召喚巫女の憂鬱

リコピン

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第二章 巫女という名の監禁生活

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義姉あねと初めて出会ったのは、聖都の路地裏。結界に守護された聖都においても、光の届かない闇の部分は存在する。元から父はおらず、幼くして母を亡くした孤児の生き残れる道は、そんな場所にしか存在しなかった。

幸運だったのは、母と暮らした部屋を追い出されて直ぐ、路地裏に逃げ込んでからいくらも経たない内に、自分を見つけてくれた人が居たこと。

―フリッツね?私はドロテア。あなたの義姉あねよ?

路地裏にうずくまる、薄汚い孤児に過ぎなかった俺を救い上げ、侯爵家の跡取りとなれるよう導いてくれた人。心から慕い、彼女のために、彼女が恥じぬような人生を歩もうと努力し続けた。それは、義姉へのこの想いが、肉親へ向けるものを越えてしまっていると気づいた後も、変わらずに。

だけど―

祭壇への赤い通路。隣を歩く女を見下ろす。ずっと、義姉を煩わし続ける存在として疎んでいた。

―私には、元の世界に姉が居る。もう、二度と会えないだろうけど

考えも、しなかったのだ。この女にも、愛する家族が居るのだと。この女が歩んできた生があるのだと。

わかっていなかったのだ。巫女とはそういうもので、巫女として現れ、世界を救い、巫女を守り導きし者と結ばれる。時に天へ還ることもあると言うが、『天へ還る』その本当の意味など、知ろうともしなかった。

女が足を止めたのに気づき、遅れて、己も足を止めた。目の前で柔和な笑顔を浮かべ、宣誓を行うのは、巫女の守護者の一人でもある神殿の長。

「フリッツ・ケルステン、汝、天の御遣いたる巫女に選ばれし―」

知っていたのだろうか、この男は?自身が信奉する巫女の境遇を、彼女の苦悩をわかっていて、なお、その表情かおを浮かべるのか―

「―終生、その身を巫女に捧げ、巫女の剣となり、盾とならんことを、今、巫女の御前において天に誓いなさい」

「…誓います」

掠れた声。己のものとは思えない声が、口からこぼれ落ちた。巫女を、目の前の女性を妻としてめとる、その意味、その覚悟が、途端、重いものとしてのし掛かってくる。

「…フリッツ殿、巫女様のベールを」

ハイリヒに促され、覚悟も持てぬままに、向かい合う巫女のベールに手をかけた。震えそうになる手を、必死にこらえた。ベールを上げ、現れた姿に、息を飲む。

―巫女とは、このような娘だったか?

ベールを取っても、決して視線の合わない顔を見下ろす。かつて、守護者として初めて対面した際にも目にしていたはずなのに。彼女を、今、初めて目にした気がする。

―こんな、普通の娘、だったのか?

どんな姿を想像していたのかは、自分でもよくわからない。だけど、違うのだ。こんな娘は想像していなかった。もっと、傲慢で、高みからこちらを見下ろしているような、そんな存在を相手にしていたはずなのに。

「巫女とその伴侶との誓いが、今ここに成されました。この場にお立ち会いいただいた皆様、どうか、二人に盛大な祝福を」

鳴り響く楽団の演奏と、参列者達からの祝福の拍手。頭上から撒かれるタチカラの白い花弁が舞っている。それらを、どこか遠くに感じながら、ひどい不安に襲われていた。

―俺は、間違えたのか?

冒してしまったのだろうか。取り返しもつかないような、何か、大きな過ちを――




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