63 / 78
第四章 聖都への帰還と決意
6.
しおりを挟む
6.
「そんなの嘘よ!」
部屋に満ちた沈黙を破ったのは、ドロテアの非難の叫び声。
「そんなこと、あり得ない!だって、そんな設定は無かったんだから!自分に都合のいいように、話を作らないで!」
語った言葉は嘘では無いけれど、ここに居る理由さえよくわかないドロテア相手に、それを主張するつもりはない。話をしたのは私の意思を伝えるため、守護者達にだって、理解を求めるつもりはない。
「…ハイロビで、瘴気が減少したことは事実です。今の巫女様では浄化は不可能だとおっしゃられますが、これをどう説明されるおつもりですか?」
「あの地で、私に触れた人が居た。その人に移った瘴気の分、周囲の瘴気を吸収したけれど。明日にはまた、私の器は飽和する」
私の言葉に考え込んでしまったハイリヒを放って、ドロテアに視線を向ける。
こちらの言い分なんて端から信じる気などないのだろう。嘲るような侮蔑の視線と目が合った。
「…守護石を持たない人が私に触れれば、瘴気に侵されてしまう。ハイロビで私に触れた人は、巫女との相性が良すぎた。かなりの量の瘴気が移ってしまったその人は、今、死にかけている」
何かに気づいたドロテアの表情が変わる。その目が大きく見開かれた。顔から血の気がひいていく。
「…『ナハト』と言う男が倒れたのは、私に触れたから」
「っ!?お前か!!」
激昂したドロテアが立ち上がる。
「お前がナハトを!!」
こちらに飛びかかろうとするドロテア、けれど、それが私に届くことはない。
「ドロテア!?」
「義姉上!?」
気づけば、私の前にはヴォルフの背中。咄嗟に動いたレオナルトが、ドロテアを力ずくで押し留めている。
「…守護石は、それを宿す者を瘴気から守護する石でもある、」
「ふざけるな!お前が!お前みたいな無能が!」
「ドロテア、やめろ!」
レオナルトが必死に制止するが、ドロテアの罵声が止まることはない。
「っ!フリッツ、ドロテアを連れていけ!」
動揺するだけで動けないままのフリッツに、レオナルトが大声をあげた。その声に、フリッツが我にかえる。焦りながらも、自身の姉を部屋の外へと引きずり出した。
「…巫女様、誠に申し訳ない。ドロテアが何故、突然あのような、」
「いい、謝罪は要らない」
切り捨てれば、レオナルトは口を閉じる。ドロテアの反応に、部屋の中には異様な空気が漂っている。
守護者である彼らが私の、巫女としての言葉をどう受け取ったかはわからない。だけど、ここに来た目的は彼らへの通告。
「言っておく。これから先、守護者だからって、私の意思に反して私に触れないで。勝手に触れたら、私はあなた達を憎むから。私がこの世界を憎めば、瘴気を吸収することさえなくなる」
何かを言おうとしたハイリヒを、手で制する。
「この世界の瘴気を本気でどうにかしたいと思っているなら、私の機嫌を損なうことは、一切しないで」
「っ!お待ちください、巫女様!それでは、私達は一体どうすれば!」
耐えかねて口を開いたハイリヒ。
「それは私が決める。あなた達に出来ることは、私の要請に応えることだけ」
言うべきことは言った。今度は、私が、私の意思で巫女となる。その邪魔はさせない。
立ち上がり、部屋の扉へと向かう。
「お待ちください!巫女様!」
追いすがる声は、ハイリヒのもの。私の背後は、ヴォルフが守ってくれている。
レオナルト達がハイリヒを引き留めようとする声が、閉まる扉の向こうに消えた。
「そんなの嘘よ!」
部屋に満ちた沈黙を破ったのは、ドロテアの非難の叫び声。
「そんなこと、あり得ない!だって、そんな設定は無かったんだから!自分に都合のいいように、話を作らないで!」
語った言葉は嘘では無いけれど、ここに居る理由さえよくわかないドロテア相手に、それを主張するつもりはない。話をしたのは私の意思を伝えるため、守護者達にだって、理解を求めるつもりはない。
「…ハイロビで、瘴気が減少したことは事実です。今の巫女様では浄化は不可能だとおっしゃられますが、これをどう説明されるおつもりですか?」
「あの地で、私に触れた人が居た。その人に移った瘴気の分、周囲の瘴気を吸収したけれど。明日にはまた、私の器は飽和する」
私の言葉に考え込んでしまったハイリヒを放って、ドロテアに視線を向ける。
こちらの言い分なんて端から信じる気などないのだろう。嘲るような侮蔑の視線と目が合った。
「…守護石を持たない人が私に触れれば、瘴気に侵されてしまう。ハイロビで私に触れた人は、巫女との相性が良すぎた。かなりの量の瘴気が移ってしまったその人は、今、死にかけている」
何かに気づいたドロテアの表情が変わる。その目が大きく見開かれた。顔から血の気がひいていく。
「…『ナハト』と言う男が倒れたのは、私に触れたから」
「っ!?お前か!!」
激昂したドロテアが立ち上がる。
「お前がナハトを!!」
こちらに飛びかかろうとするドロテア、けれど、それが私に届くことはない。
「ドロテア!?」
「義姉上!?」
気づけば、私の前にはヴォルフの背中。咄嗟に動いたレオナルトが、ドロテアを力ずくで押し留めている。
