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男のプライドを保つ為だとか、思ったんだろうか。
それとも、美しい兄弟愛──僕が身代わりになって、兄を守ろうとしていると勘違いしたんだろうか。

……そんな事、一度だって思った事なんか無いのに。



「どこに住んでるの?」
「……あ、それ私も聞きたい!」
「私も!」

女子達の黄色い声に、ハッと我に返る。
気付けば、後から登校してきた女子が加わり、かなりの人数に囲まれていた。

「……」

下心の透けて見える、同じ笑顔の仮面。
僕の周りにいる全員の女子がそれを貼り付け、同じ顔を連ねている。

──気持ち、悪い。

「ねぇ、教えて!」
「……お願いっ」

ガタンッ
引いた椅子を雑に戻し、無言でその場を離れる。
僕の態度に、それまで騒がしかった声がしんと静まる。背中に突き刺さるのは……冷ややかな視線。

「……何あれ」
「うざ」
「愛想なさすぎ」
「王子の弟とは思えない……」

わざとらしく聞こえる、辛辣な声。

「……」

何とでも言え。
僕はお前らの、踏み台でも何でもないんだから。






廊下に出た所で、手ぶらだった事に気付く。でも、あの中に戻って鞄を取ってくる気にはなれそうにない。
……それに。最後までちゃんと授業を受けるって、ハイジと約束したから。

廊下の端に寄り、半分程開いた窓の外を眺める。
学校を取り囲むようにして植林された桜の葉が、青々としていた。
……当たり前か。もうすぐ6月も終わろうとしているんだから。

「……」

淡い桃色の桜が咲く頃。
決まって雨が降り、嵐のような風が吹き荒ぶ。
花の命は短いというけれど。こんなにも儚く散る花は、他にはない気がする。
散ってしまえば、風の前の塵に同じ。溝川の底に沈んだ桜を、綺麗だと思う人なんていない。
きっと、あの人も──


「……工藤!」

思考を遮断する声。
振り返ってみれば、案の定そこにいたのは──学級委員長。

「これ、……良ければ受け取って欲しい。休んでいた分のノートだ」
「……」

自ら用意したものなんだろうか。それとも、先生に頼まれて……
昨日の出来事が思い出され、嫌な感情が沸き上がる。

「……いらない」

そう言い切ると、学級委員長の顔色がサッと変わる。
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