いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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547:新顔

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ちょっと早めに起き出して、荒野を散策。
月明かりの下ではわからなかった植物群を観察した。

トックスさんは皮の状態を確認している。
ビャクとクーも呼んだ。
クーはわたしの頭の上が定位置になっている。
ビャクは少し大きくなったのか、腕に巻き付かれると
動きにくい。
専用の袋を作ってそこに入ってもらう。
マティスはトックスさんと。
あまり遠くに行くなということで、ソヤと2人で降りたのだ。


「低木だね。
これからな?ボットや豚が食べてるのって?」
「人は?食べれんの?」
「わかんないなー。毒っぽさはないんだけど。
あ!いい匂い!金木犀?」

ポキリと枝を折ってみるとまさしく金木犀の匂いがした。
アジサイのような葉っぱと枝だ。
葉だけを食べてるのかな?葉がないものが多い。

折った枝の中は空洞だった。

これは植物園に植えよう。

「ソヤ?」
「これ、落ちてる方がいい匂いがする。」
「あ!ほんとだ!これさ、束ねて置くだけで
臭いにおいが取れそう!」
「売れる?」
「わたしは買うね!」
「集めよう!!」

うひゃひゃひゃひゃと、落ちている小枝を拾いまくった。
こういうのがすごく楽しい。

「いいものを仕入れることができたね。
これ以上乾燥しないように、塩袋には入れておこうか。
もっと乾燥した方がいいかもしれないけどね。
とりあえず今の状態で保存だ。
ソヤの背負子に入れてもいい?」
「うん!いくらで売る?」
「まずは検証してからかな?
ずっと匂いが出るわけじゃないから、匂いが薄くなったら削ってくださいとか、
水を付けてくださいとか。
完全に匂いが無くなったら、燃やしても大丈夫なのかとか。」
「めんどくさいね。」
「それは仕方がないよ。いろいろ先に研究しないと真似されるよ?
で、大体が後から出るものの方がいいってことが多い。
そうならないように最初に研究しておく。
そうすると、元祖ってことでいい物だったら売れる。」
「豆のソースも?」
「そうだよ?元祖ってのは魅力的な言葉だ。」
「ふーん。」
「こういう匂いのする木ってほかにあるのかな?
ん?香木?いや、あれは焚いていい香りをだすんだよね。
これだけでいい匂いのするのも香木かな?」
「匂いのするものは結構あるんじゃないか?」
「たとえば?」
「茶もそうだろ?香辛料も枝から作ってるものあるって聞くけど?」
「あ!そっか。そうだね。シナモン系はまさしく枝、樹の皮だったね。
ソヤは賢いね。じゃ、今のところは問題ないと。
香木関連はちょっと問題が多いみたいだから。
でも念のため、セサミンかトックスさんに聞いてみよう。」
「・・・ねーちゃんは何でも知ってるんだと思ってた。 」
「まっさかー。知らんことばっかりだよ?」
「そうみたいだ。俺が知ってることなんでも教えてやるよ?」
「ほんと!ありがとう!いや、ここだけの話、わたしの廻りって、
知識が皆あるようで、ある方向に偏ってるのよ。
なにが、とはわかんないんだけど。
その何がってのが分かんないの。わかる?」
「あー、なんとなく。」
「よかった。それをわかってくれたら助かるよ。」

この低木を5本ほど植物用の収納袋に入れた。
これはソヤには気付かれないようにだ。

片付けが終わったマティスたちと合流して、直接ドロインさんちの中庭に。
いいにおいのする枝のことを聞いたが、
トックスさんは知らないということだった。
だけど、なにを思ったのか、一束欲しいという。
さっそく、ソヤが一束10本、5銀貨で売っていた。
トックスさんだからいいだろう。

クーちゃんとビャクは無関心だった。
ドロインさんのところに行くのに、
専用の籠には入ってもらうつもりだったけど、
ビャクが探検に行くという。それにクーちゃんもついていくそうだ。
背中に乗って。

「人に見つからないようにね。
で、何かあったら呼んで?強制的に呼び戻すから。」


「ドロインさーん!遊びに来ました!
朝ごはん食べましょー!」
「トックスも来たのかい?」
「おうよ。どうだ?死ぬ前にはできそうか?」
「失礼だね。死ぬのは当分先なんだよ。ん?新顔だね?誰だい?」
「ソヤ、挨拶はできるね?」
「え?えーと。」

ソヤは前に進み出ると、
自分で自分を抱きしめるようにして名を名乗った。

「ソヤと申します。」
「おや?挨拶の仕方を知ってるんだね?」
「わたし知らなかったよ?え?一般常識?」
「ねーちゃん、この人は中央の人だ。中央の人にはこうするんだよ。」
「おお!知らんかった。」
「ははは!賢い子だ。
が、ここはタトート。そんな作法はいらないよ?
わたしはドロインだ。ここをお前の故郷と思うがいい。
いつでも遊びにおいで。」
「へー、ドロインがそういうとはな。」
「あんたにも言ったはずだよ?
もちろん、お前たちもね。
さ、月が沈んでそろそろ半分だが?いまから食べるのもあさごはんなのかい?」
「お昼ご飯ですね。お台所借りていいですか?」
「もちろんさ。」

なににしようか?
ラーメンとお肉の丸焼きは食べたしね。
あ!ハンバーグ?ドロインさんは食べたことないかな?
ハンバーグカレー?これだ!

