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第71話 飯処の寄る辺や
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――エリーたちは、タイラーの家に荷物を一通り置いた後、その足ですぐ近くにあった料理店に入り。飯にありついていた。
空はもう夕暮れ。険しい山登りの疲れを癒す為、ひと際がっついて一行は食事を摂る。
「――ふはーっ!! ここの飯、美味いっスねえ~っ!! 言っちゃあなんスけど、こんな高山地帯にこんな美味い飯を作れる食材は調達出来ないと思ってたっス。どうやって他の国から食材を調達してるんス?」
「その辺は俺も協力させてもらっててな。昔は行商人がはるばる他国まで干し肉やら家畜やら香辛料やら何やら……この土地で採れないものは全て他国との商売で調達してたもんだが、ここしばらくは俺が一気に大量の荷物を運べる自律飛行型コンテナを開発したんだ。失敗して途中でコンテナをロストすることもあるが、まあこの国の人の腹と舌を満たすほどの物は運べるようになったさ。あとはもうちょい飛行に使う金属パーツや素材類をもっと改良出来りゃあなあ……あと、何より他所の食材を売ってくれるトコとの交渉だな。商売人はどうにも少なくて……」
「おっとお。そこでビジネスッスね? 今はあまり長く居られるかわかんないッスけど……いずれ纏まった期間があればウチがパーツ類の鋳造に協力するっスよ! もちろん低コストでこのうんまい飯を作れるだけの取引も!!」
「マジか。イロハの嬢ちゃん、鍛冶錬金術師に商売人、だったか? はは、こりゃうってつけだな! 近い将来アテにさせてもらうぜ!」
「うっす! まさかここに来て早速ビジネスチャンスに出会えると思わんかったっス! まあ、無ければチャンスを作ればええんやの精神でいるっスけどね。にひひひ~っ」
イロハは、目の前の塩気の利いたラーメンのような麵料理をはじめ、豪勢な脂も香辛料も乗った肉料理、老酒を思わせる旨酒、大きくて甘みの強い瓜などの果物類、肉野菜を煮込み具材を丼にしたものなど、現代の地球で例えるとややアジアンテイストな御馳走を睥睨し、ここでもビジネスチャンスを掴むべく豪快な笑みを浮かべた。
どうやら、タイラーが協力しているこの飲食店はニルヴァ市国でも人気があるらしい。飯時になると腹を空かせた住民や修行者などが大勢入店してくる。
タイラーも本当は全員をひとつのテーブルで囲みたかったところだが、やや混雑した店内ではそうもいかず、カウンター席でイロハと食べる。そして食べるうちにすかさずイロハはビジネスチャンスを見出し始めた。
――そんな、平和的なビジネスにも手を差し伸べる良心的な協力者とはいえ、ガイやセリーナのように過去の辛苦から邪険にしてしまう者もいる。ガイたちは少し離れたラウンドテーブルで同じ御馳走を我先にと食べているが……案外、タイラーと離れた席で正解だったのかもしれない。ガイもセリーナも、もちろんエリーも、タイラーを気にせずいつもの通りワシワシッ、と物凄い勢いで飯を平らげていく。
「――うーまうんまあ~!! ここでも美味い飯にありつけるなんて……山登って来た甲斐があった~♪ てか、シャンバリアの街のレストランより美味くない。これら!?」
エリーも予想以上に美味しい料理に恵比須顔。旨酒も手伝って顔は赤みを帯びた良い色になってきている。
「ここニルヴァ市国は知っての通り高山地帯にある国ですので、採れる作物や家畜も限りがあったのですが、元々ガラテアの研究者であったタイラーは軍を抜けた後、こういった都会からは外れた土地での産業や福祉、食育などに力を尽くしたいと前々から密かに言っていました。どうやら豊富な食材やレシピ情報などの類いも効率良く仕入れる術をこの国にもたらしているようです。国中の住民からも感謝されることが多いようです。」
「……ふん。それでガラテアでの所業の罪滅ぼしのつもりか? まあ……せっかくの馳走と寝床は、貰っておいてやるがな……」
テイテツの解説を聞いて、訝るような態度を取るセリーナだが、やはり彼女も旨酒が回って顔が赤い。過去の怨恨はともかく、今この時の内心は快い気分のはずだ。
