いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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426:定義

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幸いバラバラにされることなく、牢屋に。
入っておけと言われた。鍵付き。


「初牢屋だよ。お兄ちゃんは?」
「ないな。」
「おお!2人で初体験か!」
「いい響きだな!」

背負子の中身も確認せずに入れられたので、
魚の皮を引き、クッションを置く。
もちろん先にきれいにしている。
部屋の隅にあるのはおトイレだよね?ツボだけなんだけど。
そこらへんもきれいに。

テーブル、こたつが欲しい。
背負子を改良すればいいか。
掛布団はさすがに出せないので、これも魚の皮だ。
天板は無し。仕方なし。


「なにがいい?」
「んー、チーズの奴!
材料は干し肉で。で、おにぎりでつくって!!
生肉はさすがにね。」
「好きだな。乾燥させたエビと赤茄もいれようか?」
「やった!」

ごちそうだ。
材料は乾燥ものばかり。おにぎりももっていたと言えばいい。

「しかし、何の罪かな?
警備隊に捕縛令を出せるってことはタトートの国が出したんだよね?
殺人容疑の時みたいに18か国に回ってるのかな?」
「私たち兄弟にか?ミフェル絡みだと夫婦だろ?」
「そうだね。できた?いい匂い!食べよう!!」

器によそった時にやって来た。
いるよね、ご飯時に来る客。

ニコルさんだ。
ここに連れてきた牢番と一緒だ。

「お前たち!!何をしているんだ!!」
「晩御飯です。」
「出ろ!!」
「鍵がかかってますよ?」
「開けろ!!」
「は、はい!」

無理だ。鍵は壊したから。

「これおいしいね。やっぱり干し肉は砂トカゲだ。」
「そうだな。俺もそうおもう。」

牢屋の鉄格子をどったんばったんやってる。
それで壊れたらどうしようもないだろう。

どうして荷物を取り上げなかったのかと怒られている。
そりゃそうだ。
ゆるいんだろうな。


お湯を沸かし、コーヒーを飲み始めた時にはあきらめたようだ。
ああ、いい香だ。

「もういい。そのままで話を聞いてほしい。」
「先に聞くが、俺たちは犯罪者なのか?なんの罪だ?
それすらわからんままにここに連れてこられた。
聞く義理も義務はないな。」
「・・・そこからか?そこから間違ったのか?」
「しらんな。」

はーっとため息をついて、話し始めた。

「ダカルナのアガッターが話をしたいと。
それとは別にあんたたちをアガッターより先に押さえろと通達が来た。」
「ますますわからんな。そのダカルナの誰それなんぞ知らんぞ?」
「嘘をつくな。行商でアガッターを知らないわけがない。」
「知らん。行商と言っても最近始めたばかりだ。
知らないとだめなのか?」
「?アガッターを無視したんだろ?
2人連れ。黒目黒髪、もう一人は見目がいい。行商で夫婦だと。」
「「・・・・・。あははははは!!」」

2人で見つめ合い大いに笑った。うまくいった。

「何がおかしい!」
「俺たちは兄弟だ。3人兄弟だ。
一人は別口で動いている。いずれ合流するがな。」
「え?兄弟?男か!!」
「お兄ちゃん?あれか?ぼくが頼りないからか?」
「そうかな?そうなるとちいのほうが頼りないぞ?」

ちいとはセサミンのことだ。

「ちい兄ちゃんが聞いても泣くな。」
「鍛錬だな。」
「はいはい。」

「うそだ!その黒髪のほう!女だろ?見せろ!!」
「なにを?なにをか?」

仕方がないな。
前をごそごそする。

『あんたたち2人が確かめるのなら、男だ。』

これは最終手段なんだけどね。
マティス?あんたが驚いてどうするんだ?

「あ、男だ。」
牢番が言う。

「どういうことだ!!」
「知らん。間違いだろ?いい加減出してくれ。
宿をとらねばここでは眠れん。」

「・・・・すまない。おい、出せ!」
「ニコル様!鍵が壊れてるんですって!」
「ああ、そうだ。どうする?鍛冶屋を呼ぶか?」
「鍵が曲がってるんじゃないのか?」

『落ち着いて回せば開くよ』

ええ、開きましたよ。

「お前は!!」

牢番がまた怒られてるよ。これはすまぬ。

「もういいな?片付けは終わったか?」
「うん。」
「すまない。宿はわびとしてこちらで手配しよう。
このことをほかで話してくれるな。」
「それは助かるな。もちろんだ。」

紹介してもらったものは一階に食堂。
風呂無し5リングらしい。普通だ。
樹石はないから、お湯を買うか、
砂漠石を買う。どちらも同じ金額だ。
お湯を運び込む手間と砂漠石をコロンと一つ渡すのなら、
砂漠石の方がいい。
ここは砂漠石がコットワッツより安いみたいだ。
だったらここから買えばいいのに。
売るほど採取していないのだろうか?

