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『抵抗、しないんだな』
『……』

柔らかな吐息が、僕の項に掛かる。
次いで押し当てられる、熱くて柔い唇。
ぴくん、と小さく跳ね上がる肩。首を竦めながらも、波紋のように広がる甘い快感に酔いしれ、次に訪れる温もりを密かに待ちわびる。

僕の肩を掴む大きな手が離れ、背後から包み込まれる、竜一の温もり。

『……!』

この瞬間──愛おしい気持ちが内側から溢れ、僕を支配する。
この温もりは、誰のものでもない。……僕だけのもの。


トクン、トクン、トクン……

少しだけ速い心音。力強く高鳴るその鼓動が、僕の背中を響かせる。その皮膚や血肉を透過し、到達したのは……僕の心臓。

共鳴し、重なる心音。
触れる肌の温もりさえ、愛おしい程心地良くて。微睡みの波にのまれ、身も心も蕩けていく……

一体、どんな気持ちなんだろう。
愛しい人の弟を身代わりに抱いて、本当に満たされるんだろうか。
そんな野暮な事を、ぼんやりと考える。

もし僕がアゲハに告げたら、竜一はどうするつもりなんだろう──


「───!!」


突然迎える終幕。
天国から地獄へと一気に突き堕とされ──容赦なく壊される、僕だけの居場所。

それまでの、温かくて優しい手とは違う。冷たくて残忍な手が、僕の身体をベッドに捩じ伏せ、上から乱暴に押さえ付ける。


これは、報いだ。
ほんの一瞬でも、竜一の温もりを欲しいと願ってしまった、僕への……


パンツと一緒にズボンを下ろされる。
後頭部を上から押さえ付けられたまま、軽々と腰を持ち上げられ、尻を突き出すような格好をさせられる。

人間らしい扱いなんて、ない。
使い捨ての、只の物と同じ──

不様に晒された窄まりに、硬くなった男の先端が押し当てられる。
恐怖で震える身体。引いていく血の気。浅くなる呼吸を止め、シーツをギュッと掴む。


「──……ッッ!!」


ズンッ……
最奥まで打ち込まれた瞬間──痛みが脳天を突き抜けていく。
治りかけていたひだがメリメリと裂け、ピリッと切れたような鋭い痛みが襲う。

声にならない声で叫びながら、ただ只管に痛みに耐え──布地を強く掴む。
飛びそうになる意識。シーツに顔を埋めながらアゲハの匂いを吸い込み──この地獄が終わるのを只願うしかなかった。




『何で、言わなかった。アゲハに……』

テーブルに携帯灰皿をセットした竜一が、煙草に火を付ける。
まるでアゲハに言って欲しかったような口振りに、ちょっとした反抗心が芽生える。

『……僕にだって、守りたいものがあるから』
『何だそりゃ……』

竜一が少しだけ笑う。
上に伸びていた細い紫煙が、僅かに揺れた。



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