40 / 92
第二節「血を吸う鬼の最愛」
SCENE-039 蜜のように甘く、毒のように体を蝕む
しおりを挟む喜びと感謝。
言葉にしてしまえば、たったそれだけのものなのに。キリエが受け取った伊月の感情は徒人らしい、何千年と生きているような人外には到底抱くことのできない複雑さで、キリエの頭をくらりとさせた。
伊月に牙を捧げた吸血鬼の魔力が伊月を酔わせるように、伊月の感情がキリエを酔わせ。伊月の魔力とともに差し出された感情を、キリエは舌の上で転がすよう、丹念に味わった。
(こんなに喜ばれたら、もっとしてあげたくなる……)
伊月のことをもっと喜ばせて。他の誰もキリエに与えることのできない幸福を、もっと与えられたいと。
欲深いことを考えたキリエの胸の内を見透かしたように、伊月が離れていく。
どちらのものともつかない唾液で濡れた唇を、真っ赤な舌がぺろりと舐めて。
カウチにすっかり体を預けたキリエのことを見下ろす伊月の目は、充分な愛情を注がれ、そのことを自覚してもいる女しか持ち得ない自信と自己肯定感に満ちあふれていた。
「持ち歩けるように〝鞘〟も欲しい」
もとよりキリエに、伊月の望みを拒むつもりなどありはしないが。
伊月の望みだからという以上に、今だけは自分の欲望を優先して。
伊月がくれる褒美欲しさに、キリエは魔力を練り上げた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる