流れる星は海に還る

藤間留彦

文字の大きさ
上 下
7 / 50
第二話 狼煙

第二話 狼煙③

しおりを挟む
 昨日伊玖磨の島にあるクラブに流星が行っていた。藤本さんも居た。特に騒動があった様子はない。駆けつけるつもりなどそもそも無かったろう。この男が仁義を通すのは、昔から実の父親だけだ。

「それで、幹部を集めてどうする」
「いや、俺も詳しいことは分からないんですよ。父に頼まれて名前を貸しただけなんで」

 嘘ばかり、よく口が回る男だ。俺は「そうか」とだけ返して伊玖磨の横を通り抜け玄関に行くと、昨夜お袋に付き添っていた上下赤のジャージを着た部屋住みの茶髪の若い男が、挨拶をして引き戸を開けた。土間で靴を脱ぐと、男が俺の靴を靴箱に仕舞う。

「お袋の様子は?」

 男は緊張した様子でぴんと背筋を伸ばし、俺と目を合わせないように遠くを見ている。

「は、はい、あのあと少しだけお休みになりました。この会合が終わったら親父の着替えを持ってまた病院に……」
「お袋まで倒れられたらそれこそ大事だ。お前だけで親父の身の回りのことをできるだけやってくれ」
「そ、そのつもりです、けど……姐さんも落ち着かないみたいで、病院にできるだけ居たいって……」

 山は越えたとはいえ、予断を許さない状況だ。親父の容体が急変しないとも限らない。

「お前、名前は?」
「さ、斉藤洸祐さいとうこうすけです!」
「……洸祐、親父とお袋のこと、頼んだぞ」

 洸祐は涙ぐみながら「はい」と大きな声で返事をした。その初々しい反応に思わず笑みを浮かべそうになる。流星と変わらない年頃なので、気を抜くと態度が甘くなってしまいそうだ。

 縁側の板張りの廊下を進む。中庭の中央に生える曾祖父の代から受け継がれた立派な黒松を横目に、広間に足を踏み入れた。既に来ていたのは、藤本さんと顔に大きな傷のあるスキンヘッドの中年の男――本部長の杉内さんだ。三十三年前の抗争の結果、辻倉に吸収された勝海しょうかい組の元幹部でもある。

「坊、正月ぶりだな!」
「はい、久しぶりです、杉内さん」

 満面の笑みで早く隣に座れ、と言うように手招きするが、流石に若頭の立場で下座に座るわけにはいかない。

「杉内さん、坊は不味い。一海にも立場があるんだ」
「ああ、そうだった! ついなぁ、生まれてずっと俺にしたら親父の坊だからよぉ」

 藤本さんに「おしめも替えたことあるんだぜ?」と杉内さんが言う。会う度に言われている気がするし、もうほとんど親戚のような関係なので気にしない。が、郁次、伊玖磨父子や下の者に舐められるわけにもいかない。上座に座るとすぐに郁次、伊玖磨父子入ってくる。

「何で藤本が居る? 俺が呼んだのは執行三役だけだろうが」
「そう言う郁次さんもご子息は若頭補佐だろう?」
「いいんだよ、伊玖磨は。辻倉の血受け継いでんだからよ」

 伊玖磨は細い目を更に細くして笑って誤魔化す。しかし、杉内さんは郁次を睨み付けている。

「若頭より遅れて来ておいて随分な態度じゃねえか? なあ郁次」
「兄貴のことが心配で眠れなかったんだよ。実の兄弟だからな、俺は」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

処理中です...