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第二章 知識チート

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「もう~ッ、いったい何だって言うんですか、ケンジさんッ!!」
 
 ベアリスがぽかぽかと俺の胸を叩く。全然痛くはない。むしろ可愛い。
 
 この可愛い女の子がついさっきまで「ち〇こ」「マ〇コ」って連呼してたんだよなあ……さっきは音声しか聞こえない状態だったけど。
 
 今にして思えばスマホ持ってたんだからレコーダーで音声録音しておくんだった。
 
「あと一歩で魔王を倒せたっていうのになんでチェンジしちゃったんですか、舐めプですか!? 魔王は本当に恐ろしい奴なんですよ!!」
 
 そんなこと言われてもなあ……
 
「マ〇コを舐めてるんですか!!」
 
 そういうところだぞホント。
 
「はぁ……ま、過ぎたこと言っても仕方ないです、切り替えていきましょう」
 
 結局俺はまた白亜の神殿に戻ってきた。仕方ない。まだ十七歳の少年があんな手厳しいセクハラ受けてどうしろというのか。
 
 神殿には似つかわしくない事務机が置かれており、その上には大量の資料が重ねられている。なんか、前に来た時より増えてないか? 女神への嘆願ってそんなに大量に来るもんなの?
 
 ベアリスはその内の一つの束を手に取ると、近くにある大きくて柔らかそうな一人掛けのソファにボスンと腰かける。
 
 体の小さいベアリスが深く腰掛けると体全体がソファに飲み込まれたようになる。
 
 ついさっきまで俺より背の高いイーリヤと一緒にいたから余計に小さく感じる。彼女とは全く違うタイプだけど、やっぱり可愛いんだよなあ、ベアリスも。これでもうちょっと常識があればいいんだけど。
 
「結局さっきの異世界の何が気に食わなかったのか分かんないんですよねぇ……」
 
 資料をパラパラとめくりながらベアリスが呟く。
 
 そう言われてもな。俺もどう言ったらいいものか。さっきのアレに文句を言おうとすると何をどうやっても下ネタになっちゃいそうだし。俺下ネタ嫌いなんだよね。
 
「もうちょっと簡単な異世界の方がいいんですかねぇ……」
 
 だから「簡単な異世界」とか「初心者向けの異世界」とかいったい何なの? 異世界の人に失礼じゃない?
 
「あ、そういえばさ、一つ気になったんだけど、広間でベアリスの名前出した時誰も知らなかったんだけど? お前本当に女神なんだよな? なんかいろいろ怪しい発言するし、俺はまずそこから疑ってるんだけど?」
 
 正直言ってずっと気になっていたことだ。なんか人の事「死んでラッキー」とか発言するし、かなり怪しいと俺は思ってる。最悪邪神じゃないのかと思ってる。
ベアリスは資料に目を通しながら返事をする。
 
「ん~、私ね、まだ女神になって日が浅いんですよ。だからこそ早いとこ異世界を救って実績解除して知名度を上げたいんですけど……ケンジさんが真面目にやってくれないから」
 
 実績解除ってどういうこと? なんか人の人生をゲーム感覚で話しててムカつくんだよなコイツ。
 
「しかしまあ実際まだ若い神様だったんだな。確かに年齢も相当若く見えるしな」
 
「え? そんなに若く見えます? んふふふ、私何歳に見えますか?」
 
 うぜえ、場末のキャバ嬢かよ。こんな話振るんじゃなかった。
 しかし腐っても神様だからな。まだ子供に見えるけど実際は何百歳とか何千歳とか言うんだろうか?
 
