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48. セーフとかセーフじゃないとか
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次の日、あたしは思考停止状態のまますっきり爽やかに目覚めた。珍しく髪型も一人で綺麗に決まって、朝ご飯もちゃんと食べて学校へ向かう。
一限、二限を特に問題なくこなし、三限目の数学でぼんやり黒板を眺めているとき、ポケットの中でスマホが震えた。
机の下で確認すると環からのメッセージだった。
『今日は学校に来ている。放課後、部室に顔を出せ。よろしく、おねえさま』
おねえさま、という文字を目にした瞬間、止まっていた頭が唐突に再起動した。
「……というわけで、問い5はこの公式を用いて……」
「ちょっと待って!!??」
思いっきり大声を上げて飛び上がったあたしに、教室中の視線が集中した。黒板を向いていた先生が一拍遅れて振り返る。
「どうした~雲竜。説明分かりにくかったか~? もう一度説明するか?」
「へっ!? あっ、い、いえ、大丈夫です、す、すごくよく分かりました! ハハハ……」
慌ててごまかしながらも、長時間停止後に動き出した頭の中は大パニックだ。
ごちゃごちゃしていてはっきりと分からないけど、昨日の夜、とんでもないことが起きた気がする。
あたしは胸を押さえて深呼吸した。
「落ち着け……。落ち着いて、ゆっくり思い返してみよう」
昨日は確か、蓮司さんとの結婚の話で朱虎と言い合いになったんだ。
膝に馬乗りになって胸ぐら掴んで怒鳴って、焦げ臭い匂いがして、朱虎が煙草の火を消そうと立ち上がりかけたせいでバランスを崩して、それで……
「んなああああっ!!!」
唇に走った衝撃を思い出して、思わず奇声が漏れた。ハッと顔を上げると、またしても教室中の視線がこっちを向いている。
先生が片眉を上げて黒板をコツコツと叩いた。
「雲竜どうした~? 腹でも痛いのなら、無理するなよ~」
「はっ、い、いえ、元気です! ちょっと分からない問題があって気合入れてまして!」
「ほお~、熱心だな雲竜。補習の成果か? でも、もう少し静かに考えような~」
「は、はい、すみません……」
先生を何とかやり過ごすと、あたしはさっきより深く深呼吸した。
待て待て、ほんとに落ち着けあたし。
確かに、弾みとはいえ朱虎とあたしの唇が触れたのは事実だ。だけど一瞬だし、触れたと言うかぶつかったと言った方が正しい。
あれはキスじゃない、朱虎も全然違うって言ってた。確かに、朱虎が教えてくれた「ちゃんとしたキス」とは全然違うもので……。
熱くて柔らかな感触が、さっきより格段にはっきりと唇に蘇った。
『お嬢のファーストキスはまだ未遂です。いいですね?』
「いやいやいやよくないって!? おかしくないその理屈!?」
あたしは机にズダンッ! と拳を叩きつけた。
「ちゃんとしたキス」を教えてもらってる時点であたしのファーストキスはアウトなのでは!?
唇がぶつかったのはギリノーカンでも、その後「ちゃんとしたキス」をガッツリしてしまっているのでは!?
「それともあれは教えただけだから本番じゃない、ノーカンってこと!?」
「おーい、雲竜~」
「いやでも、こういうことにノーカンとかあるの!? そういうもんなの!?」
「雲竜~、聞こえてるか~?」
「わっ、分からない……! コレって誰かに聞いていいものなの!? でも誰に聞けばいいの!?」
「そういう時は先生に聞け~」
「うわっ!?」
ハッと顔を上げると目の前に先生が立っていた。
「いや~、本当に熱心だな~雲竜。でもちょ~っと声が大きすぎるな」
「はっ、はい、スミマセン」
縮こまるあたしに、先生はにっこり笑った。
「雲竜が数学にそんなに熱心に取り組むようになって俺も嬉しいよ~。大丈夫だぞ~、どうしてもわからない問題は、放課後にマンツーマンできっちり教えてやるからな~」
「ひぇっ……け、結構です! ちゃんと家でやってきますからっ……」
「遠慮するな~はっはっは。授業が終わったら教室でまってなさい」
まさかの地獄再来。
あたしの頭がまたズキズキと痛み始めた。
「……もしもし。ああ、獅子神さんですね。突然のご連絡失礼いたします。……そちらは大変なことになっていますね。大丈夫ですか? ……なるほど、安全な場所に隠れていらっしゃると。それは良かった。……実は、オヤジが獅子神さんのことを大変心配しておりまして、宜しければ今夜お会いしたいと。……はい、自分の目で獅子神さんが無事な姿を確認したいようです。オヤジはあの身体ですから、ご足労頂ければと……申し訳ありません。……ええ。……分かりました、では自分がその場所へお迎えに上がります。……はい、では後ほど」
