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『兄弟揃って、女みてぇな名前だな』

ふと思い出される、竜一の台詞。

初めてを奪われたあの日──ベッドの外で煙草を吸う姿や、不器用に笑う表情の竜一が脳裏に浮かぶ。

『……俺は、アゲハが嫌いだ』

ハロウィンの夜──集団レイプに遭い、ボロボロになった僕を支えた竜一が、気まぐれに吐いた台詞。

「……」

あの言葉の真意は、今でも解らない。
それでも……思い出す度に、胸の奥が柔らかく締め付けられてしまう。

額面通りであったらどんなにいいかと、心の何処かで願いながら。







「……」

気が付けば、カーテン越しに射し込む柔らかなオレンジ色の光が、部屋全体を照らしていた。

もう、こんな時間か……

酷く怠い。
身体が鉛のように重たい。
撮影現場へ向かう樫井からタクシー代を貰い、何とかアパートには帰れたけど。……それからずっと、眠ってしまっていたみたいだ。
毛足の長いラグマットの上に横たわったまま、ゆっくりと瞬きをする。

……でも、もう出掛けなくちゃ。

軋む身体を何とか起こし、鏡の前でラックハンガーに掛かった学生服に着替える。

「……」

新たに付けられてしまった、首元のキスマーク。白シャツの釦を一番上まで留めて、その事実ごと隠す。




近所のスーパーに立ち寄ってから、凌のマンションへと向かう。

その道中、買い物袋をぶら下げ信号待ちをしていると、何やら燥ぐ女子高生達が背後から近付き、隣に並んで立ち止まる。

「大人っぽくて格好いいって言えば、やっぱ黒アゲハじゃない?!」
「えー。私的には格好いいっていうより、可愛い系?」
「……それ、君恋キミコイ陽咲ひなたに引っ張られすぎだから」
「王子は、マジで別格なの! 私、実は黒アゲハと同じクラスだったんだけど──」
「ていうかぁー。樫井秀孝くんの存在、みんな忘れてなぁーい?」

キャアキャアと騒ぎながら、アゲハと樫井の話題で盛り上がっている。
陽咲というのは、君恋というドラマの配役名なのだろう。

「……」

もし隣にいる僕が、アゲハの弟だと知ったら。樫井に散々犯されたと知ったら。

……彼女達は、一体どんな反応をするのだろうか。


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