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一章
3 悪役令嬢12歳
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私が、自身への戒めを込めて「スライム事件」と名付けたあの日より二年、己の力不足を、執事としての限界だと思い誤っていたことに気づかされたあの瞬間から、私は生まれ変わった。
私は、ただの執事ではない。お嬢様、いや、我が主、ナディア・シュタイラート様にお仕えすることを許された、唯一の専属執事なのだから─
「…閣下、ジェイク・ヴァイゼ、本日、試練の塔より、二年の研修を経て戻って参りました。」
「ふん。ジェイクか。…二年も好き勝手しおって。アレが許したとて、わしはまだお前を許してはおらぬからな。」
「閣下の意に添えぬ身をお許しください。閣下のご不興は、今後の私のナディア様への忠誠を持って、償いと代えさせて頂ければ、」
「もう良い。そこまで言うなら、お前がアレを連れ戻せ。」
「…は?」
「ナディアめ、フラフラと家を出おって、もう数ヵ月は家に戻っておらん。」
「なっ!?」
「全く、主従揃って、勝手な真似ばかりしおって、」
「お嬢様はっ!?お嬢様はどちらに行かれたのです!?お一人なのですかっ!?供は!?」
到底、信じられぬような当主の言葉に、目眩を覚えた。早鐘のように鳴り響く心の臓。恐怖に、吐き気が込み上げてくる。
「供などおらぬ。サバルへ静養へ行くと出て行ったっきり、帰って来ておらんだけだ。」
「っ!」
「なっ!?おい!待て、ジェイク!アレを迎えに行くのなら…!」
退出の礼さえとらずに部屋を飛び出した。向かうは厩舎、一昼夜を駆ければたどり着く、シュタイラート家の保養地。何故、それだけの近場でありながら、お嬢様を何ヵ月も放っておけるのか。
(っ!あの様子では、安否の確認さえとっていないはず!)
お嬢様─
脳裏に映るは二年前、「試練の塔にて修練したい」という己の我儘に「諾」と応え、「執事の研修の一環だ」と送り出してくれた少女の笑顔。
(何が、試練の塔だ!何が修練だっ!?)
そんなもの、護るべきお嬢様あってのもの。お嬢様の存在無くしては、何の意味も在りはしない。
(やはり、お側を離れるべきではなかった…!)
いくら悔やんでも悔やみきれぬ後悔、サバルへと走らせる馬の上、浮かんでは消える幾つもの想像を必死に振り払う。
(お嬢様…!)
必ず、この手で連れ戻してみせる!
そう、心に誓い、たどり着いたサバルの町。果たして、シュタイラート家の別邸に人気は無く、訪ねた街の食堂で、漸く、お嬢様らしき人物の情報を得た頃には、辺りは既に宵の闇に包まれていた─
「…本当に、間違いないのですね?氷の祠への道を尋ねていた、と?」
「ん?んぁあ、クルクル金髪縦ロールのお嬢様だろぉ?ああ、そうそう、覚えてるよ、ちゃーんとな。あんな頭の女、ちょいとここらじゃ見かけないからなぁ。」
「それで、お嬢様が氷の祠の場所を尋ねに来たというのは、いつ頃のことですか?」
「ん?んー、ありゃあ、三ヶ月くらい前、かなぁ?んー、ああそうだそうだ。ちょうど、マッツルの刈入れ終わった時期だったからなぁ。うん、三ヶ月前で間違いねぇ。」
「三ヶ月…、その後、お嬢様を見かけたりは…?」
「してねぇなぁ。あんだけ目立つ嬢ちゃんだ、見てりゃあ、忘れねぇよ。」
「…」
(お嬢様…!)
男に礼を言い、食堂を後にする。目指すは、ハムナ山、その中腹にあるという氷の祠。かつての英雄、氷結のガロードがその生涯を終えたとされる場所─
(っ!何故、お嬢様はそのような場所へ?一体、お嬢様に何が…)
例えお側に居れずとも、常に把握し続けたお嬢様のスケジュールにあった三ヶ月前の予定は、王太子殿下とのお茶会のみ。週に一度の茶会が間遠になり、昨年は数ヵ月おきになっていたその茶会で、恐らく、何かが─
(申し訳ありません!お嬢様!私が、私がお側を離れたばかりに!)
行き着くのはやはり、己の浅慮に対する後悔、不甲斐なさ。お嬢様に「何か」が起きた時、お嬢様はお一人だった。
押し潰されそうな後悔の念を押し込めて、ひたすらに足を動かせば─
「…ここ、ですか。」
月明かりの下、山の中腹でどうにか見つけることが出来たのは、土が盛られただけに見える小さな穴蔵。だが、確かに感じるのは、そこから漏れ出る濃厚な魔の気配。
(今、お迎えにあがります!)
