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第30話 礼拝

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「――――――理の女神に感謝を!」

 長いお祈りが終わると、両手を広げて声を上げると、真っ白な聖職者の服に身を包む中年の男が、祭壇から多くの信者を見下ろした。

 信者達は「感謝を!」と声を上げ、一人ずつ祭壇の前にある箱に何かを入れ始めた。

 遠くからでもその光が硬貨の光だと分かる。

 現在、『理の教団』による礼拝が終わったところだ。

 聞いていた通り、お金を要求しているんだな。

 言い換えれば、女神に届けるお金なので、信者達の心が込められているなら俺がとやかく言うべきではない。

 ただし、それが偽装・・なら話は別だ。

「ああ~アルハマラン王国の信者達に光あらん事を~!」

 うん。

 俺がとやかく言うべきではない……。

「女神からの祝福が其方達に降り注ぐであろう~!」

 …………。

 …………。

「アルキバガン森から始まった呪いがエンガリア森に移ったのは他でもない! 理の女神に祈りを捧げ感謝を捧げる人が減ったからなのだ~! さあ、信者達よ! 人々のため、女神に感謝を捧げるのだ!」

 胡散臭い…………。

 どうしても彼が言っている事が全く信用ならない。

 でも何かしらの理由があるから信者達は信じると思うんだけど……。

 その時、空からキラキラした光が舞い降りた。

「「「おおお~! 奇跡だ~!」」」

 それは確かに奇跡と言われても信じるくらい美しい光だった。

 それに――――――

「あれは間違いなく奇跡だね」

「そうなのか?」

 隣でそう話すシャリー。

 あの光がただの光ではない事は見た目だけでも分かるのだが、手のひらに降りて来た光は何だか暖かい気持ちにさせてくれる。

「なんらかの祝福が降り注いでいるね。これは女神の力と言われても納得するかな~触れただけで暖かいでしょう? たぶん回復・・の効果も持っていると思う」

「回復か…………」

「これだけ広範囲に回復の光が降るなんて、奇跡にも等しいんだと思うよ?」

 命が軽いこの世界で、回復という手段は奇跡にも等しいんだろうと思う。

 基本はポーションか回復魔法だと聞いている。

 でもポーションは高額であるから、誰でも簡単に使う事ができないとなると、回復魔法だけど、それも難しいという。

 なのに回復効果を持つ光を簡単に降らせたら、誰でも簡単に規制できると信じるのは無理もない。

 ふと、道しるべの地図を見つめる。

 目の前の聖職者は何故か赤色に表記されていて、既に敵認定だ。

 これで敵意がなくても俺が敵として意識しただけで敵認定できるのが分かる。

 さらに、後方に赤い点が無数に集まっていた。

 ただ一つだけ気になるとしたら、そこに青い光が一つ見えている事。

 どうして囲まれているのかが気になる。

 それに物々しさが伝わってくるのが、さらに気になる。

 暫く彼らの動向を見ながら礼拝が終わるのを待った。

 礼拝が終わり、信者達からたっぷり礼金を貰った聖職者が必死に笑みを我慢しているのが見える。

 それだけで彼は怪しい。

 でも奇跡が降り注いだのは事実だ。

 その秘密を何とか探りたいのだが、今のところ証拠がない。

 だからこそここまで待ったのだ。

 信者達がいなくなった礼拝堂で、聖職者が不思議そうな顔で俺とシャリーを見つめる。

 どうして君達はお金を出さないのか? と言わんばかりの視線だ。

 目がドールマークになっている気がする。

「初めまして。神父様。俺はアルマといいます。こちらはシャリーです」

「女神様の祝福があらんことを~」

「ありがとうございます」

 そして、やっぱり早くお金を出せという視線を送ってくる。

「神父様。一つ聞きたい事があるのですが、よろしいですか?」

「うむ? 構わないぞ?」

「さっきの演説の時の事ですが、アルキバガン森の呪いの事を話されていましたよね?」

「もちろんだとも~王都の隣に広がっている聖域アルキバガン森はいま呪いに掛かっていて、豊富だった植物が取れなくなっているからね~」

 もちろんそれは知っているつもりだ。何せ元凶だしな。

「実はその呪いはもうないんですけど、ご存知でしょうか?」

「……はあ?」

「実はその呪いはもうなくなったので、植物が取れちゃうんですよ」

「何を急に! あの森は今でも呪いに掛かっておる! それに隣の森にまでその被害が広がっているのじゃ!」

「実はその呪いももうなくなったんですよ~」

「なんだと!? そ、そんなはずは…………」

「証拠を見せても構いませんよ? 今から冒険者ギルドに向かって事実を説明しようと思ってました」

 俺のツッコミに聖職者は面白い表情を浮かべて睨んできた。
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