オメガの城

藤間留彦

文字の大きさ
上 下
40 / 45
第四章 革命

第四十話

しおりを挟む
「エイク! エイクッ!」

 気付くと片膝をついて頭を押さえていて、必死にユンが俺の名を呼んでいた。

「俺は記憶喪失なんじゃない……初めから記憶が無いんだ」

 唯一思い出された記憶の断片。研究者らしき男達の会話から推測される俺についての事柄は、信じたくないようなものだった。

「そうよ、わたしくしの偽物ちゃん」

 頭がずきずきと痛み、目が眩む。ユンが俺の肩を抱いて心配そうに見詰めている。

 と、次の瞬間、背後のエレベーターの扉が開いて、振り返った時には電流棒を振り下ろす警備兵の姿があった。

「ッ……ぐ……!」

 目の前にユンが倒れ込み、即座に別の警備兵によって縄で縛られ、動きを封じられてしまう。

「あははははっ! 無様ね!」
「ユン……!」

 ユン一人なら避けられたはずだが、俺を庇ってまともに電流を受けてしまった。少なくとも数分は動くことすらできない状態になる。

「ふふ、真実を教えてあげるわ。どうせここで死ぬ運命なんですもの。死出の旅に行く貴方に手向けの言葉くらい掛けてあげなければ、あまりにも可哀想だわ」

 警備兵が今度は俺に縄を巻き付ける。抵抗しようにも、ユンが捕らえられ、電流棒を突き付けて脅しされては、それも敵わない。

「世界最後の『女』である女王は、人の手で作られた『コピー』なの」

 オフィーリアは、俺よりも身体に丸みを帯びているものの、顔は俺とほとんど差は感じられない。近親者だという範疇を超えているのだ。

「クローン、って言うのだけど。一人の人間の細胞から、全く同じ遺伝子情報を持つ人間を作る技術よ」

 隕石が衝突し、殺人ウイルスによって女性が大量死した頃だったか、クローン人間研究という人間を複製する研究がなされていた。
 しかし、同一の遺伝子配列を持つ人間を複製した場合同一の病や因子で死亡することになり、遺伝子の多様性を求めた結果、疑似子宮、疑似卵巣を持つ男性――Ωを創る研究に一本化されたため、中止されたと聞く。

「それで……俺とお前は同一遺伝子を持ったクローンだってことか?」
「貴方と一緒にされたくないわ! 貴方は欠陥品でわたくしの偽物! わたくしはΩとしても完璧なのよ!」

 ――Ω、と言った。女性の代わりに子供を産むための機能を備えた人間がΩだ。つまり、かつて存在した女性には、Ωは存在しない。

「じゃあ、お前は女じゃないってことだな」
「……ええ、そう。けれど、エストロゲンを十年近く注射しているから、男性器は小さくなり、胸も膨らんでいて、見た目は女に一番近い存在だわ」

 エストロゲン――女性ホルモンだ。自然な状態の男性にも存在するもので、妊娠・出産後のΩにも多く分泌される。胸が少し膨らんで、母乳が出るようになるらしい。
 そんな女性ホルモンを執拗に注入しているからだろう。女王の身体は丸みを帯びて、胸も少し膨らんでいるようにみえる。

「女性器を持った人間はわたくしだけ……貴方が今日ここで死ねば、ね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

アルファの家系

リリーブルー
BL
入学式の朝、初めての発情期を迎えてしまったオメガの美少年。オメガバース。 大洗竹春 アルファ 大学教授 大洗家当主 大洗潤 オメガ 高校生 竹春の甥 主人公 大洗譲 アルファ 大学生 竹春の長男 夏目隼人 オメガ 医師 譲の恋人 大洗竹秋 オメガ 故人 潤の父 竹春の兄 関連作品『潤 閉ざされた楽園』リリーブルー フジョッシーに投稿したものを推敲し二千文字程加筆しました。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...