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5.
しおりを挟むカチャ……
玄関のドアを開ければ、そこにいたのは──黒いスーツを身に纏った一人の男性。
根元を少し立てた前髪を横に流して額を出し、襟足をすっきりとさせた短い黒髪。銀色の細淵眼鏡。人の内面までをも探り当てるような、切れ長の眼。涼しげな顔立ちで、清潔感がありながらも無表情で堅く、インテリっぽい印象を与える。
「工藤さくらさんのお宅は、此方でよろしいでしょうか?」
「………、はい」
「お初にお目に掛かります。私、愛沢の後輩の、水神と申します」
「……」
「愛沢は、少し遅れてくるそうなので──」
「……あい、ざわ……?」
淡々と語る男性──水神の言葉に戸惑いを見せれば、少し呆れたような冷めた目付きに変わり、溜め息をつかれる。
「……凌さんの事です」
あ……
そっか。この人が、凌さんの言ってた後輩か。
「……どうぞ」
「では、お邪魔致します」
ドアを大きく開ければ、無表情のまま水神が玄関に上がる。
「……」
……凌さん、愛沢っていうんだ……
今更ながら、初めて知る凌の苗字。存外僕は、凌の事を何にも知らないんだと思い知らされる。
「此方ビールになります」
「……あ、ありがとうございます」
「……」
「冷蔵庫に、仕舞ってきます」
玄関先でビニール袋を受け取ると、水神を部屋に通すのも忘れ、キッチンへと逃げ込む。
「……」
凌とは正反対の、堅苦しい雰囲気。
生真面目そうに見えながら、何処までも冷たい印象の水神と二人きりでいるには耐えられそうになくて。渡されたビールを冷蔵庫に仕舞いながら、細くて弱々しい溜め息をつく。
「少し、宜しいでしょうか」
突然声を掛けられ、ビクンと小さく肩が跳ねる。振り向いて見れば、入口には先程と変わらぬ表情の水神がいて……
「先程、愛沢から連絡が入りまして。あと5分で到着予定との事です。
もし何か手伝える事があれば、遠慮なく仰って下さい」
「……」
少し吊り上がった鋭い眼。眼鏡越しに真っ直ぐ僕を捉えながら、淡々と捲し立てる。
「……いえ。大丈夫です」
答えながら冷蔵庫を閉め、ゆっくりと立ち上がる。と水神が、瞬きもせずじっと僕を見据えながら、一歩、また一歩……と近付く。
「……あの、何か……」
「さくらさんは、男にしておくのが勿体無い位、可愛いらしいんですね」
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