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第五章(最終章) 自分のための一歩
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どのくらいの時間、瘴気を吸収し続けたのだろう。
以前は、半年近くかけて器の限界まで瘴気を吸収した。それと同じくらいの量を、この場で再び取り込まなければならない。
瘴気を取り込む際の不快感が、吐き気と頭痛になって一気に襲いかかってくる。体がまたふらついた。
「トーコ、」
「大丈夫」
それでも、巫女の間で手に入れた守護石の分、体内の浄化は出来ているのだから。『魔王』に押し負けるつもりはない。
瘴気の影が大きく揺らぎ、その姿が崩れていく。人の姿をとれなくなっていく『魔王』に終わりが近いことを確信する。
「…あれは、」
ほどけていく影の中心、瘴気が晴れていくにつれて、顕になっていく物の姿。
「守護石か…」
「…後継者を探してるみたい」
棺の上、宙に浮いて美しい光を放つ石は、次なる宿主を探している。
「本当なら、前の守護者が亡くなった時点で次の守護者が選ばれて、守護石を継承するんだけど…」
死してなお、守護石を手放せなかった守り人は、今、本当にその役目を終えたのだろう。
守護石の出現、『魔王』を無事倒せた安堵に、緊張が解ける。強ばっていた体からも力が抜け、完全に油断してしまっていた。
突然、背後に居たはずのヴォルフが、音もなく動いた。
「っ!?ヴォルフ!?」
「…」
無言のまま、棺に近づいたヴォルフが、守護石へと手を伸ばした。
「ヴォルフ!やめて!」
「…」
彼が何をしようとしているのかがわかって、それを必死に止める。
―ダメだ!間に合わない!
「ヴォルフ!」
「ッ!」
守護石がヴォルフの口の中に消えていくのが、スローモーションのように見えた。石を口にした途端、大きな体が苦しそうに折れて、ヴォルフが膝をついた。
―ああ、そんな!?
「やだ!何で!?」
「クッ!」
駆け寄って、ヴォルフの顔を覗き込む。こちらを見上げてくる表情は苦しそうで、額からは大粒の汗が流れている。
―ダメ!嫌だ!
彼を失うなんて、そんなの絶対に―
考えている時間はない。膝をついたままのヴォルフの両頬に手を添えた。
「ッ!トー、コ?」
「…」
私の名を呼ぶ唇に、無理矢理のキスを落とす。目の前の体が小さく跳ねたのがわかった。抵抗、されているのかもしれない。だけど―
合わせた唇を無理矢理に割り開き、その中へ舌を差し込んだ。
どのくらいの時間、瘴気を吸収し続けたのだろう。
以前は、半年近くかけて器の限界まで瘴気を吸収した。それと同じくらいの量を、この場で再び取り込まなければならない。
瘴気を取り込む際の不快感が、吐き気と頭痛になって一気に襲いかかってくる。体がまたふらついた。
「トーコ、」
「大丈夫」
それでも、巫女の間で手に入れた守護石の分、体内の浄化は出来ているのだから。『魔王』に押し負けるつもりはない。
瘴気の影が大きく揺らぎ、その姿が崩れていく。人の姿をとれなくなっていく『魔王』に終わりが近いことを確信する。
「…あれは、」
ほどけていく影の中心、瘴気が晴れていくにつれて、顕になっていく物の姿。
「守護石か…」
「…後継者を探してるみたい」
棺の上、宙に浮いて美しい光を放つ石は、次なる宿主を探している。
「本当なら、前の守護者が亡くなった時点で次の守護者が選ばれて、守護石を継承するんだけど…」
死してなお、守護石を手放せなかった守り人は、今、本当にその役目を終えたのだろう。
守護石の出現、『魔王』を無事倒せた安堵に、緊張が解ける。強ばっていた体からも力が抜け、完全に油断してしまっていた。
突然、背後に居たはずのヴォルフが、音もなく動いた。
「っ!?ヴォルフ!?」
「…」
無言のまま、棺に近づいたヴォルフが、守護石へと手を伸ばした。
「ヴォルフ!やめて!」
「…」
彼が何をしようとしているのかがわかって、それを必死に止める。
―ダメだ!間に合わない!
「ヴォルフ!」
「ッ!」
守護石がヴォルフの口の中に消えていくのが、スローモーションのように見えた。石を口にした途端、大きな体が苦しそうに折れて、ヴォルフが膝をついた。
―ああ、そんな!?
「やだ!何で!?」
「クッ!」
駆け寄って、ヴォルフの顔を覗き込む。こちらを見上げてくる表情は苦しそうで、額からは大粒の汗が流れている。
―ダメ!嫌だ!
彼を失うなんて、そんなの絶対に―
考えている時間はない。膝をついたままのヴォルフの両頬に手を添えた。
「ッ!トー、コ?」
「…」
私の名を呼ぶ唇に、無理矢理のキスを落とす。目の前の体が小さく跳ねたのがわかった。抵抗、されているのかもしれない。だけど―
合わせた唇を無理矢理に割り開き、その中へ舌を差し込んだ。
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