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27.
しおりを挟む『兄弟揃って、女みてぇな名前だな』
ふと思い出される、竜一の台詞。
初めてを奪われたあの日──ベッドの外で煙草を吸う姿や、不器用に笑う表情の竜一が脳裏に浮かぶ。
『……俺は、アゲハが嫌いだ』
ハロウィンの夜──集団レイプに遭い、ボロボロになった僕を支えた竜一が、気まぐれに吐いた台詞。
「……」
あの言葉の真意は、今でも解らない。
それでも……思い出す度に、胸の奥が柔らかく締め付けられてしまう。
額面通りであったらどんなにいいかと、心の何処かで願いながら。
*
「……」
気が付けば、カーテン越しに射し込む柔らかなオレンジ色の光が、部屋全体を照らしていた。
もう、こんな時間か……
酷く怠い。
身体が鉛のように重たい。
撮影現場へ向かう樫井からタクシー代を貰い、何とかアパートには帰れたけど。……それからずっと、眠ってしまっていたみたいだ。
毛足の長いラグマットの上に横たわったまま、ゆっくりと瞬きをする。
……でも、もう出掛けなくちゃ。
軋む身体を何とか起こし、鏡の前でラックハンガーに掛かった学生服に着替える。
「……」
新たに付けられてしまった、首元のキスマーク。白シャツの釦を一番上まで留めて、その事実ごと隠す。
近所のスーパーに立ち寄ってから、凌のマンションへと向かう。
その道中、買い物袋をぶら下げ信号待ちをしていると、何やら燥ぐ女子高生達が背後から近付き、隣に並んで立ち止まる。
「大人っぽくて格好いいって言えば、やっぱ黒アゲハじゃない?!」
「えー。私的には格好いいっていうより、可愛い系?」
「……それ、君恋の陽咲に引っ張られすぎだから」
「王子は、マジで別格なの! 私、実は黒アゲハと同じクラスだったんだけど──」
「ていうかぁー。樫井秀孝くんの存在、みんな忘れてなぁーい?」
キャアキャアと騒ぎながら、アゲハと樫井の話題で盛り上がっている。
陽咲というのは、君恋というドラマの配役名なのだろう。
「……」
もし隣にいる僕が、アゲハの弟だと知ったら。樫井に散々犯されたと知ったら。
……彼女達は、一体どんな反応をするのだろうか。
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