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4.水神シン

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×××


今までは、自分が生きていく為の料理をしていたから。こうして生活費を稼ぐ為に料理をするなんて……ましてや、宴会の準備までするなんて、思わなくて。一体何を作ったら良いのか、日常の家事をしながら考え倦ねていた。
午後になり、軽く昼食を済ませた後、厚手のパーカーを羽織ってアパートを出る。買い出しついでに本屋へと立ち寄り、レシピの参考になればと居酒屋系の料理本を何冊か流し読みをした。
それからスーパーへ行き、必要な食材をひとつずつ吟味して選ぶ。そのせいか。レジを抜けて店を出る頃には、すっかり日が落ちていて。反対の空にはもう、藍色掛かった闇が迫っていた。


外灯、店のネオン、信号、行き交う車のライト──様々な光で溢れる大通りは、僕の足下をも明るく照らし、不思議と安心感を与えてくれる。
でも。一歩細い路地裏へと入れば、途端に暗闇が全身を襲い、僕を簡単に飲み込む。

「……」

何だか急に怖くなって、僕はアパートへと急いで帰った。







折り畳みの小さな座卓に、出来るだけ多くの料理を並べる。本に載っていた居酒屋メニューのように、豪勢ではないけれど。
キッチンに戻り、人数分のグラスと取り皿、そして割り箸をお盆にのせて運ぶ。

「……」

こうしていると、不思議とハイジ達と過ごした楽しい日々を思い出す。
手料理を振る舞った事なんかないし。部屋の間取りも全然違うけれど。……何でだろう。酷く懐かしくて、感傷的な気分になってしまう。


『……姫っ、!』

ふと。チームの仲間に呼ばれたような気がして。ぴくん、と小さく肩が跳ねる。

「……」

あの頃は、ただハイジの女だというだけで、チームの一員ではない僕を抵抗なく受け入れてくれた。
夏の海で、あんな事さえ無ければ──もしかしたら今も、ハイジ達と変わらず一緒に過ごしていたかもしれないのに。

『──って、お前ら! ちったぁ気ぃ遣えや!!』

少し照れたようなハイジの怒鳴り声が、鼓膜の奥で響く。

……懐かしい。
あの時、中々二人きりになれなくて。ハイジが部屋に残っているチームの仲間を追い出そうとしたんだっけ。顔を真っ赤にして、必死に反撃して。
でも結局、二人でアパートを出て、ドライブデートをしたんだっけ──


──ピンポーン

そんな懐かしい思い出に浸っていると、現実に引き戻すように玄関のチャイムが鳴った。


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