身を屈めるようにして、穴蔵へと潜った。暫く這った先、徐々に広がる洞窟に、立ち上がり、周囲を見回す。
真の闇に足元をとられぬよう、灯りを一つ浮かべた。深淵のような闇に、一歩、足を踏み入れながら、声を張る。
「お嬢様ー!お嬢様ー!ジェイクです!お助けに参りましたー!何処にいらっしゃるのですかー!?」
響きもせずに闇に飲まれていく自身の声を追って、先へ先へと進む。
どれくらい進んだだろうか。目の前、突如、空間が拓けた。一際濃い魔力が溢れる空間、周囲を照らすべく、幾つもの灯りを浮かべた、そこに見えたのは─
「ああああ!?お、お、お、お嬢様ぁぁぁああああ!!?」
…眠い。寒い。あれ、何だっけ?私、どうしたんだっけ?
─あ、あ、お嬢様、何とお痛わしい。
あー懐かしいなぁ。なんか、ジェイクの声が聞こえる。
─ど、どうすれば、火、火魔法、火魔法の、小さい火、いや、生活魔法、保温?駄目だ、溶けない。
なんか、相変わらずワタワタしてる。可愛いなぁー。
─やっぱり、火、なるべく小さい火で。少しずつ、少しずつ…。…あ
あー、早く、ジェイクに会いたい─
「…ジェイクに…、っ!?ギャアッ!?熱い熱い熱い熱い!!」
「お、お嬢様!?」
「熱い熱い熱い!!何これ何これ何これっ!?」
「も、申し訳ありません!お嬢様!火が強すぎて、ああ!ほ、骨が!?お嬢様の腕、焼け落ちて、骨が!」
「痛い!熱い!無理!コレ、まじで無理!消して消して消して!熱いー!!」
「お!お嬢様っ!」
「あ、…消えた。」
消えた火に唖然としたまま顔を上げれば、覚えていたよりも少し背の高くなったジェイクが目の前に立っていた。
「って、痛い痛い痛い。まだ腕、滅茶苦茶痛い!」
「…お、お嬢様、本当に申し訳ありません。わ、私が、お嬢様を害するなどと。死んで、死んでお詫びを…」
「いや、うん。お詫びしなくていい、しなくて。大丈夫、もう、うん、だいぶ痛くないから、ほら、大丈夫大丈夫。」
「…お嬢様、腕の傷が。元に戻って…」
「うん。そう、私は平気。だからジェイク、ジェイクは簡単に『死ぬ』とか言っちゃ駄目だからね。」
「…申し訳、ありません。」
「うん。もういいよ。氷溶かして、私を助けようとしてくれたんでしょ?それより、お帰りジェイク。凄い久しぶり。なんか、ジェイクに会えてホッとした。」
「お嬢様っ!!」
感極まったように目を潤ませるジェイクを見て、ああ、本当にジェイクなんだなとしみじみした。そして、思い出す現実。
「えっと、私が家出てからどれくらい経ってる?ジェイクは知ってる?」
「…少なくとも、三ヶ月程は…」
「あー、マジかー。しまった、失敗した。」
「…そもそも、お嬢様は何故、このようなことに?…その、何故、このような場所で氷像になど成っておられたのですか?」
「いやー、成りたくて成ったんじゃなくて、事故だよ事故。凍ってたのはコレのせい。」
「コレ?」
「魔剣。」
「…」
魂が抜けたみたいになっちゃったジェイクが見えやすいよう、手にした剣を目の前に差し出してみる。
「これをね、こう、台座から抜こうとしたら、鞘が残って剣だけ抜けちゃったんだよね。そしたら、一気に凍っちゃって。そういうことは最初にさー、ねえ?」
「…何故、魔剣などに手を出されたのです…?そんな、危険なものに…」
「んー、いや、どうやっても婚約は解消出来ないみたいだからさー。ここは、ギャレン様に取り入る方向でいってみようと思って、ギャレン様に誕プレ何が欲しい?って聞いたら、『魔剣』って言われたから。」
「…」
「でも、失敗したなぁ。ギャレン様の誕生日、一ヶ月も過ぎちゃってる。」
これはもう、好感度マイナスの所業だなと、帰ってからの我儘王子様の反応を覚悟した。
「…申し訳ありません。私が、己の修練なんぞにかまけていたばかりに。もっと早く、お嬢様をお迎えにあがるべきでした。」
「え?いやいや、何言ってるの。ジェイクじゃなきゃ、私を見つけ出すのも無理だったよ。あ!それに魔法!魔法も使えるようになってんじゃん!すごいすごい!」
