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「外、寒かったやろ」

凌のマンションに辿り着き、チャイムを鳴らす。と、直ぐに玄関ドアが開き、ラフな格好をした凌が姿を現す。
暖房を効かせているんだろう。中に入れば、そこは温かくて。緩んだ室内の空気に、何となくホッとする。

「一緒に、温かい茶でも飲まん?」
「……」

僕の顔を覗き込んだ凌が、そう言って柔やかな笑顔を見せる。



広々としたダイニングキッチン。都会的で洗練されたインテリアは、生活感がなく、まるでモデルハウスのよう。

「まぁ、ええから座っとって!」

僕から買い物袋を取り、凌が対面式のキッチンスペースへと入る。

「……」

その言葉に甘え、ショルダーバッグを床に置き、マフラーとパーカーを脱いで隣の椅子の背に掛ける。

足元には、モダンなデザインのコンパクトヒーター。テーブルの対面には、立ち上がったノートパソコンとティーカップ。毛足のある茶色のブランケットが椅子の上に無造作に置かれていて、何となくここで生活している感じが垣間見える。

少し離れた場所に設置された、黒革のソファと大型テレビ。その奥にあるドアの向こうは、……一体どんな部屋なんだろう。
玄関を上がって直ぐの部屋──バス・トイレ等の水回り手前にある、左右にひとつずつある部屋も、一度も覗いた事がなく。部屋の中がどうなっているのか……解らない。

「ああ、そうや! ハーブティーもあるんやけど、どっちがええ?」
「……っ、」

突然の声に、ハッと我に返る。
見れば買い物袋を片した凌が、対面キッチンの向こうから顔を出し、僕に笑いかけていた。


『ダージリンとアールグレイ、どっちがええ?』──初めてここを訪れた時も、そうだった。

ハルオのアパートを脱け出したあの日──それまで受けた束縛の恐怖と貞操を奪われたショックが、時間の経過と共に蘇ってしまい。ドライブと称して遠回りまでして貰ったのに、なかなか気分が晴れなくて。
僕の気持ちが落ち着くまで、ここで凌の淹れてくれた紅茶を一緒に飲んでくれた。
凌の知り合いである不動産関係の人に、約束の時間をずらしてまで。


「……凌さんと、同じものがいいです」

そう答えながら、飲みかけの紅茶に視線を落とす。


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