「施される身で文句言っててもしゃあないぜ。最初に会った時に言った通り……精々、飯も寝床もサービスしてもらおうぜ。どうせ贖いようも無い罪。タダ飯とタダ酒、タダ寝床で多少は勘弁してやろうかね…………俺たちゃシャンバリアの街で荒稼ぎしたからむしろこっちが後ろめたい気も……まあ、少しはすっけどな……」
あれほど険しい態度をしてタイラーに背を向けてさえいたガイだが、美味い食事と酒のサービスに、やはり今この瞬間は良い気分なのだった。人間は各々の禍根によって平生から自分や他人に厳しい態度を取ってしまいがちだが、案外、たまにありつける質の良い食事で幸福を感じるような単純さもあるのかもしれない。人間の本能ゆえだろうか。
「――――ここの食事たちは…………何だか『生きている』みたい…………普通、植物も動物も食料になっちゃったら死んだも同然だけれど……ここの糧たちは、何だろう。料理されているのにまるで『生きている』みたいに清々しいエネルギーに満ちているよ……」
グロウも、食事を頬張りつつも、ふと、いつものスピリチュアルな感性から、ここの食事を『生きている』と評する。
「『生きている』食事ですか……あながち、間違いではありませんね。ここに調達される食材はタイラーの計らいで、可能な限り有機農業によってもたらされたものを用いています。大変、手塩にかけ、時間と手間を惜しまずに添加物や農薬なども極力用いず、食材を『活かす』ようにしているはずです。もっとも、それを可能にしているのはこの国がまだ人口が少ないことと、有機農業を行なう環境や精神性が比較的豊かなこともありますが」
「有機農業かあ…………また教科書で読んでおこうっと……」
何度も記した通り、ニルヴァ市国は比較的有名な国で、歴史もある程度古いのだが……高山地帯に国を築いただけあって、いわゆる大都会とはかけ離れた精神性を以て生活をしている。
それは、自然のサイクルに逆らわず、乱さず、汚さず…………ある程度文明の利器を用いるのは良しとしつつも、そういった自然環境に配慮し、関わるあらゆる存在からの利益を有難く受け取る、極めて清貧として牧歌的な在り方を尊重する民が多い。その賜物なのだろう。シャンバリアの街や人工的に結果のみ、形だけの成果のみを優先するガラテア帝国とは対極にある、大地からの恵みを尊ぶ精神性であった。
「おい。弟分がまた先に自ら勉強進めちまうぞ。おめえは良いのかよ、エリー『お姉ちゃん』よ。」
「うっ……いいじゃん、いいじゃん~っ!! ここへは……グロウのことを調べてもらうのと、あたしらの修行の為に来たんだし、教科書の勉強ぐらい――――」
「――知見を深めることは、ただ漫然と身体を鍛えることよりも遙かに効率の良い自己鍛錬に繋がります。温故知新。案外、当たり前のような教科書から得られる知識も強さへの近道になるかもしれません。」
珍しく、テイテツも学を深めることを薦めてくる。
「――うぅ~っ……わーかったわよお~!! 勉学にも励みます! あたしはッ!! でも、今は美味い飯と酒たんまり食わしてよ~……むぐぐぐ――」
いつしかグロウにさえ勉学で遅れを取ってしまったエリー。このニルヴァ市国での滞在中の修行を兼ねて、改めて勉学にも励むことを宣言した。しかし、そんな苦い思いに目を向けるよりはまずは飯。
それでこそエリーらしい……と、実はどこか安堵しているガイの気持ちもあるにはあった。普段はエリーの苦手なことに対して厳しく教えようとする彼だが、エリーの、たとえ賢くなくても彼女らしい天真爛漫な快活さに多くを救われているのだ。
学は付けて欲しいが、そんな元気で伸び伸びとしたエリーを深く愛しているガイの温かな表情が、旨酒の入った盃に映し出されていた。そして、そんな顔を悟られる前にまた一口飲んでいった――――
<<
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「――ん……んんっ…………」
――翌朝。
グロウは1人、宿の一室で目を覚ました。
(――疲れたけど昨日は、楽しかったなあ…………今日からタイラーさんのところで検査だ…………)
