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ドゥルルルン……

僕を後ろに乗せた太一のバイクが、古びたアパート前に停まる。
夏の終わり頃まで、ハイジ達と過ごした懐かしい溜まり場。

ここに来るまで、不安が無かった訳じゃない。
太一の言葉全てを鵜呑みにしてはいないけれど、……万が一の事があるから。

「……」

最終的に決めたのは、僕だ。僕の意志で来たんだ。太一に無理矢理連れて来られた訳じゃない。……そう思い直し、感覚の無い手を握り締め、自分を奮い立たせる。

舗装されていない砂地に降り立ち、太一を置いて一階角部屋の玄関に駆け寄る。


ガチャ……

「……!」

ドアをを開けた途端、ムンと立ち込める異様な臭い。お香のようなそれに、思わず手の甲で鼻を押さえる。
電気の消えた薄暗い部屋。その中央には、畳に座り込んで顔を付き合わせているメンバーが、数人。


……え……


嫌な予感がし、踏み入れようとした足を止め、後退る。


トン……

背中に、何かがぶつかる。ゆっくりと振り返れば、不気味に顔を歪めた太一が僕を見下ろしていた。

「お帰りには、まだ早いですよ……お姫サマ」
「──っ、!」

逃れようと駆け出した途端、腕の付け根を掴まれる。縺れる足。力尽くで玄関の中へと引き摺り込まれ、乱暴に放り投げられる。まるで、汚物でも扱うかのように。

紐が解け、踵の潰れた薄汚い靴。汗の混じった独特の刺激臭に、頭がクラクラする。

それでも……両手を付き、痛む腕に力を籠め、上体を持ち上げて振り返る。


「……ハイジ、は……」


心臓が、震える。
心なしか、声まで震えている。


「居ないよ」


ククク……
口の片端を持ち上げ、不気味な笑みを浮かべる太一。情けなく転がった僕を見下ろしながらドアを閉め、後ろ手で鍵をかける。


──ガチャンッ

「……っ、」


やっと──今になってやっと、自分の置かれている状況を理解する。
部屋にいたチームの奴等が、既に僕のすぐ傍らに立ち並び、もう逃げ場なんてない。

『お前はオレの女だけど、チームの仲間じゃねぇんだ』『どんな噂を聞いても、溜まり場には戻ってくンなよ』──ハイジの言葉が、今になって痛い程に響く。


「ハイジは、もうチームここには戻って来ねえんだよ」
「……ぇ……」

目の前にしゃがみ込んだ太一が片手を伸ばし、絶望に震える僕の頬を指の背で撫でる。

「残念だったな、姫」
「……」

その手を顎の下に差し込むと、クイと持ち上げ、ギラつかせた眼を近付ける。


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