き出す。
というか私が歩かないと後ろの人が困る。
「花魁道中だよ!ここの名物だ!今日は無いって言ってたからどうせなら咲さんにやって貰おうと思って!気持ちいいでしょ?」
この
道中の近くを小さな禿が通りかかる。
「はぁ…キレイ…私も早く大人になりたい」
と憧れの眼差しをむけてくる。
「今日の花魁は誰だ?どこの店だ?ぜひ、買いたい」
と初老の男性が歩いてる人に聞いていた。
「花魁、キレイでありんす」
「キレイでありんす、姉さん」
と、戸張りの中から客引きしている遊女達
「なんて美しい女性なんだ…」
とボーと頰を赤らめて見ている下級隊員
化粧が濃すぎて気付いていない
「ね?気持ちいいでしょ?」
隣で上手にエスコートする
ロジャーの
おかげでどうにか
様になっている。
彼の言うとおりだ
沢山のキレイ、美しいと褒められて
気分が良くなる
気持ちいい
ロジャーに、誘われた
良いことは本当に
良いことだった。
街のメイン通りを歩く一行
もうすぐ終着点だ
そこに
ジャスティンが立っていた
「…買ってやろうか?花魁」
なんてふざけて言って手を差し伸べる。
「あちきは高いでありんす」
と調子に乗って
聞いたばかりの花魁言葉で返す
差し伸べられた手を
私は握り
ロジャーはそっと私を押した。
……ー
ーーーーー
ーーーーーーーーー
ロジャーは父親と仲直りをしないまま
ミネルヴァ領を後にする。
ガラガラ…と荷馬車に乗り
騎士団は進む。
「なんか。不思議な感じ~」
今まで見てきた
この世界は基本洋風だったので
ロジャーの地元を見て
日本に、居た気分でいたが
進むに連れてやはり洋風に戻っている。
様々な文化がある世界だな~と、
考え深い。
「私も花魁道中したかった!お風呂行ってたら咲ちゃん、キレイな格好で歩いてるんだもん!この次来たときはやらせてよね!」
とロジャーにプンスカ怒りながら
マリアンヌがおねだりしていた。
「…お前は無理じゃね?デカすぎて支えらんねーし」
と殴られた頰のキズを隠しながらロジャーが言った。
マリアンヌはギロリと睨む。
スワロフは
元気になりお肌もツルンツルン。
一晩の夢を楽しんだみたいだ。
他の下級隊員も
見違える様に力が漲っている。
出発の際お見送りに来てくれた遊女も、
数人いた。
その子達を近い将来迎えに行く人も出て来るかもしれない。
「ロジャー、これ親父さんから預かった」
とジャスティンが
キレイに磨かれている鞘に入った日本刀をロジャーに渡す
「…コレを親父が?」
手に取ると
ふるふる震えて大事そうに、
抱き締めた。
後でコソッと話を聞くと
ミネルヴァ家に代々伝わる家宝だという。
ケンカ中とはいえ
やはり親は親なのだ。
言葉にはしないが
ロジャーを心配してエールを送った
父親の気持ちが分かった気がした
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