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第一節「レナトゥスの目覚め」
SCENE-010 ティル・ナ・ノーグへ
しおりを挟む「(ドラクレアとはなんの繋がりもないって言ったのに)」
空気の存在しない亜空間の中で口を開いたところで、伊月の声が音として鏡夜に伝わることはない。
だから喉を震わせる代わりに、自分自身の魔力へ思念を乗せた伊月の念話。
言葉よりよほど雄弁にその内心を伝えてくる甘美な魔力を、鏡夜は味わうように咀嚼した。
「(あの時点ではね)」
悪びれることなく答えた鏡夜を、伊月も咎めはしない。
伊月の不利益になるようなことを、鏡夜がするはずはないのだと。そう高をくくった伊月の態度。
念話のために結ばれた繋がりからおぼろげに伝わってくる手放しの信用が、鏡夜と鏡夜の本霊であり、〝八坂鏡夜〟とは意識を異にしているヴラディスラウス・ドラクレアにとっては、目眩がするほど幸福だった。
一度味わってしまえば、失うことなど耐えられそうにない。
「(君が会いたがってた〝キリエ〟のところに、僕が連れて行ってあげる)」
「(えっ?)」
影の中へと飛び込んだ拍子に距離の離れていた伊月の体を、もう一度しっかりと抱き寄せて。分霊の一人として、ヴラディスラウス・ドラクレア本霊と意識の一部を共有している鏡夜は、ドラクレアが掌握している亜空間から伊月を連れ出した。
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