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第四章 革命
第三十八話
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「ね、言ったでしょ。今の方が上手くできるって」
投げられた男の腕が可笑しな方向に曲がっているのに、そう得意げに振り返り微笑むユンは、あの時から何も変わっていない「変な奴」だ。
「エイクが使って」
警備兵を投げ飛ばす時に分捕ったのか、電流棒を俺に投げ渡した。武器があれば、α相手でもまだ戦える気がする。今までユンに教えられた技もある。
恐らく武器を持った人間は武器に頼った動きをしてしまうから、身体能力が優れたαでも、俺とさほど攻撃力に差は生まれないはずだ。
そうこうしているうちに、ユンが次の警備兵の腕を捻り上げていた。俺は覚悟を決めて、目の前にいる三人の警備兵に向けて電流棒を構える。
その時だった。城の警報機が鳴り響いた。一瞬気を取られて隙に、俺は二人の警備兵に電流棒で殴り掛かって気を失わせることに成功した。
恐らく、『GHOST』の誰かが俺達の秘密基地である廃工場に電力を集めることに成功したのだろう。そして、測定器兼発信機の出力を最大まで上昇させたのだ。
城のどの機械に取り付けられているか正確には分からないが、少なくとも一つは、同時に複数の機器を動かすための重要な部品のはずだ。それが異常な信号を発したり、最悪の場合ショートして焼き切れたとしたらどうなるか――想像するに難くない。
最後の一人と対峙して、仕掛けるタイミングを計っていたところだった。離れたところに居たはずのユンが、俺と警備兵の間に割って入り、そのままの勢いで男の顔面を鷲掴みにすると、男を引き倒し、後頭部を地面に叩きつけた。
「さあ、行こう」
俺が必死に二人倒していた間に、この男は十人以上を再起不能にしていたようだ。ユンはやはり、特別なαだと言わざるを得ない。
地面に転がっている警備兵を横目に、俺達は車で破壊された正面扉から城の中に潜入した。
警報が鳴り響き、消火のためかスプリンクラーが作動して水浸しになっている。正面扉の目の前は、上下に貨客を輸送させるための機械「エレベーター」がいくつか並んでいるエントランスホールになっていた。
エントランスホールの奥には通路があり、そこにもいくつかの部屋があるように見える。
「どうする?」
「俺の仕込んだ発信機からの情報だと、多くの機械は上の方の階に集中していた。恐らく城の生命線は半分より上の階にあるはず――」
と、思わず言いかけた言葉を切った。唐突に、目の前の一台のエレベーターの扉が開いたのだ。
「エイク、これは……」
「はは、分かりやすい罠だな」
しかし、そう来なくては面白くない。俺が自ら城に乗り込んだのは、作戦のためだけではないからだ。
この世界の真実を知るという、俺にとって重要な目的を果たさなければならない。そのために必要な危険なら、今までも冒してきた。
「乗ってやろうじゃねえか」
エレベーターに乗り込もうとする俺を「本当に向こうの誘いに乗るの?」とユンが制止する。
「どのみち俺の位置情報は割れてるんだ。どこに行こうが見つけ出される。だったらいっそ、奴らの掌の上で踊る振りくらいしてやってもいいかってな。それに――」
ユンの肩に手を乗っけて、
「俺のこと、絶対守ってくれるんだろ? なあ、ユン」
とにやりと笑って見上げる。その手に自分の手を重ねて、「うん、絶対に守るよ」とユンは微笑んだ。
投げられた男の腕が可笑しな方向に曲がっているのに、そう得意げに振り返り微笑むユンは、あの時から何も変わっていない「変な奴」だ。
「エイクが使って」
警備兵を投げ飛ばす時に分捕ったのか、電流棒を俺に投げ渡した。武器があれば、α相手でもまだ戦える気がする。今までユンに教えられた技もある。
恐らく武器を持った人間は武器に頼った動きをしてしまうから、身体能力が優れたαでも、俺とさほど攻撃力に差は生まれないはずだ。
そうこうしているうちに、ユンが次の警備兵の腕を捻り上げていた。俺は覚悟を決めて、目の前にいる三人の警備兵に向けて電流棒を構える。
その時だった。城の警報機が鳴り響いた。一瞬気を取られて隙に、俺は二人の警備兵に電流棒で殴り掛かって気を失わせることに成功した。
恐らく、『GHOST』の誰かが俺達の秘密基地である廃工場に電力を集めることに成功したのだろう。そして、測定器兼発信機の出力を最大まで上昇させたのだ。
城のどの機械に取り付けられているか正確には分からないが、少なくとも一つは、同時に複数の機器を動かすための重要な部品のはずだ。それが異常な信号を発したり、最悪の場合ショートして焼き切れたとしたらどうなるか――想像するに難くない。
最後の一人と対峙して、仕掛けるタイミングを計っていたところだった。離れたところに居たはずのユンが、俺と警備兵の間に割って入り、そのままの勢いで男の顔面を鷲掴みにすると、男を引き倒し、後頭部を地面に叩きつけた。
「さあ、行こう」
俺が必死に二人倒していた間に、この男は十人以上を再起不能にしていたようだ。ユンはやはり、特別なαだと言わざるを得ない。
地面に転がっている警備兵を横目に、俺達は車で破壊された正面扉から城の中に潜入した。
警報が鳴り響き、消火のためかスプリンクラーが作動して水浸しになっている。正面扉の目の前は、上下に貨客を輸送させるための機械「エレベーター」がいくつか並んでいるエントランスホールになっていた。
エントランスホールの奥には通路があり、そこにもいくつかの部屋があるように見える。
「どうする?」
「俺の仕込んだ発信機からの情報だと、多くの機械は上の方の階に集中していた。恐らく城の生命線は半分より上の階にあるはず――」
と、思わず言いかけた言葉を切った。唐突に、目の前の一台のエレベーターの扉が開いたのだ。
「エイク、これは……」
「はは、分かりやすい罠だな」
しかし、そう来なくては面白くない。俺が自ら城に乗り込んだのは、作戦のためだけではないからだ。
この世界の真実を知るという、俺にとって重要な目的を果たさなければならない。そのために必要な危険なら、今までも冒してきた。
「乗ってやろうじゃねえか」
エレベーターに乗り込もうとする俺を「本当に向こうの誘いに乗るの?」とユンが制止する。
「どのみち俺の位置情報は割れてるんだ。どこに行こうが見つけ出される。だったらいっそ、奴らの掌の上で踊る振りくらいしてやってもいいかってな。それに――」
ユンの肩に手を乗っけて、
「俺のこと、絶対守ってくれるんだろ? なあ、ユン」
とにやりと笑って見上げる。その手に自分の手を重ねて、「うん、絶対に守るよ」とユンは微笑んだ。
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