一限、二限を特に問題なくこなし、三限目の数学でぼんやり黒板を眺めているとき、ポケットの中でスマホが震えた。
机の下で確認すると環からのメッセージだった。
『今日は学校に来ている。放課後、部室に顔を出せ。よろしく、おねえさま』
おねえさま、という文字を目にした瞬間、止まっていた頭が唐突に再起動した。
「……というわけで、問い5はこの公式を用いて……」
「ちょっと待って!!??」
思いっきり大声を上げて飛び上がったあたしに、教室中の視線が集中した。黒板を向いていた先生が一拍遅れて振り返る。
「どうした~雲竜。説明分かりにくかったか~? もう一度説明するか?」
「へっ!? あっ、い、いえ、大丈夫です、す、すごくよく分かりました! ハハハ……」
慌ててごまかしながらも、長時間停止後に動き出した頭の中は大パニックだ。
ごちゃごちゃしていてはっきりと分からないけど、昨日の夜、とんでもないことが起きた気がする。
あたしは胸を押さえて深呼吸した。
「落ち着け……。落ち着いて、ゆっくり思い返してみよう」
昨日は確か、蓮司さんとの結婚の話で朱虎と言い合いになったんだ。
膝に馬乗りになって胸ぐら掴んで怒鳴って、焦げ臭い匂いがして、朱虎が煙草の火を消そうと立ち上がりかけたせいでバランスを崩して、それで……
「んなああああっ!!!」
唇に走った衝撃を思い出して、思わず奇声が漏れた。ハッと顔を上げると、またしても教室中の視線がこっちを向いている。
先生が片眉を上げて黒板をコツコツと叩いた。
「雲竜どうした~? 腹でも痛いのなら、無理するなよ~」
「はっ、い、いえ、元気です! ちょっと分からない問題があって気合入れてまして!」
「ほお~、熱心だな雲竜。補習の成果か? でも、もう少し静かに考えような~」
「は、はい、すみません……」
先生を何とかやり過ごすと、あたしはさっきより深く深呼吸した。
待て待て、ほんとに落ち着けあたし。
確かに、弾みとはいえ朱虎とあたしの唇が触れたのは事実だ。だけど一瞬だし、触れたと言うかぶつかったと言った方が正しい。
あれはキスじゃない、朱虎も全然違うって言ってた。確かに、朱虎が教えてくれた「ちゃんとしたキス」とは全然違うもので……。
熱くて柔らかな感触が、さっきより格段にはっきりと唇に蘇った。
『お嬢のファーストキスはまだ未遂です。いいですね?』
「いやいやいやよくないって!? おかしくないその理屈!?」
あたしは机にズダンッ! と拳を叩きつけた。
「ちゃんとしたキス」を教えてもらってる時点であたしのファーストキスはアウトなのでは!?
唇がぶつかったのはギリノーカンでも、その後「ちゃんとしたキス」をガッツリしてしまっているのでは!?
「それともあれは教えただけだから本番じゃない、ノーカンってこと!?」
「おーい、雲竜~」
「いやでも、こういうことにノーカンとかあるの!? そういうもんなの!?」
「雲竜~、聞こえてるか~?」
「わっ、分からない……! コレって誰かに聞いていいものなの!? でも誰に聞けばいいの!?」
「そういう時は先生に聞け~」
「うわっ!?」
ハッと顔を上げると目の前に先生が立っていた。
「いや~、本当に熱心だな~雲竜。でもちょ~っと声が大きすぎるな」
「はっ、はい、スミマセン」
縮こまるあたしに、先生はにっこり笑った。
「雲竜が数学にそんなに熱心に取り組むようになって俺も嬉しいよ~。大丈夫だぞ~、どうしてもわからない問題は、放課後にマンツーマンできっちり教えてやるからな~」
「ひぇっ……け、結構です! ちゃんと家でやってきますからっ……」
「遠慮するな~はっはっは。授業が終わったら教室でまってなさい」
まさかの地獄再来。
あたしの頭がまたズキズキと痛み始めた。
「……もしもし。ああ、獅子神さんですね。突然のご連絡失礼いたします。……そちらは大変なことになっていますね。大丈夫ですか? ……なるほど、安全な場所に隠れていらっしゃると。それは良かった。……実は、オヤジが獅子神さんのことを大変心配しておりまして、宜しければ今夜お会いしたいと。……はい、自分の目で獅子神さんが無事な姿を確認したいようです。オヤジはあの身体ですから、ご足労頂ければと……申し訳ありません。……ええ。……分かりました、では自分がその場所へお迎えに上がります。……はい、では後ほど」
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