「そうするのだろうと思ったが、少し焦ったぞ?」
「ああ、男だっての?あの2人にしか効果はないね。
マティスは効かないかもしれないけど、
確かめようとするときは男だと思い込むっていう言霊掛けようか?」
「次もあればな。」
「そうだね。あんまりそういうときには使いたくないもの。」
「風呂はどうする?」
「ここの砂漠石は西の砂漠のものだよね?
じゃ、遠慮なく使っちゃおう。」

風呂上がりに来客。
そういうタイミングの人っているよね。
慌ててさらしを巻く。

そのお客はニコルさんだ。

「なんだ?まだ用か?」
「いや、少し話がしたいんだが?」
「・・・・。」
「いいよ?お兄ちゃん。ここの国のことを教えてもらおうよ。
香辛料が買えるところとかさ。」
「中へ。」
「ああ。」


「なんか飲みますか?」
「ああ!その牢屋で飲んでいたコーヒーはあるか?あれが飲みたい。」
「はーい。お兄ちゃんは?一緒でいい?」
「そうだな。」

わたしも飲もう。
一日7、8杯は飲んでたからね。
寝る前も。コーヒーで眠気が飛ぶというのは嘘だと思う。

牛乳は出せないか。
砂糖、樹脂蜜か、テオブロマか。
牛乳を入れないのだったらテオブロマだ。さっきもこれだったから。


「ああ、いい香りだ。私はコーヒーの方が好きなんだが、
このコーヒーはうまい。それにこの甘みがいい。」
「ルポイドで仕入れたんだ。」
「甘味も?それを売ってもらえないか?」
「ここは?店は出せるの?それを聞くことなく、
牢屋だったから。けど、だれも聞いてなかったね。」
「あのまま進めば、中央広場がある。そこで店を出すんだが、
申請に1年はかかる。」
「一年か。新参者はダメってことか。買うのは?」
「それは自由だ。」
「仕入れ額の一割税金で取られるとか。」
「それはないな。店を出すときに金が要る。
500リングだ。申請に時間がかかるし、金も高い。
他所からの行商は買うだけだな。」

自国製品を守ってるってことか。
砂漠石も国主導で集めてるそうだ。国内で必要な分だけ。
ん?じゃ、コーヒーは?

「ああ。だから個人的に売買する。」
「え?違法っぽいけど?」
「あははは!そんなことはない。
自国の物は店で買うが、売っていないものは仕方がないだろ?」
「コーヒー売ってないの?」
「このコーヒーは売っていないな。」
「ああ、いれ方が違うだけだよ。
砕いて、布で濾してるの。その違いだけだよ。」
「え?そうなのか?豆が違うのだと思った。
入れ方?もう一度入れて見せてくれるか?」

丁寧に入れようか?
わたしはいまはもいいや。マティスもいらなさそう。


「それで?話とは?」
「・・・確かめていない。服を下していないのに、
アギー、牢番は男だと言った。
鍵もあれだけ試したのにすぐに開いた。石使いだろ?」

言葉を間違えたか。
2人とも、男だと思い込む、鍵は壊れる、が正解だったかな?

「ははは!だとしたら?」
「・・・・。赤い塊か?」
「?なんだそれ?」
「違うのか?」
「赤い塊ってかさぶた?」
「ぶは!!」

マティスが噴き出した。
ふふふ、油断しすぎだ。

「・・・違うんだな?しかし、石使いには違いないな?」
「かなりの石を使うぞ?
いざという時のための石をすべて使ってしまった。
とにかく、俺たちはあんたが探している夫婦ではない。
兄妹に違いないんだ。旅は男同士の方が楽だからな。
それだけだ。」
「いや、それはいい。アガッターが探しているのは
行商の夫婦だ。それが石使いだったらそのことも
話に出ていないとおかしいからな。
大量の石を使うと言っても石使いだろ?」
「俺たちは詳しくは石使いの定義を知らない。皆は石を使うだろ?
それとどう違う?」

これ、わたしがマティスに聞いたことだ。
マティスも答えられなかった。
ただ、石をうまく使うとだけ。

「石使いは石をうまく使う人間のことだ。
一般人よりもな。」

一緒かっ!!

「・・・だったら石使いだな。」

あれか?探偵は探偵と名乗ったら探偵だっていう奴か?
定義はないんだ。

「それで?」
「雇いたい。」
「どれくらいの期間?いくらで?
俺たちはずっとここにいるわけではない。
下の弟と合流しないと。遅れるとうるさい。」

(ドーガーがな)

「ブっ!!」
不覚!!

「・・・一日あればいい。一日だけだ。」
「一日?月が沈んで昇ってまた沈むまで?」
「そうだ。」
「内容によるな。それと報酬と。
第一ここには自らを石使いだと名乗るものもいるだろう?
そいつらに頼めばいいの。それをしたのか?」
「・・・していない。」
「なぜ?」
「ここの石使いは国が抱えている。一般人が頼めるようなものではない。」
[警備隊長なんだろ?それでも一般人か?」
「王族だけだ。」
「タトートの?」
「そうだ。領国を納めている領主もダメだ。
王の血筋だけだ。」
「厳格だな。」
「お兄ちゃん?どうする?」
「だから、内容と報酬だな。
それと保証だ。できなくてそれを理由に殺されてはかなわない。」
「そんな大事ではない。
探し物だ。砂漠で花を探してほしい。
報酬はその花を買い取ろう。」
「?花?おいくら万円で?ああ、いくらで?」
「一つ3000リングだ。」
「?一つ?一本じゃなくて?」
「石だ。花のような形をした石だ。」

砂漠の薔薇のこと?
花博で見た記憶があるな。なんかの結晶だったと思うんだけど。

「それは見たことないものだ。探せない。それに3000だろ?
ものすごく高額だな。ということはめったにないということだ。
諦めろ。」

「・・・・。」
「ちなみにそれ、おいしいとか?」
「さすがにそれはない。」
「・・・それはない。」

Wで否定だよ。
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