いよいよ、己の存在は何なのかを明らかにすべく、相応しき場所へ出掛ける。
グロウの面に、不安が表れる。果たして自分は何者なのだろう。
もしも、多くの人も生命も危機に陥れるような危険な存在だったら――――そう意識すると、自分の力や意志への恐怖がとめどなく湧いてきてしまう。
――そこへふと、部屋のドアをノックする音がした。
「グロウ、起きていますか?」
穏やかでやや無機的な声。テイテツだ。
「あ……うん。起きてるよ。」
「おはようございます」
挨拶しながら、テイテツはドアを開けて、グロウに声を掛ける。
「知っての通りですが……今日からタイラーの研究施設であらゆることを検査します。一応確認の為言っておきますが…………これは人体実験の類いのものではなく、グロウに秘められた能力の仕組みや、その血統が何処から来ているものなのか。本当に人間ではないのか。それらを明らかにすべく行なう試みです。断じて苦痛を味わわせたり、非人道的な研究方法ではないと明言しておきます。どうか、安心をして…………取り敢えず、着替えて朝食にしましょう。」
「――うん。すぐ行くよ…………テイテツも、研究に立ち会うんだよね?」
「もちろんです。タイラーには研究設備を活かした補助役……むしろメインとなってグロウのことを調べるのは私の役目です。」
「わかった。それなら…………きっと大丈夫だよね。じゃあ、すぐ朝ごはん食べに行くから。」
「了解です。お待ちしております。」
そう告げて、テイテツは静かにドアを閉めた。
「――せいっ!!」
「そりゃあっ!!」
――例によって、早起きして食事もある程度済ませたエリーたちの朝稽古の掛け声が、窓から日光と共に入り込んできている。実に心地の良い朝だ。
「――――よし。行こう――――」
グロウは既に何度も心に命じていたが、改めて覚悟を決め、いつもの旅装束に着替えた――――
――――一方で、グロウの部屋から離れたばかりのテイテツは1人何かを訝しんでいた。
(――? 何だ…………グロウの部屋に入った時のこの違和感は…………? グロウ自体は特別変化は見られないが……でも何かがいつもと違う――――?)
奇妙な違和感を覚えながらも、テイテツはいつも通りその違和感も端末に子細に記録し、昨夜と同じ飲食店に向かった――――
空はもう夕暮れ。険しい山登りの疲れを癒す為、ひと際がっついて一行は食事を摂る。
「――ふはーっ!! ここの飯、美味いっスねえ~っ!! 言っちゃあなんスけど、こんな高山地帯にこんな美味い飯を作れる食材は調達出来ないと思ってたっス。どうやって他の国から食材を調達してるんス?」
「その辺は俺も協力させてもらっててな。昔は行商人がはるばる他国まで干し肉やら家畜やら香辛料やら何やら……この土地で採れないものは全て他国との商売で調達してたもんだが、ここしばらくは俺が一気に大量の荷物を運べる自律飛行型コンテナを開発したんだ。失敗して途中でコンテナをロストすることもあるが、まあこの国の人の腹と舌を満たすほどの物は運べるようになったさ。あとはもうちょい飛行に使う金属パーツや素材類をもっと改良出来りゃあなあ……あと、何より他所の食材を売ってくれるトコとの交渉だな。商売人はどうにも少なくて……」
「おっとお。そこでビジネスッスね? 今はあまり長く居られるかわかんないッスけど……いずれ纏まった期間があればウチがパーツ類の鋳造に協力するっスよ! もちろん低コストでこのうんまい飯を作れるだけの取引も!!」
「マジか。イロハの嬢ちゃん、鍛冶錬金術師に商売人、だったか? はは、こりゃうってつけだな! 近い将来アテにさせてもらうぜ!」
「うっす! まさかここに来て早速ビジネスチャンスに出会えると思わんかったっス! まあ、無ければチャンスを作ればええんやの精神でいるっスけどね。にひひひ~っ」
イロハは、目の前の塩気の利いたラーメンのような麵料理をはじめ、豪勢な脂も香辛料も乗った肉料理、老酒を思わせる旨酒、大きくて甘みの強い瓜などの果物類、肉野菜を煮込み具材を丼にしたものなど、現代の地球で例えるとややアジアンテイストな御馳走を睥睨し、ここでもビジネスチャンスを掴むべく豪快な笑みを浮かべた。
