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第四章 革命
第四十話
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「エイク! エイクッ!」
気付くと片膝をついて頭を押さえていて、必死にユンが俺の名を呼んでいた。
「俺は記憶喪失なんじゃない……初めから記憶が無いんだ」
唯一思い出された記憶の断片。研究者らしき男達の会話から推測される俺についての事柄は、信じたくないようなものだった。
「そうよ、わたしくしの偽物ちゃん」
頭がずきずきと痛み、目が眩む。ユンが俺の肩を抱いて心配そうに見詰めている。
と、次の瞬間、背後のエレベーターの扉が開いて、振り返った時には電流棒を振り下ろす警備兵の姿があった。
「ッ……ぐ……!」
目の前にユンが倒れ込み、即座に別の警備兵によって縄で縛られ、動きを封じられてしまう。
「あははははっ! 無様ね!」
「ユン……!」
ユン一人なら避けられたはずだが、俺を庇ってまともに電流を受けてしまった。少なくとも数分は動くことすらできない状態になる。
「ふふ、真実を教えてあげるわ。どうせここで死ぬ運命なんですもの。死出の旅に行く貴方に手向けの言葉くらい掛けてあげなければ、あまりにも可哀想だわ」
警備兵が今度は俺に縄を巻き付ける。抵抗しようにも、ユンが捕らえられ、電流棒を突き付けて脅しされては、それも敵わない。
「世界最後の『女』である女王は、人の手で作られた『コピー』なの」
オフィーリアは、俺よりも身体に丸みを帯びているものの、顔は俺とほとんど差は感じられない。近親者だという範疇を超えているのだ。
「クローン、って言うのだけど。一人の人間の細胞から、全く同じ遺伝子情報を持つ人間を作る技術よ」
隕石が衝突し、殺人ウイルスによって女性が大量死した頃だったか、クローン人間研究という人間を複製する研究がなされていた。
しかし、同一の遺伝子配列を持つ人間を複製した場合同一の病や因子で死亡することになり、遺伝子の多様性を求めた結果、疑似子宮、疑似卵巣を持つ男性――Ωを創る研究に一本化されたため、中止されたと聞く。
「それで……俺とお前は同一遺伝子を持ったクローンだってことか?」
「貴方と一緒にされたくないわ! 貴方は欠陥品でわたくしの偽物! わたくしはΩとしても完璧なのよ!」
――Ω、と言った。女性の代わりに子供を産むための機能を備えた人間がΩだ。つまり、かつて存在した女性には、Ωは存在しない。
「じゃあ、お前は女じゃないってことだな」
「……ええ、そう。けれど、エストロゲンを十年近く注射しているから、男性器は小さくなり、胸も膨らんでいて、見た目は女に一番近い存在だわ」
エストロゲン――女性ホルモンだ。自然な状態の男性にも存在するもので、妊娠・出産後のΩにも多く分泌される。胸が少し膨らんで、母乳が出るようになるらしい。
そんな女性ホルモンを執拗に注入しているからだろう。女王の身体は丸みを帯びて、胸も少し膨らんでいるようにみえる。
「女性器を持った人間はわたくしだけ……貴方が今日ここで死ねば、ね」
気付くと片膝をついて頭を押さえていて、必死にユンが俺の名を呼んでいた。
「俺は記憶喪失なんじゃない……初めから記憶が無いんだ」
唯一思い出された記憶の断片。研究者らしき男達の会話から推測される俺についての事柄は、信じたくないようなものだった。
「そうよ、わたしくしの偽物ちゃん」
頭がずきずきと痛み、目が眩む。ユンが俺の肩を抱いて心配そうに見詰めている。
と、次の瞬間、背後のエレベーターの扉が開いて、振り返った時には電流棒を振り下ろす警備兵の姿があった。
「ッ……ぐ……!」
目の前にユンが倒れ込み、即座に別の警備兵によって縄で縛られ、動きを封じられてしまう。
「あははははっ! 無様ね!」
「ユン……!」
ユン一人なら避けられたはずだが、俺を庇ってまともに電流を受けてしまった。少なくとも数分は動くことすらできない状態になる。
「ふふ、真実を教えてあげるわ。どうせここで死ぬ運命なんですもの。死出の旅に行く貴方に手向けの言葉くらい掛けてあげなければ、あまりにも可哀想だわ」
警備兵が今度は俺に縄を巻き付ける。抵抗しようにも、ユンが捕らえられ、電流棒を突き付けて脅しされては、それも敵わない。
「世界最後の『女』である女王は、人の手で作られた『コピー』なの」
オフィーリアは、俺よりも身体に丸みを帯びているものの、顔は俺とほとんど差は感じられない。近親者だという範疇を超えているのだ。
「クローン、って言うのだけど。一人の人間の細胞から、全く同じ遺伝子情報を持つ人間を作る技術よ」
隕石が衝突し、殺人ウイルスによって女性が大量死した頃だったか、クローン人間研究という人間を複製する研究がなされていた。
しかし、同一の遺伝子配列を持つ人間を複製した場合同一の病や因子で死亡することになり、遺伝子の多様性を求めた結果、疑似子宮、疑似卵巣を持つ男性――Ωを創る研究に一本化されたため、中止されたと聞く。
「それで……俺とお前は同一遺伝子を持ったクローンだってことか?」
「貴方と一緒にされたくないわ! 貴方は欠陥品でわたくしの偽物! わたくしはΩとしても完璧なのよ!」
――Ω、と言った。女性の代わりに子供を産むための機能を備えた人間がΩだ。つまり、かつて存在した女性には、Ωは存在しない。
「じゃあ、お前は女じゃないってことだな」
「……ええ、そう。けれど、エストロゲンを十年近く注射しているから、男性器は小さくなり、胸も膨らんでいて、見た目は女に一番近い存在だわ」
エストロゲン――女性ホルモンだ。自然な状態の男性にも存在するもので、妊娠・出産後のΩにも多く分泌される。胸が少し膨らんで、母乳が出るようになるらしい。
そんな女性ホルモンを執拗に注入しているからだろう。女王の身体は丸みを帯びて、胸も少し膨らんでいるようにみえる。
「女性器を持った人間はわたくしだけ……貴方が今日ここで死ねば、ね」
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