召喚巫女の憂鬱

リコピン

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第五章(最終章) 自分のための一歩

7.

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7.

―どうしよう、どうすればいいのかわからない

初めての経験、宝珠の知識にある通りにしているつもりだけれど、本当にこれでいいのか。不安が募り、合わせた唇を離そうとした瞬間、頭の後ろに大きな手がまわされた。

「っ!?」

強く引き寄せられて、離せなくなった唇。パニックで、息が上手く吸えなくなる。息苦しさに生理的な涙が浮かんできた。必死にヴォルフの両肩を押しやれば、ようやくその巨体が離れていく。

「…ヴォルフ?」

「…」

つい、非難のこもった視線を向けてしまったのに、目が合ったヴォルフは何だか楽しそうな表情で。ほんの少し前まで、彼が死んでしまうのではないかと恐怖していたというのに。

「…何で、守護石を飲んだりしたの?命の危険があるって、わかってたでしょ?」

「そうだな」

責めるようなきつい言葉にも、ヴォルフから楽しげな雰囲気が消えることはない。

「じゃあ、何で!」

「トーコが教えてくれただろう?守護石と巫女が居れば、守護者の継承は可能だと」

「だけど!それで死んじゃうかもしれないって言ったじゃない!」

先ほど感じた恐怖が甦りそうになり、必死に頭を振って追い払う。

「っ!私、ヴォルフが死んじゃうんじゃないかって、恐かった!凄く恐かったんだから!!」

「すまん」

八つ当たりのように叫べば、ヴォルフの謝る声、そのまま大きな腕の中に抱き締められた。

「…謝るなら、何で、あんな、あんなことしたの?」

それでも責める言葉を抑えきれずに口にすれば、抱きしめる腕に力が入った。

「すまん、そんなに怯えさせるとは思わなかった」

「ヴォルフが死ぬかもしれなかったんだよ!?恐かったに決まってるじゃない!」

「そうだな、すまん」

謝罪を繰り返すヴォルフが、抱き締めていた腕を弛める。少し開いた互いの距離、真剣な眼差しがこちらを見下ろす。

「だが、それでも…。命を賭けてでも、俺には守護石が必要だった」

「…何で、そんなに」

真っ直ぐなままの眼差しで見つめられる。

「お前に触れられないのは、つらい」

「…」

「お前に、口づけられないのも」

強い視線に射ぬかれて、言われた言葉を理解するのに、数瞬の間があった。脳がその意味を理解するに従って、顔に熱が集まっていくのがわかる。

何かを言おうと思うのだけれど、言葉が出て来ない。口を開いては、そのまま閉じることを数度繰り返せば、ヴォルフの表情が柔らかくほどけていく。

「守護石があれば、お前から口づけてもらうことも出来る」

「!?違う!さっきのは!あれは!」

「あれは?」

言葉を促すヴォルフの目が優しくて、居たたまれなくなる。

「本当に違うの!そういうんじゃなくて、守護石の拒絶反応を巫女の体液で中和する必要があって!だから、あれは守護石を継承するために必要だったから!」

「…」

「…ヴォルフ?」

必死に弁明すれば、ヴォルフの表情が硬くなり、目に剣呑な光が宿った。

「…さっきのが、守護石の継承方法なのか?」

「う、ん。そうみたい」

巫女としての知識に従っただけだと言い張ってみても、ヴォルフの表情は険しいまま。鋭い視線に、目をそらすことも出来ない。

「…あの男にも、」

―あの男?

「もし、あの男が守護者になることを選んでいれば、トーコはあの男に口づけていたのか?」

ヴォルフの言葉に、彼が言う『あの男』が誰なのかはわかってしまったが、

「…そういう言い方をしたら、そうなっちゃうけど、あれはあくまで儀式というか、人工呼吸みたいなものだから」

「…」

「…ヴォルフ?」

「駄目だ」

「え?」

首を振り、拒絶を示すヴォルフに戸惑う。

「俺以外に新たな守護者は必要ない」

「…うん。他に守護石も無いし、守護者を増やすつもりは無いけど…」

「よし」

満足げに頷いたヴォルフに、頭を撫でられた。いつの間にか、あれだけ硬かった表情がいつも通りに戻っていて、何故だか、その事に深く安堵した。




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