どうやら、タイラーが協力しているこの飲食店はニルヴァ市国でも人気があるらしい。飯時になると腹を空かせた住民や修行者などが大勢入店してくる。
タイラーも本当は全員をひとつのテーブルで囲みたかったところだが、やや混雑した店内ではそうもいかず、カウンター席でイロハと食べる。そして食べるうちにすかさずイロハはビジネスチャンスを見出し始めた。
――そんな、平和的なビジネスにも手を差し伸べる良心的な協力者とはいえ、ガイやセリーナのように過去の辛苦から邪険にしてしまう者もいる。ガイたちは少し離れたラウンドテーブルで同じ御馳走を我先にと食べているが……案外、タイラーと離れた席で正解だったのかもしれない。ガイもセリーナも、もちろんエリーも、タイラーを気にせずいつもの通りワシワシッ、と物凄い勢いで飯を平らげていく。
「――うーまうんまあ~!! ここでも美味い飯にありつけるなんて……山登って来た甲斐があった~♪ てか、シャンバリアの街のレストランより美味くない。これら!?」
エリーも予想以上に美味しい料理に恵比須顔。旨酒も手伝って顔は赤みを帯びた良い色になってきている。
「ここニルヴァ市国は知っての通り高山地帯にある国ですので、採れる作物や家畜も限りがあったのですが、元々ガラテアの研究者であったタイラーは軍を抜けた後、こういった都会からは外れた土地での産業や福祉、食育などに力を尽くしたいと前々から密かに言っていました。どうやら豊富な食材やレシピ情報などの類いも効率良く仕入れる術をこの国にもたらしているようです。国中の住民からも感謝されることが多いようです。」
「……ふん。それでガラテアでの所業の罪滅ぼしのつもりか? まあ……せっかくの馳走と寝床は、貰っておいてやるがな……」
テイテツの解説を聞いて、訝るような態度を取るセリーナだが、やはり彼女も旨酒が回って顔が赤い。過去の怨恨はともかく、今この時の内心は快い気分のはずだ。
「施される身で文句言っててもしゃあないぜ。最初に会った時に言った通り……精々、飯も寝床もサービスしてもらおうぜ。どうせ贖いようも無い罪。タダ飯とタダ酒、タダ寝床で多少は勘弁してやろうかね…………俺たちゃシャンバリアの街で荒稼ぎしたからむしろこっちが後ろめたい気も……まあ、少しはすっけどな……」
あれほど険しい態度をしてタイラーに背を向けてさえいたガイだが、美味い食事と酒のサービスに、やはり今この瞬間は良い気分なのだった。人間は各々の禍根によって平生から自分や他人に厳しい態度を取ってしまいがちだが、案外、たまにありつける質の良い食事で幸福を感じるような単純さもあるのかもしれない。人間の本能ゆえだろうか。
「――――ここの食事たちは…………何だか『生きている』みたい…………普通、植物も動物も食料になっちゃったら死んだも同然だけれど……ここの糧たちは、何だろう。料理されているのにまるで『生きている』みたいに清々しいエネルギーに満ちているよ……」
グロウも、食事を頬張りつつも、ふと、いつものスピリチュアルな感性から、ここの食事を『生きている』と評する。
「『生きている』食事ですか……あながち、間違いではありませんね。ここに調達される食材はタイラーの計らいで、可能な限り有機農業によってもたらされたものを用いています。大変、手塩にかけ、時間と手間を惜しまずに添加物や農薬なども極力用いず、食材を『活かす』ようにしているはずです。もっとも、それを可能にしているのはこの国がまだ人口が少ないことと、有機農業を行なう環境や精神性が比較的豊かなこともありますが」
「有機農業かあ…………また教科書で読んでおこうっと……」
何度も記した通り、ニルヴァ市国は比較的有名な国で、歴史もある程度古いのだが……高山地帯に国を築いただけあって、いわゆる大都会とはかけ離れた精神性を以て生活をしている。
それは、自然のサイクルに逆らわず、乱さず、汚さず…………ある程度文明の利器を用いるのは良しとしつつも、そういった自然環境に配慮し、関わるあらゆる存在からの利益を有難く受け取る、極めて清貧として牧歌的な在り方を尊重する民が多い。その賜物なのだろう。シャンバリアの街や人工的に結果のみ、形だけの成果のみを優先するガラテア帝国とは対極にある、大地からの恵みを尊ぶ精神性であった。