「見た感じは、十四、五歳にしか見えないけど……?」
 
「えへへ~……やっぱり人間から見ると神族って若く見えちゃうんですねぇ」
 
 そう言ってベアリスははにかみながら頭をぽりぽりと掻く。くそっ、可愛いな。イラっと来るけど。イラ可愛いな。
 
「実は私こう見えても十六歳なんですよ。えへへ、そんなに若く見えちゃうのか~」
「たいして変わんねえよ! 誤差だよ!! ってゆうか俺より年下だったのかよお前!!」
 
 という事は最速で神様はじめてもまだ十六年って事か。そりゃ誰も知らねーわけだわ。スパゲティモンスター教より歴史浅いじゃねーか。
 
「あ……」
 
 資料を見ていたベアリスが声を上げる。なんだ? なんか見つけたのか?
 
「もしかして、お探しのものはこ~れ~か~な~?」
 
 そう言いながら紙の束から一枚だけ上にずらして、さらにその上から目だけを覗かせ、ニヤニヤしながらこっちを見ている。
 
 くそっ、何やらせても可愛いな。死ね。
 
「ああ~、これ私凄い異世界見つけちゃったかもしれないですね。理想の異世界ですよ!」
 
 理想の異世界だったら女神に救いの嘆願なんかしねーよ。
 
「私やっぱり天才ですね。女神の才能に恵まれてるかもしれないです。これは凄いですよ」
 
 女神の才能っていったいなんだ? それはともかく……
 
「なあ、一体どんな異世界なんだ? 教えてくれよ」
 
「ええ~、教えたら実際に行った時の楽しみが亡くなっちゃうじゃないですかぁ」
 
 そんなサプライズいらねえんだよ。なんでもいいから教えてくれよ。俺だって出来る事ならそう何度もチェンジなんてしたくねえんだよ。
 
「ええっとぉ……世界の名前は、特にありませんね。現地の人達は『ネオリシク』って呼んでるみたいですけど、これは現地の言葉で『世界』って意味ですね」
 
 まあなるほどな。現代日本みたいに自分達の住んでいるところ以外にも世界が広がってるって知らなければわざわざ唯一無二の自分の世界に名前なんかつけないもんな。
 
 でもまあ世界の名前なんかはどうでもいいんだわ。現地の言葉で「東京外為市場」とかじゃないかぎり。それよりその世界の文化とか習慣とかはどうなってんだろ?
 
「文化……ですかぁ?」
 
 バサバサとベアリスが激しく資料をめくる。実際人間が同じように生きてる世界なら今までとそう大きな違いなんてないのかもしれないけど、俺日本以外に出たことないから不安なんだよな。
 
 初めて行った海外が異世界とか大概だよな。
 
「文明的には、ケンジさんが元々いた世界の過去の時代に似てる感じですかねぇ? 複数の過去の時代の文明をなぞってるような感じでしょうか」
 
 なるほどなるほど、前回の中世ヨーロッパみたいなもんか? 古代ローマとかもあるかもしれないけど。あんまり古い時代だと文化が違い過ぎていやだよなあ。
 
「人々の性格は穏やかで、共助の考え方が強く、皆で助け合って幸せに暮らしてる世界ですね。一応王族とかもいますけど、身分や貧富の差はそんなに大きくないです」
 
 マジかよ、かなりいい世界じゃん。
 
「あんまり戦争が得意じゃなくて、魔法も武器も発達はしてないです。ここならきっとケンジさんも無双できますよ!」
 
 ん~、その情報はあまり重要じゃないかな。前回の世界でも俺結構無双してたからな。
 
「ですが、最近急に力をつけてきた魔族に押されて、侵略されつつある可哀そうな世界なんですよ。みんなで穏やかに暮らしてたのに……ぐすん」
 
 わざとらしくベアリスが涙ぐんで鼻をすする。わざとらしいけど可愛い。
 
「よお~し、やったろうじゃねえか! 俺がぱぱっと問題解決してやるぜ!!」
 
「えらいっ! それでこそ勇者です!! じゃあいきますよ!!」
 
 ベアリスがガッツポーズをして喜ぶ。我ながら、俺も結構チョロい奴だな。
 
「おりゃあ!」
 
 俺は、光に包まれた。
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