「ドロインさんは辛いの大丈夫ですか?
ソヤは?」
「なんでもいいさ。」
「辛いの?うまかったらなんでも。」
「そりゃそうだ。
マティス?カレーとハンバーグは大丈夫だよ?
見たいんでしょ?刺繍布?見といで?
あー、匂いが出ると困るから膜は張っておこうかな。」
「あなたが私と離れるとろくなことがない。」
「ははは!ここでは大丈夫だよ?わかるでしょ?
ドロインさんがいるから。」
「そうだな。」

ドロインさんのテリトリーだ。
ニバーセルの王でも何もできないだろう。

布を取りに来た者たちだって、
わたしたちや孫と曾孫さんがいなかったとしても、
なにもできない。
ラーフィングと会ってからその人のテリトリーがわかる。
ここは中庭からドロインさんのテリトリーだ。
出入りは自由だが、ドロインさんの望まないことはできない。


カレーの匂いを外に、砂漠に飛ばすようにして
温めていく。
ハンバーグも焼く。
さらご飯はたっぷり。
サボテンの酢漬けと、温泉卵。
おいしい水に氷も入れた。
あ!チーズのトッピングも。



「できたよー。」






─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
「旦那?トラの毛皮の色の話な。」


月が沈むと、ソヤと愛しい人は下に降りて探検に行くという。
クーとビャクも呼び寄せている。
飯はドロインと一緒に食べるというので、
乳が多いコーヒーと、アップルパイをだけを食べていった。
あくまでも軽い食事だと言い張っていたが。

私はトックスとトラの皮の仕上げを教えてもらうことになった。
基本的なことから、最後の艶出しまで。

色目は狩った時と同じだ。
時間が立てば濃くなるのか?
そう考えているとトックスは話し出した。

「あれな、色が濃いほうが価値があるというのは本当だ。
個体でもともと濃いものがいるそうだ。
だが目立つだろ?だから余程強くないと生き残れない。
旦那が見たのはそれだろうな。」
「トックスも見たことがあるんだな?」
「いや、話だけだ。」
「どこで、どんなふうに聞いた?」
「南の向こうの権力者が持っていると。」
「南?向こう?」
「南の向こうなんて、
大陸が続いているのか海があるのか誰も見たことも聞いた事もないだろ?
妖精の国の話と同じで誰かが言った作り話だと思っていた。
だが、旦那は見たというからあながち嘘ではないんだろうな。」
「見たことは見たんだ。どこでだというのは思い出せない。
愛しい人に言えば、
思い出さないんだったら必要ないんだって。」
「なるほどな。それは正しいだろうさ。
が、色の濃いものが有るとわかっただけでもいいじゃないか。
今度トラを仕留めるならそれ優先だ。が、相手も相当強いわけだ。
油断するなよ?」
「狩ることは決まっているんだな?」
「そりゃそうだろ?」

あはははは。


「トラの毛皮か。
んー、ミンクの方が肌触りはいい。
トラの方が防水性はあるな。が、重い。」
「トカゲの皮で撫でれば?」
「そうだな。
・・・・抜けるだけか。」
「あとあるのは、熊、蛇、クジラ。」


皮で皮を撫でても何も起きない。

「見たやつと同じだ。
以前なら、これ以上何もできないんだろうと思うんだがな。
なんというか、期待が大きかった分、正直がっかりなんだ。
ミンクがこれ以上だったからな。
んー。」

トックスは納得がいかないようだ。

愛しい人が戻り、かなり芳香の強い木の枝を持ってきた。
ここまで強いと香木とは逆に言わないと、
トックスが言うが、これがなにかは知らないという。


「そうだな。少し売ってくれるか?ソヤ?」
「え?いいの?ねーちゃん!売っていい?」
「そうだね。トックスさん?これはまだ研究も何もしてない。それでもいい?」
「かまわんよ。こっちもこれを研究したいしな。うまくいったらまた買わせてもらうよ。」
「やった!」

ソヤは嬉しそうだ。
一応、同じ長さの物をそろえて、紐で結わえている。

「ちょっと手を加えるだけで、それっぽいでしょ?
こういうの大事だよ。」
「なるほど!」


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