「おい。弟分がまた先に自ら勉強進めちまうぞ。おめえは良いのかよ、エリー『お姉ちゃん』よ。」
「うっ……いいじゃん、いいじゃん~っ!! ここへは……グロウのことを調べてもらうのと、あたしらの修行の為に来たんだし、教科書の勉強ぐらい――――」
「――知見を深めることは、ただ漫然と身体を鍛えることよりも遙かに効率の良い自己鍛錬に繋がります。温故知新。案外、当たり前のような教科書から得られる知識も強さへの近道になるかもしれません。」
珍しく、テイテツも学を深めることを薦めてくる。
「――うぅ~っ……わーかったわよお~!! 勉学にも励みます! あたしはッ!! でも、今は美味い飯と酒たんまり食わしてよ~……むぐぐぐ――」
いつしかグロウにさえ勉学で遅れを取ってしまったエリー。このニルヴァ市国での滞在中の修行を兼ねて、改めて勉学にも励むことを宣言した。しかし、そんな苦い思いに目を向けるよりはまずは飯。
それでこそエリーらしい……と、実はどこか安堵しているガイの気持ちもあるにはあった。普段はエリーの苦手なことに対して厳しく教えようとする彼だが、エリーの、たとえ賢くなくても彼女らしい天真爛漫な快活さに多くを救われているのだ。
学は付けて欲しいが、そんな元気で伸び伸びとしたエリーを深く愛しているガイの温かな表情が、旨酒の入った盃に映し出されていた。そして、そんな顔を悟られる前にまた一口飲んでいった――――
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「――ん……んんっ…………」
――翌朝。
グロウは1人、宿の一室で目を覚ました。
(――疲れたけど昨日は、楽しかったなあ…………今日からタイラーさんのところで検査だ…………)
いよいよ、己の存在は何なのかを明らかにすべく、相応しき場所へ出掛ける。
グロウの面に、不安が表れる。果たして自分は何者なのだろう。
もしも、多くの人も生命も危機に陥れるような危険な存在だったら――――そう意識すると、自分の力や意志への恐怖がとめどなく湧いてきてしまう。
――そこへふと、部屋のドアをノックする音がした。
「グロウ、起きていますか?」
穏やかでやや無機的な声。テイテツだ。
「あ……うん。起きてるよ。」
「おはようございます」
挨拶しながら、テイテツはドアを開けて、グロウに声を掛ける。
「知っての通りですが……今日からタイラーの研究施設であらゆることを検査します。一応確認の為言っておきますが…………これは人体実験の類いのものではなく、グロウに秘められた能力の仕組みや、その血統が何処から来ているものなのか。本当に人間ではないのか。それらを明らかにすべく行なう試みです。断じて苦痛を味わわせたり、非人道的な研究方法ではないと明言しておきます。どうか、安心をして…………取り敢えず、着替えて朝食にしましょう。」
「――うん。すぐ行くよ…………テイテツも、研究に立ち会うんだよね?」
「もちろんです。タイラーには研究設備を活かした補助役……むしろメインとなってグロウのことを調べるのは私の役目です。」
「わかった。それなら…………きっと大丈夫だよね。じゃあ、すぐ朝ごはん食べに行くから。」
「了解です。お待ちしております。」
そう告げて、テイテツは静かにドアを閉めた。
「――せいっ!!」
「そりゃあっ!!」
――例によって、早起きして食事もある程度済ませたエリーたちの朝稽古の掛け声が、窓から日光と共に入り込んできている。実に心地の良い朝だ。
「――――よし。行こう――――」
グロウは既に何度も心に命じていたが、改めて覚悟を決め、いつもの旅装束に着替えた――――
――――一方で、グロウの部屋から離れたばかりのテイテツは1人何かを訝しんでいた。
(――? 何だ…………グロウの部屋に入った時のこの違和感は…………? グロウ自体は特別変化は見られないが……でも何かがいつもと違う――――?)
奇妙な違和感を覚えながらも、テイテツはいつも通りその違和感も端末に子細に記録し、昨夜と同じ飲食店に向かった――――
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