召喚巫女の憂鬱

リコピン

文字の大きさ
上 下
74 / 78
第五章(最終章) 自分のための一歩

6.

しおりを挟む
6.

どのくらいの時間、瘴気を吸収し続けたのだろう。

以前は、半年近くかけて器の限界まで瘴気を吸収した。それと同じくらいの量を、この場で再び取り込まなければならない。

瘴気を取り込む際の不快感が、吐き気と頭痛になって一気に襲いかかってくる。体がまたふらついた。

「トーコ、」

「大丈夫」

それでも、巫女の間で手に入れた守護石の分、体内の浄化は出来ているのだから。『魔王』に押し負けるつもりはない。

瘴気の影が大きく揺らぎ、その姿が崩れていく。人の姿をとれなくなっていく『魔王』に終わりが近いことを確信する。

「…あれは、」

ほどけていく影の中心、瘴気が晴れていくにつれて、顕になっていく物の姿。

「守護石か…」

「…後継者を探してるみたい」

棺の上、宙に浮いて美しい光を放つ石は、次なる宿主を探している。

「本当なら、前の守護者が亡くなった時点で次の守護者が選ばれて、守護石を継承するんだけど…」

死してなお、守護石を手放せなかった守り人は、今、本当にその役目を終えたのだろう。

守護石の出現、『魔王』を無事倒せた安堵に、緊張が解ける。強ばっていた体からも力が抜け、完全に油断してしまっていた。

突然、背後に居たはずのヴォルフが、音もなく動いた。

「っ!?ヴォルフ!?」

「…」

無言のまま、棺に近づいたヴォルフが、守護石へと手を伸ばした。

「ヴォルフ!やめて!」

「…」

彼が何をしようとしているのかがわかって、それを必死に止める。

―ダメだ!間に合わない!

「ヴォルフ!」

「ッ!」

守護石がヴォルフの口の中に消えていくのが、スローモーションのように見えた。石を口にした途端、大きな体が苦しそうに折れて、ヴォルフが膝をついた。

―ああ、そんな!?

「やだ!何で!?」

「クッ!」

駆け寄って、ヴォルフの顔を覗き込む。こちらを見上げてくる表情は苦しそうで、額からは大粒の汗が流れている。

―ダメ!嫌だ!

彼を失うなんて、そんなの絶対に―

考えている時間はない。膝をついたままのヴォルフの両頬に手を添えた。

「ッ!トー、コ?」

「…」

私の名を呼ぶ唇に、無理矢理のキスを落とす。目の前の体が小さく跳ねたのがわかった。抵抗、されているのかもしれない。だけど―

合わせた唇を無理矢理に割り開き、その中へ舌を差し込んだ。




しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

今更ですか?結構です。

みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。 エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。 え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。 相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...