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第四章 聖都への帰還と決意
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かつては、毎日のように歩いていた白一色の回廊。磨きあげられたそこを、今は、ヴォルフと二人、並んで歩く。
「…トーコ」
「…」
足を止めたヴォルフにつられて立ち止まる。こちらを見下ろすヴォルフを見上げた。
「お前が、俺を拒絶し続けるのは、さっきの話のせいか?瘴気のことがあるから、俺を遠ざけたのか?」
「…黙ってて、ごめんなさい」
身近に居てくれたヴォルフが、一番危険だった。ベールや手袋をしていても、弾みで彼に触れてしまっていたかもしれない。その危険を、私はずっと彼に黙っていたのだ。
「…巫女になるつもりがなかったから。情報が足りていないのには気づいたけど、浄化の仕組みについては誰にも言わないつもりだった」
「…」
「ハイロビでヴォルフが見つけてくれた後は、いつかは言わなきゃと思ってて、結局、言えなくて」
ヴォルフに嫌われるのが、避けられるのが、恐かったから。側に居てくれる彼を失いたくなかった。私は卑怯だ。
「言えなかったけど、だけど、何があっても、あなたにだけは触れられたくなかった」
彼を殺してしまうくらいなら―
「…肌には触れないと誓う」
「!?」
突然、強い力で抱き締められた。包み込まれる温かさに、涙が込み上げる。
「…お前に、嫌われているわけではなくて、良かった」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
私の狡さを、ヴォルフは責めない。それが、余計に申し訳なくて、苦しくて、でも、だけど、やっぱり、心のどこかで安堵してしまった。彼に拒絶されなかったことを―
頬に当たる、硬い胸当てに手で触れる。
「…トーコ、『アリガトウ』とは、どういう意味だ?」
「え?」
ヴォルフの口から聞こえた懐かしい日本語の響きに、思わず顔をあげる。
「…出会った頃、お前がよく口にしていた。俺は、『アリガトウ』と口にする時の、お前の顔が好きだった」
「!?」
思いがけない言葉。口にしたヴォルフの、懐かしむような眼差しの柔らかさに言葉が出てこない。
―汝、世界を愛せよ
この世界のことを愛することは、決してない。
だけど―
娼館で出会ったシェーンやソフィー。彼女達が死んでもいいとは、もう思えなくなってしまった。それに何より、ヴォルフ。彼にだけは絶対に死んで欲しくない。今、私を見下ろすこの優しい瞳を失いたくはないから。
突然生じた瘴気。今は未だ、聖都を脅かすだけの脅威が、世界に広がりきってしまう、その前に。
守りたいと思う人達のため、私は瘴気を祓う。
かつては、毎日のように歩いていた白一色の回廊。磨きあげられたそこを、今は、ヴォルフと二人、並んで歩く。
「…トーコ」
「…」
足を止めたヴォルフにつられて立ち止まる。こちらを見下ろすヴォルフを見上げた。
「お前が、俺を拒絶し続けるのは、さっきの話のせいか?瘴気のことがあるから、俺を遠ざけたのか?」
「…黙ってて、ごめんなさい」
身近に居てくれたヴォルフが、一番危険だった。ベールや手袋をしていても、弾みで彼に触れてしまっていたかもしれない。その危険を、私はずっと彼に黙っていたのだ。
「…巫女になるつもりがなかったから。情報が足りていないのには気づいたけど、浄化の仕組みについては誰にも言わないつもりだった」
「…」
「ハイロビでヴォルフが見つけてくれた後は、いつかは言わなきゃと思ってて、結局、言えなくて」
ヴォルフに嫌われるのが、避けられるのが、恐かったから。側に居てくれる彼を失いたくなかった。私は卑怯だ。
「言えなかったけど、だけど、何があっても、あなたにだけは触れられたくなかった」
彼を殺してしまうくらいなら―
「…肌には触れないと誓う」
「!?」
突然、強い力で抱き締められた。包み込まれる温かさに、涙が込み上げる。
「…お前に、嫌われているわけではなくて、良かった」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
私の狡さを、ヴォルフは責めない。それが、余計に申し訳なくて、苦しくて、でも、だけど、やっぱり、心のどこかで安堵してしまった。彼に拒絶されなかったことを―
頬に当たる、硬い胸当てに手で触れる。
「…トーコ、『アリガトウ』とは、どういう意味だ?」
「え?」
ヴォルフの口から聞こえた懐かしい日本語の響きに、思わず顔をあげる。
「…出会った頃、お前がよく口にしていた。俺は、『アリガトウ』と口にする時の、お前の顔が好きだった」
「!?」
思いがけない言葉。口にしたヴォルフの、懐かしむような眼差しの柔らかさに言葉が出てこない。
―汝、世界を愛せよ
この世界のことを愛することは、決してない。
だけど―
娼館で出会ったシェーンやソフィー。彼女達が死んでもいいとは、もう思えなくなってしまった。それに何より、ヴォルフ。彼にだけは絶対に死んで欲しくない。今、私を見下ろすこの優しい瞳を失いたくはないから。
突然生じた瘴気。今は未だ、聖都を脅かすだけの脅威が、世界に広がりきってしまう、その前に。
守りたいと思う人達のため、私は瘴気を祓う。
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