いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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115:耳掃除

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講堂の中央に出て、ルグの気合からはじまった。
ルグとドーガーは槍使いだ。
彼女は素手だ。手甲は嵌めている。

ルグの一撃を躱し、その間にドーガーが打つ。
2人の連携はとれている。
ただ彼女は、難なく躱す。
打つ、躱す、これが繰り返され、ふっと彼女が息を吐くと
攻撃に転じていった。
その動きが、出来上がった演武なのだ。

ドーガーの呼吸が乱れたそのとき、彼女の蹴りが
2人に食い込む。


「んー、、手を抜かれたわけじゃないよね?」
「姉さん、素晴らしかったです。1つの演劇を見ているようでした。
しかし、兄さん、本当に大丈夫なんでしょうか?」
「ああ、見ただろう?うつくしかったな。」
「ええ、それはもう。ルグ、ドーガーお前たちはどうなのだ?」

「ええ、こちらも実力以上に力が出たと思うのですが、彼女の、そのなんとお呼びすれば?」
「んー?赤い塊の時はそれで、いまは、、」
「奥方だな。」

私の妻なのだから。

「あ、はい、奥方様の流れに引き込まれるというか、決して操られいるということはないのです。
ただ、打つべきところと、次の踏み込み、それが、考えることなく決まっているのです。」
「わたしもその感覚でした、ルグさんの動きもわかるのです。次に右から、そこでわたしは左から。
その感覚が続きました。息を吐く間を間違えたと思ったら、その時は打たれていました。」

彼女の思いに動きにつられたということだろう。
上位と打込めば、たまにあることだ。
下位の息の乱れでそれは終わる。
なかなかに続いたほうではないか?
なるほど、この2人もそこそこというわけだ。

「愛しい人、よく動けたな。息は上がっていないな?
十分に体力もついてる。さ、風呂にいこう。」

それをルグが止めにかかる。
邪魔をするのか?

「マティス様、お待ちください。マティス様とも手合わせをお願いしたい。」
「わたしもです。」
「ああ、兄さん、お願いします。手合わせでなくてもいい、軽く鍛錬してやってください。」

鍛錬か、それはいいな。

「お?マティスが指導するの?見たいな。自分がされてても
自分のことでいっぱいだから、マティスのかっこいいところが見れるね。」

やらねばなるまい。

「軽くだぞ?では、そうだな、やはり軽く手合わせをしよう。
私は仕掛けないから、打ってこい」

そこからは、なかなかに楽しめた。
彼女との鍛錬はけっして彼女に傷がつかないように、彼女の力を伸ばすようにと
神経を使うが、この2人なら多少は大丈夫だ。
私も久々の複数の模擬戦で汗を流し、鍛錬の項目を3人でこなしていった。
うむ、なかなかに、ついてくるではないか。
2人が完全にへばってしまい、私も軽く汗がにじみ出る。

すこし、夢中になってしまった。
彼女とセサミナは?と振り返ると、なんと、彼女の膝枕で
セサミナが耳掃除をしてもらっている。


「うわ、兄さん!!落ち着いて、死ぬ、その気は死ぬ!!」
「おお、これが殺気か、ちょっとすごいね?」
「離れろ!!お前も何をしている?」
「いや、さすがは、マティス、惚れ直すねって見てたけど、鍛錬になっちゃうと地味でしょう?
でも、嬉しそうにしてたから、待ってる間に耳掃除の実演してたの。」
「二度とするな!!」
「ははは、しないよ?最後の”ふっ”もしてない。あれはマティスにだけだ。
それにしてもさすがは、わたしのマティスかっこいいね。」

「ん?ふっはしてないんだな?かっこいいか?そうか?ふふふ、それはよかった。」
「うん、マティスもしっとり汗かいてるね。わたしもお風呂入りたい。
セサミンお風呂借りてもいい?」
「あ、はい、場所は中庭の中にあります。」
「あれか、記憶にない建物だったんでなにかと思っていた。」
「今日はもう、誰も使わないようにしています。湯も張っています。
砂漠石を入れれば温まりますから。中に入ったら、一応、防音と気配消しは行ってください。」
「わかった。終わったらそのまま家に帰る。明日は月が沈み切る前に
お前の部屋に行こう。ではな。」
「じゃあ、また明日ね。あ、ルグとドーガー伸びたままだね。
 これ、使って?冷たいタオルとおいしい水。ここから、飲んで。」

