オメガの城

藤間留彦

文字の大きさ
39 / 45
第四章 革命

第三十九話

しおりを挟む
 エレベーターに二人で乗り込むとドアが閉まり、中には階数を選ぶ操作盤があったが、ひとりでに上昇し始める。操作盤を見る限り、六十階まであることが分かる。が、エレベーターはその一つ下の五十九階で止まった。

「ユン、同時に降りるぞ。俺達を分断するなら、このタイミングだ」
「そうだね」

 ドアが開き、互いに頷き合って同時に一歩を踏み出す。

 目の前に広がっていたのは、広いだけで特に何もない部屋だった。ただ数段の階段と、その先の壇上に石を削り出して作ったような重厚な椅子が一つあるだけ。部屋の左右は照明が無いため暗くなっているが、奥は何処かに続いているようだった。

「今日はとても騒がしい一日ね」

 壇の後ろの壁にあった扉が開き、現れたのは黒いドレスに身を包んだ人物――紛れもなく、この世界の女王、オフィーリアだった。

 女王は俯いたまま壇上の椅子に腰掛けた。そこで、いつも身に付けているヴェールがないことに気付く。

「けれど、わたくしずっと退屈していたの。だから、お客様がいらっしゃって、久しぶりに期待しているのよ。少しは暇潰しになってくれるかしら、って」

 そう言って、俺を真っ直ぐに見据えた女王の顔に、俺は言葉を失った。

 アッシュブロンドの髪、紫の瞳、白い肌――まるで鏡を覗き込んでいるようだった。

「エイク……彼女は、君に……」

 ユンは顔を強張らせて、目の前の女王オフィーリアの顔を見詰めたまま、それ以上の言葉を継げなかった。

「……エイク? エイクですって!」

 女王はまるで子供が笑い転げるように、椅子のひじ掛けを叩き、両足をじたばたと動かして声を上げて笑った。

「わたくしが貴方に差し上げた名前は『Fake』だわ! 綴りを間違えるくらい頭を弄られてしまったの? 可哀想に!」

 ――Fake? 偽物、だと?

「ッ……!」

 唐突に頭に鈍い痛みが走った。そして、その瞬間に見たこともない場面が断片的に浮かんでは消えていく。



 真っ白な壁の無機質な部屋。俺は台の上に寝かされ、目が眩むほど明るい照明に照らされていた。そして俺の周りを白衣に身を包んだ男たちが囲んでいる。
 俺は両膝を立て足を開くような恰好で、下半身を彼らに曝し、何か器具を挿入されていた。

「やはり駄目だ。疑似子宮はない。欠陥品だ」

 男たちの一人が言う。溜息を吐くと、誰かが「では廃棄しますか?」と言った。

「知能も高く、ソフィア様のように健全な肉体だと総帥も期待されていたのだが」
「十三年も水槽で大事に育ててきたが、取り出してみてこれでは……残念だよ」

 ――ああ、この男達は、俺の身体がΩとして欠陥があるとして、命を摘むことにしたのだな。
 気付くと俺の顔の横の辺りに立っていた眼鏡の男が、注射器を持っていた。注射器には青紫の液体が入っていて、その注射器の針の先が俺の右腕に触れる。

「……待て、通信が入った。……なんだと?」

 俺の腕から針が引き抜かれた。辛うじて薬を注入する前に。

「Ωでないならβとして労働力にすべきだと、総帥が」
「そんなことをして大丈夫なのか? 欠陥があるとはいえ、これは両性具有なんだ。外の者の目に触れたらどうなるか……」

 ――両性具有。男性器と女性器を持つ者をそう呼ぶのだろうか。どうやら俺は、総帥の気紛れで命拾いしたらしい。

「まあ、そこを含めて楽しむおつもりなのだろう。先の女王が逝去された今、我々のすべきことは、別の個体を起こし速やかに検査することのみ。欠陥品をどう扱うかなど、我々の与り知らぬことだ」
「もう数値の悪い個体しか在りませんが……仕方がありません」

 孔を拡げていた器具が引き抜かれ、足を閉じられる。寝かされていた台ごと移動し、部屋の外に出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

処理中です...