「…恐れ、入ります。…と言いましても、未だ習得したのは基礎の基礎。上位魔法の氷魔法を火魔法でどうにかしようなどと…無茶をして、お嬢様を傷つけてしまいました。本当に、」
「はい、ストップストップ。それはもう、大丈夫だって言ったでしょう?これ以上は言わないで、気にしないで。ね?」
「…はい。承知致しました。」
(相変わらず真面目というか、愚直というか。)
二年の間に、更に身長差の広がったジェイクを見上げて思う。
(魔法を二年で習得して、おまけに上位魔法を下位魔法で破ったんだから、相当凄いことしてると思うんだけどね…)
謙虚でひた向き。それを自分に向けてくれる年上の執事に向かって笑う。
「よし!それじゃ、取り敢えず、帰ろうか?」
「…お嬢様、魔剣を持ち帰るのですか?」
「ん?ああ、ジェイクのおかげで台座の氷溶けて、鞘が抜けたから。」
「しかし、人を一瞬で凍らす魔剣など、危険ではありませんか?」
「大丈夫、鞘から抜かなきゃ余裕だし。それに、ほら、ね?ちょーっと抜いて、サッと戻せば涼しい風が。夏には最高のクールアイテム!あ!かき氷とかも作れちゃうかも!」
「…」
(なんて…)
英雄ガロードの遺品である魔剣を、流石にそんなことに使うのはどーかなーと私も思った。
思ったから、来ましたよ王宮。献上しようとしましたよ魔剣。ギャレン様に。
だけど─
「いらん、そのようなもの。」
「…遅くなってしまいましたが、誕生日の贈り物のつもりでご用意したもので、」
「いらんと言っている。…多くの罪無き者達の命を犠牲にしてまで手に入れた魔剣など、俺は受け取らぬ。…貴様は、そこまでして、私に阿りたいか?」
「え…?」
言って、クルッて背を向けたギャレン様はマントを靡かせて去っていかれた。残された私、周囲からは魔剣も真っ青な冷た~い視線を向けられて─
(えーっ!?)
欲しいって言ったのギャレン様じゃん。ていうか、命を犠牲って何だ??私は一応、ギリ、生還してるから、誰も犠牲にはなってない、んだけどな?
私は、ただの執事ではない。お嬢様、いや、我が主、ナディア・シュタイラート様にお仕えすることを許された、唯一の専属執事なのだから─
「…閣下、ジェイク・ヴァイゼ、本日、試練の塔より、二年の研修を経て戻って参りました。」
「ふん。ジェイクか。…二年も好き勝手しおって。アレが許したとて、わしはまだお前を許してはおらぬからな。」
「閣下の意に添えぬ身をお許しください。閣下のご不興は、今後の私のナディア様への忠誠を持って、償いと代えさせて頂ければ、」
「もう良い。そこまで言うなら、お前がアレを連れ戻せ。」
「…は?」
「ナディアめ、フラフラと家を出おって、もう数ヵ月は家に戻っておらん。」
「なっ!?」
「全く、主従揃って、勝手な真似ばかりしおって、」
「お嬢様はっ!?お嬢様はどちらに行かれたのです!?お一人なのですかっ!?供は!?」
到底、信じられぬような当主の言葉に、目眩を覚えた。早鐘のように鳴り響く心の臓。恐怖に、吐き気が込み上げてくる。
「供などおらぬ。サバルへ静養へ行くと出て行ったっきり、帰って来ておらんだけだ。」
「っ!」
「なっ!?おい!待て、ジェイク!アレを迎えに行くのなら…!」
退出の礼さえとらずに部屋を飛び出した。向かうは厩舎、一昼夜を駆ければたどり着く、シュタイラート家の保養地。何故、それだけの近場でありながら、お嬢様を何ヵ月も放っておけるのか。
(っ!あの様子では、安否の確認さえとっていないはず!)
お嬢様─
脳裏に映るは二年前、「試練の塔にて修練したい」という己の我儘に「諾」と応え、「執事の研修の一環だ」と送り出してくれた少女の笑顔。
(何が、試練の塔だ!何が修練だっ!?)
そんなもの、護るべきお嬢様あってのもの。お嬢様の存在無くしては、何の意味も在りはしない。
(やはり、お側を離れるべきではなかった…!)
いくら悔やんでも悔やみきれぬ後悔、サバルへと走らせる馬の上、浮かんでは消える幾つもの想像を必死に振り払う。
(お嬢様…!)
必ず、この手で連れ戻してみせる!
そう、心に誓い、たどり着いたサバルの町。果たして、シュタイラート家の別邸に人気は無く、訪ねた街の食堂で、漸く、お嬢様らしき人物の情報を得た頃には、辺りは既に宵の闇に包まれていた─
「…本当に、間違いないのですね?氷の祠への道を尋ねていた、と?」
「ん?んぁあ、クルクル金髪縦ロールのお嬢様だろぉ?ああ、そうそう、覚えてるよ、ちゃーんとな。あんな頭の女、ちょいとここらじゃ見かけないからなぁ。」
「それで、お嬢様が氷の祠の場所を尋ねに来たというのは、いつ頃のことですか?」
「ん?んー、ありゃあ、三ヶ月くらい前、かなぁ?んー、ああそうだそうだ。ちょうど、マッツルの刈入れ終わった時期だったからなぁ。うん、三ヶ月前で間違いねぇ。」
「三ヶ月…、その後、お嬢様を見かけたりは…?」
「してねぇなぁ。あんだけ目立つ嬢ちゃんだ、見てりゃあ、忘れねぇよ。」
「…」
(お嬢様…!)
男に礼を言い、食堂を後にする。目指すは、ハムナ山、その中腹にあるという氷の祠。かつての英雄、氷結のガロードがその生涯を終えたとされる場所─
(っ!何故、お嬢様はそのような場所へ?一体、お嬢様に何が…)
例えお側に居れずとも、常に把握し続けたお嬢様のスケジュールにあった三ヶ月前の予定は、王太子殿下とのお茶会のみ。週に一度の茶会が間遠になり、昨年は数ヵ月おきになっていたその茶会で、恐らく、何かが─
(申し訳ありません!お嬢様!私が、私がお側を離れたばかりに!)
行き着くのはやはり、己の浅慮に対する後悔、不甲斐なさ。お嬢様に「何か」が起きた時、お嬢様はお一人だった。
押し潰されそうな後悔の念を押し込めて、ひたすらに足を動かせば─
「…ここ、ですか。」
月明かりの下、山の中腹でどうにか見つけることが出来たのは、土が盛られただけに見える小さな穴蔵。だが、確かに感じるのは、そこから漏れ出る濃厚な魔の気配。
(今、お迎えにあがります!)
身を屈めるようにして、穴蔵へと潜った。暫く這った先、徐々に広がる洞窟に、立ち上がり、周囲を見回す。
真の闇に足元をとられぬよう、灯りを一つ浮かべた。深淵のような闇に、一歩、足を踏み入れながら、声を張る。
「お嬢様ー!お嬢様ー!ジェイクです!お助けに参りましたー!何処にいらっしゃるのですかー!?」
響きもせずに闇に飲まれていく自身の声を追って、先へ先へと進む。
どれくらい進んだだろうか。目の前、突如、空間が拓けた。一際濃い魔力が溢れる空間、周囲を照らすべく、幾つもの灯りを浮かべた、そこに見えたのは─
「ああああ!?お、お、お、お嬢様ぁぁぁああああ!!?」
…眠い。寒い。あれ、何だっけ?私、どうしたんだっけ?
─あ、あ、お嬢様、何とお痛わしい。
あー懐かしいなぁ。なんか、ジェイクの声が聞こえる。
─ど、どうすれば、火、火魔法、火魔法の、小さい火、いや、生活魔法、保温?駄目だ、溶けない。
なんか、相変わらずワタワタしてる。可愛いなぁー。
─やっぱり、火、なるべく小さい火で。少しずつ、少しずつ…。…あ
あー、早く、ジェイクに会いたい─
「…ジェイクに…、っ!?ギャアッ!?熱い熱い熱い熱い!!」
「お、お嬢様!?」
「熱い熱い熱い!!何これ何これ何これっ!?」
「も、申し訳ありません!お嬢様!火が強すぎて、ああ!ほ、骨が!?お嬢様の腕、焼け落ちて、骨が!」
「痛い!熱い!無理!コレ、まじで無理!消して消して消して!熱いー!!」
「お!お嬢様っ!」
「あ、…消えた。」
消えた火に唖然としたまま顔を上げれば、覚えていたよりも少し背の高くなったジェイクが目の前に立っていた。
「って、痛い痛い痛い。まだ腕、滅茶苦茶痛い!」
「…お、お嬢様、本当に申し訳ありません。わ、私が、お嬢様を害するなどと。死んで、死んでお詫びを…」
「いや、うん。お詫びしなくていい、しなくて。大丈夫、もう、うん、だいぶ痛くないから、ほら、大丈夫大丈夫。」
「…お嬢様、腕の傷が。元に戻って…」
「うん。そう、私は平気。だからジェイク、ジェイクは簡単に『死ぬ』とか言っちゃ駄目だからね。」
「…申し訳、ありません。」
「うん。もういいよ。氷溶かして、私を助けようとしてくれたんでしょ?それより、お帰りジェイク。凄い久しぶり。なんか、ジェイクに会えてホッとした。」
「お嬢様っ!!」
感極まったように目を潤ませるジェイクを見て、ああ、本当にジェイクなんだなとしみじみした。そして、思い出す現実。
「えっと、私が家出てからどれくらい経ってる?ジェイクは知ってる?」
「…少なくとも、三ヶ月程は…」
「あー、マジかー。しまった、失敗した。」
「…そもそも、お嬢様は何故、このようなことに?…その、何故、このような場所で氷像になど成っておられたのですか?」
「いやー、成りたくて成ったんじゃなくて、事故だよ事故。凍ってたのはコレのせい。」
「コレ?」
「魔剣。」
「…」
魂が抜けたみたいになっちゃったジェイクが見えやすいよう、手にした剣を目の前に差し出してみる。
「これをね、こう、台座から抜こうとしたら、鞘が残って剣だけ抜けちゃったんだよね。そしたら、一気に凍っちゃって。そういうことは最初にさー、ねえ?」
「…何故、魔剣などに手を出されたのです…?そんな、危険なものに…」
「んー、いや、どうやっても婚約は解消出来ないみたいだからさー。ここは、ギャレン様に取り入る方向でいってみようと思って、ギャレン様に誕プレ何が欲しい?って聞いたら、『魔剣』って言われたから。」
「…」
「でも、失敗したなぁ。ギャレン様の誕生日、一ヶ月も過ぎちゃってる。」
これはもう、好感度マイナスの所業だなと、帰ってからの我儘王子様の反応を覚悟した。
「…申し訳ありません。私が、己の修練なんぞにかまけていたばかりに。もっと早く、お嬢様をお迎えにあがるべきでした。」
「え?いやいや、何言ってるの。ジェイクじゃなきゃ、私を見つけ出すのも無理だったよ。あ!それに魔法!魔法も使えるようになってんじゃん!すごいすごい!」
「…恐れ、入ります。…と言いましても、未だ習得したのは基礎の基礎。上位魔法の氷魔法を火魔法でどうにかしようなどと…無茶をして、お嬢様を傷つけてしまいました。本当に、」
「はい、ストップストップ。それはもう、大丈夫だって言ったでしょう?これ以上は言わないで、気にしないで。ね?」
「…はい。承知致しました。」
(相変わらず真面目というか、愚直というか。)
二年の間に、更に身長差の広がったジェイクを見上げて思う。
(魔法を二年で習得して、おまけに上位魔法を下位魔法で破ったんだから、相当凄いことしてると思うんだけどね…)
謙虚でひた向き。それを自分に向けてくれる年上の執事に向かって笑う。
「よし!それじゃ、取り敢えず、帰ろうか?」
「…お嬢様、魔剣を持ち帰るのですか?」
「ん?ああ、ジェイクのおかげで台座の氷溶けて、鞘が抜けたから。」
「しかし、人を一瞬で凍らす魔剣など、危険ではありませんか?」
「大丈夫、鞘から抜かなきゃ余裕だし。それに、ほら、ね?ちょーっと抜いて、サッと戻せば涼しい風が。夏には最高のクールアイテム!あ!かき氷とかも作れちゃうかも!」
「…」
(なんて…)
英雄ガロードの遺品である魔剣を、流石にそんなことに使うのはどーかなーと私も思った。
思ったから、来ましたよ王宮。献上しようとしましたよ魔剣。ギャレン様に。
だけど─
「いらん、そのようなもの。」
「…遅くなってしまいましたが、誕生日の贈り物のつもりでご用意したもので、」
「いらんと言っている。…多くの罪無き者達の命を犠牲にしてまで手に入れた魔剣など、俺は受け取らぬ。…貴様は、そこまでして、私に阿りたいか?」
「え…?」
言って、クルッて背を向けたギャレン様はマントを靡かせて去っていかれた。残された私、周囲からは魔剣も真っ青な冷た~い視線を向けられて─
(えーっ!?)
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