彼女の腰を抱き、中庭にで、その建物の中に入った。
なるほど、セサミナが自慢するだけのことはある。
これは楽しみだ。





「おい、ルグ、ドーガー、起きろ、これを。姉上が下さったぞ。」
「はい、起きてます。あの殺気で腰が抜けただけです。」
 「あれはセサミナ様に向けて?ご無事で?」
「ははは、あれは兄上の威嚇だ。死にはしない。死ぬかとは思ったが。
ほら、これがタオルだ。」
「この冷たいのは気持ちがいい。これが完成品なのですね。売れますよ!」
「これは、どうやって?ここから?あ、じょっぱい。でも冷たくて、ああ、いいですね。
この容器も売れそうですね。」
「タオルはいいが、それは全部砂漠石だ、無理だな。」
「え?砂漠石を加工してるのですか?なんて、贅沢な。それにこれほどの石をお持ちとは。
マティス様の奥方様は、高原の民の豪族か何かなので?」
「それは聞くな。それで、念願の姉上の手合わせと兄上の鍛錬はどうだった?」
「あ、はい。奥方様とのは、なんというか、先ほども言いましたが、決まっているのです、動きが。
流れるように、舞っているような感じで、心持もとても穏やかで、もっと演じていたい、そう思いました。
ドーガーの息が切れていなければ、わたしの息も切れましたので、あれ以上は無理でしたが。」
「マティス様の鍛錬もギリギリ限界のところで、緩和が入り、どんどん進められるのです。
しかし、寝ずには無理ですね。これに耐えられた奥方様はすごい。」
「そうだな。さ、風呂に行きたいだろうが、今日は湯あみで我慢しておくれ。
いま、兄上たちが使っている。家族で入るというのはいいかもしれないな。
時間を決めて入る順番を決めればいいだろう。夫婦、家族、親子限定だ。婚約止まりではだめだな。」
「それはみなが喜びますね。さっそく提案してみましょう。」
「そうしておくれ。では明日のために今日はもう、引き揚げよう。」



「おお、広いね。さすが、いい石使ってる。
排水は?一応あるのか?給水は?ん?汲んでるの?
で、砂漠石を入れると。へー。おもしろいね。
でも、窓がないね。庭に面してるんだから、庭を見ながら入りたいね。」
「覗きがでるぞ?」
「いや、そこは囲いをつくってさ。そうすると中庭が台無しか。
ま、いいか。洗い場は?ないね?浸かるだけか。
そうか、さっと、湯をかけてザボンと入ろう。この広さ、泳げるね。」
「泳げるのか?それはすごいな。私も騎士団で川や湖にいくまで泳げなかった。
そのときは皆が私を鍛え上げようとしたな。おかげですぐ泳げるようになったが。」
「そうか、学校ね。プール、ひろーい水を張った、うん、このお風呂の何倍もの大きさのものが
あって、そこで、教えてもらったの。授業の一つだったよ。」
「そうか、そんなことも教えるのだな、学校は。」
「うん、運動もね。勉学もそうだけど、集団生活の訓練みたいな要素もあるんじゃないかな?
いじめとかもあるけどね。それをうまくかわすのも勉強かな?」
「そうか、さ、湯をかけて、入ろう。石はこの大きさだとかなり入れなければいけないな。」
「青い海峡石君に熱湯を出してもらおう。お願いね。」

青い海峡石を呼びよせ湯舟の中にぽちゃんと入れた。
すぐに適温になる。

「はは、ほら、泳げる。」
「ああ、いい眺めだ。」
「もう!!」

わたしを抱きかかえて浮いてもらうのは気持ちよかった。
ただ、そんなにいちゃつくこともできない。
やっぱり人さまの家なのだ。

「これ、お湯どうしよう?排水して、掃除して新しいお水張っておけばいいのかな?」
「それは聞いてなかったな。それでいいんじゃないか?」
「そう?じゃ、これ抜いて、と。」
『きれいに』『水も』

この言葉は魔法の言葉だ。

「んじゃ、家のお風呂で、体洗ってくれる?」
「もちろんだ!」

体力はついたが、やっぱりぐったりした。
使う体力が違うのだ。





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