召喚巫女の憂鬱

リコピン

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第四章 聖都への帰還と決意

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「さて、では改めまして、」

そう言って、ハイリヒが今回の瘴気の発生についてやハイロビ周辺での瘴気の減少について、その減少が『巫女』である私の力によるものだと言うことを滔々と語る。

「ですので、今回の瘴気騒ぎについても、巫女様の浄化の御力で、速やかに解決できるものと考えております。巫女様、どうか、我々をまたお救い下さい」

そう、にこやかに言って、最後に頭を下げたハイリヒ。周囲の人間の反応は様々だ。

フリッツやドロテアには、こちらへの明らかな敵意を感じるし、レオナルトは厳しい表情のまま無言を貫いている。他の二人は、その立ち位置からレオナルトに近い関係なのだろうが、こちらも何を考えているのかはわからない。

頭を上げたハイリヒの顔をまっすぐに見つめる。

「…私は『巫女』じゃなくなったんじゃなかった?」

「っ!それは…」

ハイリヒの笑顔が、ぎしりと歪んだ。

「それは?何?神殿にとって、私は『巫女』なの?」

「…巫女様は、巫女様であらせられます。その存在を、御力を否定するつもりなど毛頭なく、」

「そう、わかった」

欲しい言質はとれた。長々と続きそうな言い訳に付き合うつもりはない。

「…巫女様、どうか聖都をお守り下さい。巫女様の御力で瘴気の浄化を、」

「それは、無理。今の私に、あの瘴気を祓う力は無いから、」

私の言葉が終わるよりも早く、部屋に男の罵声が響いた。

「やはり無理なのではないか!その女はもはや巫女でも何でもない、ただの女だ!」

「…フリッツ殿、お控えなさい」

「神殿長!その女は、ケルステンの名を汚したのだぞ!当家はその女を、絶対に許すわけにはいかない!」

ハイリヒの制止にも、フリッツの怒声が止まることはない。興奮したフリッツの肩に、レオナルトが手を置くことで、ようやくその勢いが止まった。

「レオナルト様…。申し訳ありません。しかし、巫女の力を失っていることは、その女自身も認めているところ、早々に追い出すべきです、こんな女」

吐き捨てるフリッツに、レオナルトが首を振る。

「フリッツ、落ち着け。巫女様の話を最後まで聞け」

レオナルトの言葉に、ようやく口をつぐんだフリッツの視線がこちらを向く。

「…今の私に、瘴気を祓う力は無い。それをどうにかするために、私はここに居る」

今度は私の意思で、守りたい人達を守るために、巫女の力を必要としているから。

「…そもそもの前提として、巫女わたしは世界に漂う瘴気を集める装置ではあるけれど、自分の身の内に溜まった瘴気を浄化、消し去ることは出来ない」

これは、宝珠によって与えられた知識。

「私の中の瘴気を浄化する装置は、あくまで守護石、それを宿す守護者達だから」

それを知るはずの当人達に、困惑の表情が浮かぶ。神殿長であるハイリヒでさえ、戸惑いの表情を見せている。

「私の巫女としての器には、既に瘴気が限界まで溜まっている。だから、私が瘴気をこれ以上吸収することはできない」

告げたのは真実だけれど、彼らには私の言葉を信じる根拠はない。暫しの沈黙の後、口を開いたのはレオナルトだった。

「…巫女様、守護者の役目とは。我々が如何にして巫女様の抱える瘴気を浄化することが可能だと言うのでしょう?」

その言葉からわかるのは、やはり先代巫女の時代に歪められ、喪われてしまっている伝承としての知識。それでも、

「…例え、その意義がわからなかったとしても。あなた達は守護者として、自分達が何を成すべきかを知っている」

「…どういう?」

「守護者とは『巫女に侍り、仕える者』、『巫女を一途に愛し抜く』存在でなければならない、ということ」

「…」

巫女一人で完結せずに、守護者という補助装置を必要としてしまう。『人』の感情に左右される、不完全な浄化システム―

「巫女の中の瘴気は、肌を重ねることで守護者に移る。守護者に移った瘴気は、守護石が浄化する。それが、この世界の、あなた達が言うところの『浄化』の流れ」

真実を、告げた言葉に、沈黙が返る―




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