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第四章 聖都への帰還と決意
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「そんなの嘘よ!」
部屋に満ちた沈黙を破ったのは、ドロテアの非難の叫び声。
「そんなこと、あり得ない!だって、そんな設定は無かったんだから!自分に都合のいいように、話を作らないで!」
語った言葉は嘘では無いけれど、ここに居る理由さえよくわかないドロテア相手に、それを主張するつもりはない。話をしたのは私の意思を伝えるため、守護者達にだって、理解を求めるつもりはない。
「…ハイロビで、瘴気が減少したことは事実です。今の巫女様では浄化は不可能だとおっしゃられますが、これをどう説明されるおつもりですか?」
「あの地で、私に触れた人が居た。その人に移った瘴気の分、周囲の瘴気を吸収したけれど。明日にはまた、私の器は飽和する」
私の言葉に考え込んでしまったハイリヒを放って、ドロテアに視線を向ける。
こちらの言い分なんて端から信じる気などないのだろう。嘲るような侮蔑の視線と目が合った。
「…守護石を持たない人が私に触れれば、瘴気に侵されてしまう。ハイロビで私に触れた人は、巫女との相性が良すぎた。かなりの量の瘴気が移ってしまったその人は、今、死にかけている」
何かに気づいたドロテアの表情が変わる。その目が大きく見開かれた。顔から血の気がひいていく。
「…『ナハト』と言う男が倒れたのは、私に触れたから」
「っ!?お前か!!」
激昂したドロテアが立ち上がる。
「お前がナハトを!!」
こちらに飛びかかろうとするドロテア、けれど、それが私に届くことはない。
「ドロテア!?」
「義姉上!?」
気づけば、私の前にはヴォルフの背中。咄嗟に動いたレオナルトが、ドロテアを力ずくで押し留めている。
「…守護石は、それを宿す者を瘴気から守護する石でもある、」
「ふざけるな!お前が!お前みたいな無能が!」
「ドロテア、やめろ!」
レオナルトが必死に制止するが、ドロテアの罵声が止まることはない。
「っ!フリッツ、ドロテアを連れていけ!」
動揺するだけで動けないままのフリッツに、レオナルトが大声をあげた。その声に、フリッツが我にかえる。焦りながらも、自身の姉を部屋の外へと引きずり出した。
「…巫女様、誠に申し訳ない。ドロテアが何故、突然あのような、」
「いい、謝罪は要らない」
切り捨てれば、レオナルトは口を閉じる。ドロテアの反応に、部屋の中には異様な空気が漂っている。
守護者である彼らが私の、巫女としての言葉をどう受け取ったかはわからない。だけど、ここに来た目的は彼らへの通告。
「言っておく。これから先、守護者だからって、私の意思に反して私に触れないで。勝手に触れたら、私はあなた達を憎むから。私がこの世界を憎めば、瘴気を吸収することさえなくなる」
何かを言おうとしたハイリヒを、手で制する。
「この世界の瘴気を本気でどうにかしたいと思っているなら、私の機嫌を損なうことは、一切しないで」
「っ!お待ちください、巫女様!それでは、私達は一体どうすれば!」
耐えかねて口を開いたハイリヒ。
「それは私が決める。あなた達に出来ることは、私の要請に応えることだけ」
言うべきことは言った。今度は、私が、私の意思で巫女となる。その邪魔はさせない。
立ち上がり、部屋の扉へと向かう。
「お待ちください!巫女様!」
追いすがる声は、ハイリヒのもの。私の背後は、ヴォルフが守ってくれている。
レオナルト達がハイリヒを引き留めようとする声が、閉まる扉の向こうに消えた。
「そんなの嘘よ!」
部屋に満ちた沈黙を破ったのは、ドロテアの非難の叫び声。
「そんなこと、あり得ない!だって、そんな設定は無かったんだから!自分に都合のいいように、話を作らないで!」
語った言葉は嘘では無いけれど、ここに居る理由さえよくわかないドロテア相手に、それを主張するつもりはない。話をしたのは私の意思を伝えるため、守護者達にだって、理解を求めるつもりはない。
「…ハイロビで、瘴気が減少したことは事実です。今の巫女様では浄化は不可能だとおっしゃられますが、これをどう説明されるおつもりですか?」
「あの地で、私に触れた人が居た。その人に移った瘴気の分、周囲の瘴気を吸収したけれど。明日にはまた、私の器は飽和する」
私の言葉に考え込んでしまったハイリヒを放って、ドロテアに視線を向ける。
こちらの言い分なんて端から信じる気などないのだろう。嘲るような侮蔑の視線と目が合った。
「…守護石を持たない人が私に触れれば、瘴気に侵されてしまう。ハイロビで私に触れた人は、巫女との相性が良すぎた。かなりの量の瘴気が移ってしまったその人は、今、死にかけている」
何かに気づいたドロテアの表情が変わる。その目が大きく見開かれた。顔から血の気がひいていく。
「…『ナハト』と言う男が倒れたのは、私に触れたから」
「っ!?お前か!!」
激昂したドロテアが立ち上がる。
「お前がナハトを!!」
こちらに飛びかかろうとするドロテア、けれど、それが私に届くことはない。
「ドロテア!?」
「義姉上!?」
気づけば、私の前にはヴォルフの背中。咄嗟に動いたレオナルトが、ドロテアを力ずくで押し留めている。
「…守護石は、それを宿す者を瘴気から守護する石でもある、」
「ふざけるな!お前が!お前みたいな無能が!」
「ドロテア、やめろ!」
レオナルトが必死に制止するが、ドロテアの罵声が止まることはない。
「っ!フリッツ、ドロテアを連れていけ!」
動揺するだけで動けないままのフリッツに、レオナルトが大声をあげた。その声に、フリッツが我にかえる。焦りながらも、自身の姉を部屋の外へと引きずり出した。
「…巫女様、誠に申し訳ない。ドロテアが何故、突然あのような、」
「いい、謝罪は要らない」
切り捨てれば、レオナルトは口を閉じる。ドロテアの反応に、部屋の中には異様な空気が漂っている。
守護者である彼らが私の、巫女としての言葉をどう受け取ったかはわからない。だけど、ここに来た目的は彼らへの通告。
「言っておく。これから先、守護者だからって、私の意思に反して私に触れないで。勝手に触れたら、私はあなた達を憎むから。私がこの世界を憎めば、瘴気を吸収することさえなくなる」
何かを言おうとしたハイリヒを、手で制する。
「この世界の瘴気を本気でどうにかしたいと思っているなら、私の機嫌を損なうことは、一切しないで」
「っ!お待ちください、巫女様!それでは、私達は一体どうすれば!」
耐えかねて口を開いたハイリヒ。
「それは私が決める。あなた達に出来ることは、私の要請に応えることだけ」
言うべきことは言った。今度は、私が、私の意思で巫女となる。その邪魔はさせない。
立ち上がり、部屋の扉へと向かう。
「お待ちください!巫女様!」
追いすがる声は、ハイリヒのもの。私の背後は、ヴォルフが守ってくれている。
レオナルト達がハイリヒを引き留めようとする声が、閉まる扉の向こうに消えた。
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