50 / 111
48. セーフとかセーフじゃないとか
しおりを挟む
次の日、あたしは思考停止状態のまますっきり爽やかに目覚めた。珍しく髪型も一人で綺麗に決まって、朝ご飯もちゃんと食べて学校へ向かう。
一限、二限を特に問題なくこなし、三限目の数学でぼんやり黒板を眺めているとき、ポケットの中でスマホが震えた。
机の下で確認すると環からのメッセージだった。
『今日は学校に来ている。放課後、部室に顔を出せ。よろしく、おねえさま』
おねえさま、という文字を目にした瞬間、止まっていた頭が唐突に再起動した。
「……というわけで、問い5はこの公式を用いて……」
「ちょっと待って!!??」
思いっきり大声を上げて飛び上がったあたしに、教室中の視線が集中した。黒板を向いていた先生が一拍遅れて振り返る。
「どうした~雲竜。説明分かりにくかったか~? もう一度説明するか?」
「へっ!? あっ、い、いえ、大丈夫です、す、すごくよく分かりました! ハハハ……」
慌ててごまかしながらも、長時間停止後に動き出した頭の中は大パニックだ。
ごちゃごちゃしていてはっきりと分からないけど、昨日の夜、とんでもないことが起きた気がする。
あたしは胸を押さえて深呼吸した。
「落ち着け……。落ち着いて、ゆっくり思い返してみよう」
昨日は確か、蓮司さんとの結婚の話で朱虎と言い合いになったんだ。
膝に馬乗りになって胸ぐら掴んで怒鳴って、焦げ臭い匂いがして、朱虎が煙草の火を消そうと立ち上がりかけたせいでバランスを崩して、それで……
「んなああああっ!!!」
唇に走った衝撃を思い出して、思わず奇声が漏れた。ハッと顔を上げると、またしても教室中の視線がこっちを向いている。
先生が片眉を上げて黒板をコツコツと叩いた。
「雲竜どうした~? 腹でも痛いのなら、無理するなよ~」
「はっ、い、いえ、元気です! ちょっと分からない問題があって気合入れてまして!」
「ほお~、熱心だな雲竜。補習の成果か? でも、もう少し静かに考えような~」
「は、はい、すみません……」
先生を何とかやり過ごすと、あたしはさっきより深く深呼吸した。
待て待て、ほんとに落ち着けあたし。
確かに、弾みとはいえ朱虎とあたしの唇が触れたのは事実だ。だけど一瞬だし、触れたと言うかぶつかったと言った方が正しい。
あれはキスじゃない、朱虎も全然違うって言ってた。確かに、朱虎が教えてくれた「ちゃんとしたキス」とは全然違うもので……。
熱くて柔らかな感触が、さっきより格段にはっきりと唇に蘇った。
『お嬢のファーストキスはまだ未遂です。いいですね?』
「いやいやいやよくないって!? おかしくないその理屈!?」
あたしは机にズダンッ! と拳を叩きつけた。
「ちゃんとしたキス」を教えてもらってる時点であたしのファーストキスはアウトなのでは!?
唇がぶつかったのはギリノーカンでも、その後「ちゃんとしたキス」をガッツリしてしまっているのでは!?
「それともあれは教えただけだから本番じゃない、ノーカンってこと!?」
「おーい、雲竜~」
「いやでも、こういうことにノーカンとかあるの!? そういうもんなの!?」
「雲竜~、聞こえてるか~?」
「わっ、分からない……! コレって誰かに聞いていいものなの!? でも誰に聞けばいいの!?」
「そういう時は先生に聞け~」
「うわっ!?」
ハッと顔を上げると目の前に先生が立っていた。
「いや~、本当に熱心だな~雲竜。でもちょ~っと声が大きすぎるな」
「はっ、はい、スミマセン」
縮こまるあたしに、先生はにっこり笑った。
「雲竜が数学にそんなに熱心に取り組むようになって俺も嬉しいよ~。大丈夫だぞ~、どうしてもわからない問題は、放課後にマンツーマンできっちり教えてやるからな~」
「ひぇっ……け、結構です! ちゃんと家でやってきますからっ……」
「遠慮するな~はっはっは。授業が終わったら教室でまってなさい」
まさかの地獄再来。
あたしの頭がまたズキズキと痛み始めた。
「……もしもし。ああ、獅子神さんですね。突然のご連絡失礼いたします。……そちらは大変なことになっていますね。大丈夫ですか? ……なるほど、安全な場所に隠れていらっしゃると。それは良かった。……実は、オヤジが獅子神さんのことを大変心配しておりまして、宜しければ今夜お会いしたいと。……はい、自分の目で獅子神さんが無事な姿を確認したいようです。オヤジはあの身体ですから、ご足労頂ければと……申し訳ありません。……ええ。……分かりました、では自分がその場所へお迎えに上がります。……はい、では後ほど」
一限、二限を特に問題なくこなし、三限目の数学でぼんやり黒板を眺めているとき、ポケットの中でスマホが震えた。
机の下で確認すると環からのメッセージだった。
『今日は学校に来ている。放課後、部室に顔を出せ。よろしく、おねえさま』
おねえさま、という文字を目にした瞬間、止まっていた頭が唐突に再起動した。
「……というわけで、問い5はこの公式を用いて……」
「ちょっと待って!!??」
思いっきり大声を上げて飛び上がったあたしに、教室中の視線が集中した。黒板を向いていた先生が一拍遅れて振り返る。
「どうした~雲竜。説明分かりにくかったか~? もう一度説明するか?」
「へっ!? あっ、い、いえ、大丈夫です、す、すごくよく分かりました! ハハハ……」
慌ててごまかしながらも、長時間停止後に動き出した頭の中は大パニックだ。
ごちゃごちゃしていてはっきりと分からないけど、昨日の夜、とんでもないことが起きた気がする。
あたしは胸を押さえて深呼吸した。
「落ち着け……。落ち着いて、ゆっくり思い返してみよう」
昨日は確か、蓮司さんとの結婚の話で朱虎と言い合いになったんだ。
膝に馬乗りになって胸ぐら掴んで怒鳴って、焦げ臭い匂いがして、朱虎が煙草の火を消そうと立ち上がりかけたせいでバランスを崩して、それで……
「んなああああっ!!!」
唇に走った衝撃を思い出して、思わず奇声が漏れた。ハッと顔を上げると、またしても教室中の視線がこっちを向いている。
先生が片眉を上げて黒板をコツコツと叩いた。
「雲竜どうした~? 腹でも痛いのなら、無理するなよ~」
「はっ、い、いえ、元気です! ちょっと分からない問題があって気合入れてまして!」
「ほお~、熱心だな雲竜。補習の成果か? でも、もう少し静かに考えような~」
「は、はい、すみません……」
先生を何とかやり過ごすと、あたしはさっきより深く深呼吸した。
待て待て、ほんとに落ち着けあたし。
確かに、弾みとはいえ朱虎とあたしの唇が触れたのは事実だ。だけど一瞬だし、触れたと言うかぶつかったと言った方が正しい。
あれはキスじゃない、朱虎も全然違うって言ってた。確かに、朱虎が教えてくれた「ちゃんとしたキス」とは全然違うもので……。
熱くて柔らかな感触が、さっきより格段にはっきりと唇に蘇った。
『お嬢のファーストキスはまだ未遂です。いいですね?』
「いやいやいやよくないって!? おかしくないその理屈!?」
あたしは机にズダンッ! と拳を叩きつけた。
「ちゃんとしたキス」を教えてもらってる時点であたしのファーストキスはアウトなのでは!?
唇がぶつかったのはギリノーカンでも、その後「ちゃんとしたキス」をガッツリしてしまっているのでは!?
「それともあれは教えただけだから本番じゃない、ノーカンってこと!?」
「おーい、雲竜~」
「いやでも、こういうことにノーカンとかあるの!? そういうもんなの!?」
「雲竜~、聞こえてるか~?」
「わっ、分からない……! コレって誰かに聞いていいものなの!? でも誰に聞けばいいの!?」
「そういう時は先生に聞け~」
「うわっ!?」
ハッと顔を上げると目の前に先生が立っていた。
「いや~、本当に熱心だな~雲竜。でもちょ~っと声が大きすぎるな」
「はっ、はい、スミマセン」
縮こまるあたしに、先生はにっこり笑った。
「雲竜が数学にそんなに熱心に取り組むようになって俺も嬉しいよ~。大丈夫だぞ~、どうしてもわからない問題は、放課後にマンツーマンできっちり教えてやるからな~」
「ひぇっ……け、結構です! ちゃんと家でやってきますからっ……」
「遠慮するな~はっはっは。授業が終わったら教室でまってなさい」
まさかの地獄再来。
あたしの頭がまたズキズキと痛み始めた。
「……もしもし。ああ、獅子神さんですね。突然のご連絡失礼いたします。……そちらは大変なことになっていますね。大丈夫ですか? ……なるほど、安全な場所に隠れていらっしゃると。それは良かった。……実は、オヤジが獅子神さんのことを大変心配しておりまして、宜しければ今夜お会いしたいと。……はい、自分の目で獅子神さんが無事な姿を確認したいようです。オヤジはあの身体ですから、ご足労頂ければと……申し訳ありません。……ええ。……分かりました、では自分がその場所へお迎えに上がります。……はい、では後ほど」
0
あなたにおすすめの小説
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる