召喚巫女の憂鬱

リコピン

文字の大きさ
上 下
64 / 78
第四章 聖都への帰還と決意

7.

しおりを挟む
7.

かつては、毎日のように歩いていた白一色の回廊。磨きあげられたそこを、今は、ヴォルフと二人、並んで歩く。

「…トーコ」

「…」

足を止めたヴォルフにつられて立ち止まる。こちらを見下ろすヴォルフを見上げた。

「お前が、俺を拒絶し続けるのは、さっきの話のせいか?瘴気のことがあるから、俺を遠ざけたのか?」

「…黙ってて、ごめんなさい」

身近に居てくれたヴォルフが、一番危険だった。ベールや手袋をしていても、弾みで彼に触れてしまっていたかもしれない。その危険を、私はずっと彼に黙っていたのだ。

「…巫女になるつもりがなかったから。情報が足りていないのには気づいたけど、浄化の仕組みについては誰にも言わないつもりだった」

「…」

「ハイロビでヴォルフが見つけてくれた後は、いつかは言わなきゃと思ってて、結局、言えなくて」

ヴォルフに嫌われるのが、避けられるのが、恐かったから。側に居てくれる彼を失いたくなかった。私は卑怯だ。

「言えなかったけど、だけど、何があっても、あなたにだけは触れられたくなかった」

彼を殺してしまうくらいなら―

「…肌には触れないと誓う」

「!?」

突然、強い力で抱き締められた。包み込まれる温かさに、涙が込み上げる。

「…お前に、嫌われているわけではなくて、良かった」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

私の狡さを、ヴォルフは責めない。それが、余計に申し訳なくて、苦しくて、でも、だけど、やっぱり、心のどこかで安堵してしまった。彼に拒絶されなかったことを―

頬に当たる、硬い胸当てに手で触れる。

「…トーコ、『アリガトウ』とは、どういう意味だ?」

「え?」

ヴォルフの口から聞こえた懐かしい日本語の響きに、思わず顔をあげる。

「…出会った頃、お前がよく口にしていた。俺は、『アリガトウ』と口にする時の、お前の顔が好きだった」

「!?」

思いがけない言葉。口にしたヴォルフの、懐かしむような眼差しの柔らかさに言葉が出てこない。

―汝、世界を愛せよ

この世界のことを愛することは、決してない。

だけど―

娼館で出会ったシェーンやソフィー。彼女達が死んでもいいとは、もう思えなくなってしまった。それに何より、ヴォルフ。彼にだけは絶対に死んで欲しくない。今、私を見下ろすこの優しい瞳を失いたくはないから。

突然生じた瘴気。今は未だ、聖都を脅かすだけの脅威が、世界に広がりきってしまう、その前に。

守りたいと思う人達のため、私は瘴気を祓う。




しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

婚約者がなぜか妹の主張を信じ込んでしまっていましたが、どうやらそこにはあるものが関係していたようで……?

四季
恋愛
婚約者がなぜか妹の主張を信じ込んでしまっていましたが……?

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

処理中です...