「…守護石は、それを宿す者を瘴気から守護する石でもある、」
「ふざけるな!お前が!お前みたいな無能が!」
「ドロテア、やめろ!」
レオナルトが必死に制止するが、ドロテアの罵声が止まることはない。
「っ!フリッツ、ドロテアを連れていけ!」
動揺するだけで動けないままのフリッツに、レオナルトが大声をあげた。その声に、フリッツが我にかえる。焦りながらも、自身の姉を部屋の外へと引きずり出した。
「…巫女様、誠に申し訳ない。ドロテアが何故、突然あのような、」
「いい、謝罪は要らない」
切り捨てれば、レオナルトは口を閉じる。ドロテアの反応に、部屋の中には異様な空気が漂っている。
守護者である彼らが私の、巫女としての言葉をどう受け取ったかはわからない。だけど、ここに来た目的は彼らへの通告。
「言っておく。これから先、守護者だからって、私の意思に反して私に触れないで。勝手に触れたら、私はあなた達を憎むから。私がこの世界を憎めば、瘴気を吸収することさえなくなる」
何かを言おうとしたハイリヒを、手で制する。
「この世界の瘴気を本気でどうにかしたいと思っているなら、私の機嫌を損なうことは、一切しないで」
「っ!お待ちください、巫女様!それでは、私達は一体どうすれば!」
耐えかねて口を開いたハイリヒ。
「それは私が決める。あなた達に出来ることは、私の要請に応えることだけ」
言うべきことは言った。今度は、私が、私の意思で巫女となる。その邪魔はさせない。
立ち上がり、部屋の扉へと向かう。
「お待ちください!巫女様!」
追いすがる声は、ハイリヒのもの。私の背後は、ヴォルフが守ってくれている。
レオナルト達がハイリヒを引き留めようとする声が、閉まる扉の向こうに消えた。
50
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
王女殿下のモラトリアム
あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」
突然、怒鳴られたの。
見知らぬ男子生徒から。
それが余りにも突然で反応できなかったの。
この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?
わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。
先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。
お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって!
婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪
お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。
え? 違うの?
ライバルって縦ロールなの?
世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。
わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら?
この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。
※設定はゆるんゆるん
※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。
※明るいラブコメが書きたくて。
※シャティエル王国シリーズ3作目!
※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。
上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。
※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅!
※小説家になろうにも投稿しました。
傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました
みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。
ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。
行動あるのみです!
棗
恋愛
※一部タイトル修正しました。
シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。
自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。
これが実は勘違いだと、シェリは知らない。
前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる