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第1部 第7章 ライバル -最高の盾-

第74話 てめえらの負けだ!

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 試験官は次々に攻撃を繰り出し、盾に衝撃を加えていく。

 盾が使用不可になれば、そこで打撃試験は終了となる。それが終われば、斬撃試験、刺突試験に続いていく。これら三つの試験の結果で、基本防御力の数値が出る。

 やがて試験官は、そう簡単には壊せないことを悟ると一旦下がり、攻城兵器のような大きな器具を用意した。

「アレを出してくるとは、標準以上の性能は保証されたか」

 国王は興味深げに呟く。

 当然だ。おれたちの盾はそう簡単には壊れない。

 数多くの新素材の組み合わせを試し、寝ても覚めても魔物と製品とのにらめっこを続け、諦めかけたところでようやく見つけた奇跡のような合成新素材なのだ。

 硬度だけなら最初の試作品に劣るが、この合成新素材は弾性を有しており、衝撃を吸収、あるいは跳ね返す性質を持っている。

 ついに、ひとつ目のサンプルが破壊され、スコアが記録される。

 続いて次のサンプルが準備され、同様に斬撃、刺突の試験が続けられる。

 三つの盾が破壊されたところで、基本防御力が数値化され、大きく貼り出される。

 基本防御力:86

 その数値に、国王は小さなため息をつく。

「B級レベルか。悪くはない。いや、一分少々で作れる性能としては破格だが……」

 その様子に、おれたちは軽く顔を見合わせて微笑む。

 これはまだ、性能のすべてではない。

「属性防御力試験を開始する!」

 続いて試験官が宣言した属性防御力とは、炎や雷、毒液などといった通常とは違う攻撃に対する防御力だ。

 肉体派の試験官から、魔法に長けた試験官に交代する。

 数々の属性魔法による攻撃が容赦なく盾に降り注いだ。

 その結果が、これだ。

 炎熱耐性:23
 氷結耐性:45
 電撃耐性:100(破壊不能)
 腐食耐性:100(破壊不能)

 総合成績:354

「長所と短所がはっきり出たな。なかなか面白い結果だが……」

 熱に対しては溶けてしまって弱く、あまりに冷やしすぎても硬度が下がり砕けてしまう。

 一方で、新素材は金属のように錆びたりしない性質を持っている。さらにこの合成新素材は絶縁体だ。電撃を受け付けない。

 新素材をよく知るおれとしては、妥当な結果だと納得できる。

「ふふん。最高という割には、そこそこ程度の性能じゃねえかよ」

 いつの間にかケンドレッドがおれたちの席の近くにやってきていた。

「ペトロア工房の席は向こうですよ」

「いいじゃねえか、空席があるんだからよ。てめえらの吠え面を、間近で見させてもらうぜ」

「趣味わるーい」

 おれの左隣でノエルが小さくぼやくが、右隣のソフィアは涼しい顔をする。

「どうぞ。わたしたちも、ケンドレッドさんのお顔を拝見させていただきます」

 続いてのペトロア工房製の盾の試験中、ケンドレッドは非常に表情豊かだった。

 基本防御力:85

「ふん。流れ作業じゃよぉ、これ以上の金属は使えねえんだよ」

 炎熱耐性:90
 氷結耐性:83

「よしよし、まあこんなもんだ。上出来だな」

 電撃耐性:65

「ちぃっ。絶縁処理の工程が足りてなかったか、くそっ」

 腐食耐性:64

「メッキにムラがありやがったか。ど素人にやらせるんじゃ、こんなもんかよ」

 ……といった具合で、ケンドレッドは各種試験のたびに、感情を顔と声に出していたのである。

 それはそれで見飽きないものだった。

 そして……。

 総合成績:387

「くくっ、くはっはっはっはっ! 俺の勝ちだぜ、ショウ! ソフィア・シュフィール! どうだ、ペトロア工房の力を思い知ったか!」

「ああ、大したものだ。熟練の職人もなしに、これほどの性能を出せるなんて」

「そうだろう! スコア30以上の差はでかいぜ! いつもいつも舐めやがってよぉ、ざまあみろってんだ! いい気味だぜ!」

「もう少し良い勝負になるかと思ってたんだけどなぁ」

「へっ、女々しいぜ、ショウ。さあて、てめえらの負けだ! 国外追放の覚悟はできてるかよ?」

 ふぅ、とノエルがため息をつく。

「言われっぱなしでいいの? アタシ、さすがにちょっと腹が立ってきちゃったけど」

「そう言うな。今だけだ」

 あまりに呑気なノエルとアリシアに、ケンドレッドは「あぁ?」と首を傾げる。

「お前ら、やけに余裕じゃねえかよ。精魂込めた最高の品が負けたんだぞ、もっと悔しがれよ! それとも本気じゃなかったってのか!? だとしたらふざけんなよ!」

「ふざけてはいません。わたしたちは、まだ負けたつもりではないのです」

 ソフィアが軽く言い放つが、ケンドレッドには意味が通じない。通じるわけがない。

「そろそろかな? ケンドレッドさんも、その席で見ているといい」

 試験会場のほうで準備が整ったらしく、再びおれたちの盾が運ばれてくる。

「おいおいおい、なんだよありゃ? あれもお前らのか? こっちが本命ってわけかよ」

「いや、さっきと同じ盾ですよ」

「ああ? だったらなんでまた試験するんだよ」

「使い方を変えてもらうんだ」

 試験官は事前に説明しておいた通り、盾の中心に紅い石をはめ込んてくれる。

「あれは、魔力石か!?」

 盾に魔力が伝導し、表面に刻まれた魔力回路が薄く輝いて浮き上がる。

 その様子に、国王までもが立ち上がり凝視する。

 おれは不敵に宣言する。

「さあ、ここからが本領発揮だ」
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